第二十六話、ポーラ、家

文字数 1,200文字

 戦争により住んでいた家を失ったブレアとポーラは、町から遠く離れた山の中腹にあるブレア所有の家で暮らしていた。ブレアに「家にくるかい」といわれ、他に行くところが思いつかないポーラは「うん」と答えた。

 ブレアは昼間は寝ていて、夜になると起きた。暗くなると眠くなるポーラは、眠い目をこすりながら。


「どうして、いつもお昼は寝ているの?」


 と、尋ねた。


「吸血鬼だから、太陽の光に当たると死んじゃうんだよ」


 ブレアは答えた。


「大変だね」


「そうだよ。大変だよ」


 笑った。



 一年ほど時が経った。

 ポーラの住んでいた国の名前が変わった。それに不満を持った人達が、小さな反乱を起こし、また別の国が関わり、戦渦は広がっていった。

 ポーラは、夕方に目を覚ます。家の中の魔灯に灯をともし、家の掃除をする。しばらくすると、ブレアが起きてくる。おはようと挨拶をする。ブレアはソファに座り、本を読む。ポーラは、食事の支度をし、一人で食べる。食事を終えてかたづけた後、ブレアの横に座り一緒に本を読む。わからない単語を教えてもらいながら、いろんな話をした。ブレアは五百年以上生きている。様々な国やその国の歴史を知っていた。それを教わるのが楽しみだった。

 必要な物があるときは、ブレアが買い出しに出たが、二人で買い出しに行くこともあった。山から離れた町まで、ブレアはポーラを抱えて夜の空を飛んだ。月明かりに山の木々が流れていく、ポーラの小さな足で歩いたら何日もかかるような距離を、あっという間に飛び越えた。

 町の、人気のない場所に着陸する。ブレアとポーラを包んでいた黒いもやのようなものが、薄くなり、剥がれるように消える。人の目に見ないように、ブレアがかけていた魔法だ。店はぽつぽつと開いていた。ブレアと手をつなぎ、買い物を楽しむ。戦時中ということもあり、物の値段は上がっていたが、ブレアはあまり気にしていないようだった。さすが五百歳だ。ポーラは感心した。



 共に暮らすようになって七年ほど経った。

 戦争は終わり、遠くの方へ流れていった。ポーラは背が伸び大人になっていた。ブレアとの生活はあまり変わらず、穏やかに暮らしていた。

 十八になったとき、ポーラは、ブレアに、自分を吸血鬼にしてくれと頼んだ。

「いいよ」


 とブレアはいつもと変わらない様子で答えた。



 ブレアの血が、ポーラに流れ込む。立っていられなくなり膝をつく。体の奥で、熱がほどけ拡散していく。しばらくじっとしていると、熱が収まり体が冷えた。立ち上がると、体が浮くような感覚がした。


「気分はどうだい」


 ブレアは疲れた様子で言った。

「とても、良い気分、すごく体が軽い。何だってできそうよ」


 軽くジャンプすると、天井まで頭がつきそうになった。鏡を見た。鏡に映る姿は、人間の頃とまるで変わらなかった。


「そばかすは、治らないのね」


 ポーラが鏡に顔を近づけ、残念そうに言うと、ブレアは笑った。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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