第十九話、引っ越し準備
文字数 1,540文字
夜、レイヴァン・アスカルは町に出た。マローファミリーの事務所に行ってみたが、人はいなかった。外にいるかもしれないと、夜の町をしばらく歩いたが、誰がマローファミリーの人間なのか皆目見当がつかなかった。
人の匂いは徐々に、山にあるレイヴァン・アスカルの住処に近づいていた。ギャングの狙いがレイヴァン・アスカルであることは明確だった。昼間、レイヴァン・アスカルの住処を探し、夜はどこかへ雲隠れしている。そう考えていた。
住処が見つかってしまえば、吸血鬼は圧倒的に不利になる。城持ちの吸血鬼なら別だが、ただ隠れているだけの吸血鬼では、日中の守りは手薄い。口惜しいが、引っ越すしかなかった。
だが、その前に。
少しばかり反撃をしておきたい。
そう考えていた。
夜、イーサンとエドワードはデラウェンの宿屋に泊まっていた。
イーサンはオーガスの事務所に強力な魔力を持つ者があらわれた際、反応する呪符を仕掛けておいた。その呪符が、イーサンに吸血鬼の訪れを知らせた。
オーガスは難色を示したが、夜の町にも顔を出すなと言っておいた。
エドワードは両腕を抱え震えるふりをした。
吸血鬼の顔を見て生き残ったギャングの話を聞き似顔絵を描かせた。
エドワードはあくびをした。
朝、白骨が発見された場所を中心に捜査を進めた。人が歩いたような痕跡や、枝が何かに当たって折れたような痕跡があった。
イーサンは魔力を検知できるコインを手にしながらいった。少し開かれた場所にある岩場の斜面を見つめている。
エドワードは辺りを見渡した。日差しが悪く、岩場で樹木はあまり生えていなかった。
イーサンは岩場を見つめた。手に持っていた杖を岩に近づけた。杖の先端が岩に吸い込まれた。
エドワードは驚きの声を上げた。
よく見ると、岩の色合いに不自然な点があった。
しばらく、周辺を調査した後、撤収した。
夜、レイヴァン・アスカルは住処の洞窟の前で複数の人間の匂いがすることに気づいた。
入り口の前には幻覚の魔術をかけていた。二十年ほど前に知り合いの吸血鬼から教えてもらった術だ。
洞窟内には入っていないようだった。入り口に気づいて入らなかったのか、それともただ単に気づかなかったのか。匂いは入り口周辺で、しばらくとどまっていた。入り口の幻術に気づいたが罠を警戒して入らなかったと考えるのが妥当なのだろう。
洞窟内に罠は仕掛けていない。
ギャング相手に罠など必要ない。洞窟の奥まで入ってもらって、入ってきたギャングどもを殺し、何人か生きたまま捕らえ情報を引き出す。レイヴァン・アスカルはそう考えていた。
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