第十一話、目覚め

文字数 1,155文字

 音がした。

 蠅の群れが耳の穴で暴れ回るような、耳障りな音が繰り返し聞こえた。


「なんだこの音」


 エドワードは辺りを見渡した。耳障りな甲高い音がした。


「警報装置の音だね」


 イーサンは、何かを探すように懐中電灯で辺りを照らした。 


「警報器にひっかかったってことか」


「どこにそんなもんあったんだ」


「この鏡か」


 イーサンは懐中電灯の光を鏡に当てそらした。それを何度か繰り返した。


「その鏡がどうした」


 玄関の近くの壁に姿見の鏡が立てかけられていた。


「鏡に光を当てると、うっすらとだが魔術紋が浮き上がった。おそらく、鏡に強い光を当てると、音が出る仕組みになっているのだろう。吸血鬼は懐中電灯なんて使わないからね。良くできている」


「感心している場合かよ。吸血鬼が目を覚ましちまうぜ」


 エドワードは懐中電灯で辺りを照らした。照らされた部分は明るく、廊下の曲がり角には暗闇が広がっていた。


「もう、目を覚ましているようだ」


 ざわりと、うなじが総毛立った。








 ジェフリー・グレンは背中から引きずり込まれるような眠気を感じながらも、起き上がった。地下室、ベットの上、暗闇の中、よく見えた。


「この音、警報装置、誤作動、ではないな、誰か、いるのか」


 耳をすませた。人の歩く音、何かが割れる音がした。警報装置の音が消えた。


「鏡を、壊したか」


 最悪の事態だった。鏡に仕掛けられた警報装置を見つけ出し壊すということは、それ相応の知識と目的を持っているということだ。つまり、侵入者は、ジェフリー・グレンが吸血鬼であることを知っており、昼間寝ているジェフリー・グレンを殺しに来た人間であるということになる。


「にげ、ないと」


 体は重く、日差し一つ無いというのに肌がひりつくような感覚があった。

 地下室の角に排水口がある。そこに、人一人這い出るぐらいの穴があり、降りると下水溝へ繋がっている。

 服を着替え、下水構内の地図などが入ったバックを手に、排水溝のふたを開け、狭い穴に潜り込んだ。二メートルほど下に降りると横穴があった。体を曲げ横穴に入り、しばらく進むと下水溝へと出る穴があるはずだった。


「ない」


 穴が鉄板でふさがれていた。

 一体誰が、少しパニックになりながら、ジェフリー・グレンは鉄板を押したがびくともしなかった。


「残念ですが、そこは行き止まりですぜ」


 鉄板の向こうから声が聞こえた。


「誰だ」


「吸血鬼対策課と言えば、わかるでしょう。おたくらの天敵、と自称しておりやす」


「なんだって」


 こんなところにまで手を回しているのか。


「あんたが、どれだけの命を奪ってきたか知りませんが、ここは出口の無い雪隠詰め、あきらめてくだせぇ」


 笑い声を上げた。


「くそ!」


 ジェフリー・グレンは鉄板を叩いた。拳の皮が剥け骨が見えるほど叩いたが、鉄板はびくともしなかった。
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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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