第二十五話、通報者
文字数 1,447文字
イーサンとエドワードは、一通りポーラ・リドゲードが潜伏していたマンションとその周辺を調べた後、ポーラ・リドゲードを通報した向かいのマンションに住んでいた老婦人の元を尋ねていた。
イーサンとエドワードは、カーター夫人と向かい合って座っていた。テーブルには白い陶磁器に入った紅茶とクッキーがあった。
「いいえ、会って話したことはなかったわ。窓から見ていただけよ。ときどき、ガス灯の明かりの中を、ふふっ、今思い返せば、ずいぶんと歩くのが速かった気がするわね。あの時代、夜中に女性が一人で出歩くなんて、とんでもないことだったのよ」
声を潜めた。
「ええ、しかも、私と同じぐらいの年頃の、当時のね。私が女学生だった頃の話よ。十代の女の子に見えたわ。月に、二、三度ぐらいかしら、毎晩外を眺めていたわけじゃないから、わからないけど、やっぱりあれかしら、血を吸いにいってたのかしら」
カーター夫人は部屋を見渡した。古いダイニングテーブル、食器棚に写真立てがいくつか飾ってあった。古いが整えられていた。
カーター夫人は驚いたような顔をした。
目をそらした。二、三ヶ月、月に一人ほど、吸血鬼は血を吸う。
イーサンとエドワードは頭を下げた。
少し笑う。
カーター夫人は、何度も避難を呼びかけたが、それに応じず。マンション二階の自室にて、戦術班の突入から、ポーラ・リドゲードの逃走まで見続けていた。
警察に通報した報復に、襲われかねない。
笑った。
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