第十四話、杭と男
文字数 2,023文字
レイヴァン・アスカルは少し悩んでいた。
あまり人と話すことはない。人里に降りてくるのは月に数度、食事の時か、買い物をするときだけだ。その時だってほとんどしゃべらない。人間と話す必要性などないのだ。そんな生活をもう五十年は続けている。
そもそも、話が通じるのだろうか。
高い塀に、広い庭、門の入り口近くに建てられた小屋の中には複数の男の気配がする。ボディガードのたぐいではないかと推測していた。火薬の匂い、それから古い血の臭いがする。この辺りを縄張りとするギャングの屋敷である。
話すとしたら、ギャングのボスなのだが、レイヴァン・アスカルは顔を知らない。ギャングの下っ端を捕まえて話を聞き、この家を教えてもらっただけだ。
あまり悩んでいると、夜が明けてしまう。
レイヴァン・アスカルは吸血鬼である。
ベットの上に、木の杭が胸に刺さった男の死体があった。
エドワード・ノールズは鼻をつまんだ。蠅の羽音と腐臭がする。
ミグラス市警殺人課の刑事のトム・ターナーが言った。
トム・ターナーはのぞき込むように見つめた。
イーサン・クロムウェルが言った。
エドワードは杭うち銃を撃つ構えをした。
軽く笑った。
イーサン・クロムウェルは部屋の東側にある窓に近づいた。カーテンが少し開いており、窓の外にある雨戸は閉められていなかった。
昼間、サイモン・ローリーは夜勤警備が終わった後、眠っている最中に殺されている。
トム・ターナーは窓を見ながら応えた。
病院や商社の警備員の仕事をしていた。
「いくつかあるが、夜勤の警備員を吸血鬼だと思い込んで、杭を打ち込んだりするほど、常軌を逸してはいないとは思う。いくら夜勤の警備員だからといって、昼間出歩くこともあっただろうし、少し確認すれば人間であることはわかるはずだ。怨恨の線はないのか」
トム・ターナーは、あごで、ベット上で死んでいるサイモン・ローリーを示した。目を大きく見開き、口が叫ぶように開いている。腐敗も進んでいる。
茶色い繊維のようなものが右人差し指の爪に挟まっていた。
被害者が抵抗している状態で一人で杭を打つのは難しい。
エドワードは部屋を見渡した。ベットとテーブル、衣装ダンスがあり、部屋の隅にはビールの空き瓶が数本あった。至って普通の独身男性の部屋である。
イーサンは肩をすくめた。
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