第七話、老婦人の家

文字数 1,511文字

「どうだ。吸血鬼は見つかったか」


 イーサンとエドワードがミグラス市警殺人課を尋ねると、トム・ターナーは疲れた顔をしながら迎えた。


「いや、まだだが、可能性がある話が出てきた」


 イーサンはチャック・ケードの事件について話した。


「ほう、あの事件がね。こいつは驚いた」


「人ごとみたいな言い方だな。ちゃんと捜査したのか」


 エドワードは不快そうな顔をしながらいった。


「したさ、死んだのがホームレスだから手を抜いたわけではないよ。まぁ、犯人が吸血鬼だとは思わなかったけどね」


 トム・ターナーは特に動じた様子もなく言った。


「まだ可能性の段階だよ。推測の域を出ていない」


 イーサンは、行方不明者の中に被害者が居る可能性について話した。

「だが、行方不明者となると、かなり数が多くなるぞ。この辺りは出稼ぎの労働者が多い。しかも、倒産騒ぎで、失業者もずいぶんでている」


「いや、労働者は探していない。それよりも弱者だ。老人や子供、女性といった肉体的に非力な人間を探している。病人も良い。四月の上旬チャック・ケードが殺された前後の時期だ」


「わかった。係のものに調べさせよう。いっとくが、これ以上手伝えないぞ」


 トム・ターナーは疲れた表情でディスクを見た。書類が山積みになっていた。







 該当する行方不明者が三件ほど見つかった。うち一件は、十六歳の少女で二つ上のボーイフレンドの家にいることがわかった。家族の元に連れて帰ると泣いて感謝された。他の二件は、どちらも老人だった。

 そのうちの一件、チャック・ケードが殺された橋から、一キロほど離れた住宅で一人暮らしをしていたエレン・フィッシャーという名の八十一歳の老女の家に二人は向かっていた。

 家族はおらず、親戚から捜索願が出されていた。郵便がたまっているのを見て、近所の人間が役所に相談し、役所が親戚に連絡した。五月の初めのころである。


「一人暮らしの老人か。私も人ごとじゃないね」


 イーサンは白い髪をかきながら言った。


「あんた親戚とかいるのか」


 エドワードは少し笑いながら言った。イーサンは九百年間吸血鬼をやっていた。


「私の場合、少し複雑だが、遠い親戚が、国王をやっているよ」


「まじか」


 エドワードは驚いた表情をした。




 薄汚い通りだった。たばこの吸い殻、紙くず、空き瓶、ゴミが道の端にたまっていた。白い石造りの小さな家だけは不思議と澄んでいた。


「ここか」


 行方不明の老人であるエレン・フィッシャーの家である。夫のヘンリー・フィッシャーは十年前に亡くなっている。以来一人暮らしである。


「なんか小ぎれいな家だな」


 エドワードは辺りを見ながら言った。庭の樹木や雑草は生い茂っていたが、二階建ての白い家は品があった。


「手入れを欠かさなかったのだろう」


「俺んとこの、ぼけてたばあちゃんの家は、もっとむちゃくちゃだったな。エレンさんは、頭の方はしっかりしてたってことか」


「近所の人も、年の割にしっかりとした人だったと言っている。ぼけていたという話はない。付近の病院や福祉施設を調べたそうだが、エレン夫人はみつからなかったそうだ」


「生きていてほしいね」


「私は、どちらでもいいと思っているよ」


「つめてぇなぁー」


 エドワードは眉をひそめた。


「中を調べよう。鍵は預かっている」


 鍵を開け家の中に入った。

「それで、何を調べればいいんだ」


 時々、エレン夫人の親戚が様子を見に来ているらしく、家の中は、それほど汚れていなかった。


「もし吸血鬼の犯行だとすると、どこかに血を吸った痕跡が残っているはずだ。どこかへ連れて行くような力はなかっただろう。床を中心に調べてくれ」


「わかった。俺は二階の方を調べてくるわ」


「頼んだ」


 二手に分かれた。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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