第十八話、山狩り

文字数 1,745文字

 デラウェンに戻り、山にいるであろう吸血鬼の捜索を手伝ってほしいと、オーガスに頼んだところ、オーガスは、二つ返事で引き受けた。


「やられるのを待っているより、やりに行った方がいい」


 懐に忍ばせている拳銃を握りながら言った。


 次の日、オーガスは手下を五十人ほど、かき集め、馬車に乗ってピリオーネまで来た。


「わかっているとは思うが、間違っても、自分たちで吸血鬼を滅ぼそうなんてするんじゃねぇぞ」


 エドワードはギャング達の前で話した。


「わかってますよ。奴の住処を探すだけなんでしょ」


「ライフル片手で言われても説得力ねぇな」


 オーガスは、ライフル銃を肩に担いでいた。他のギャング達も、武装していた。


「銃は全部置いていってもらう」


「しかし、吸血鬼に会ったらどうするんです」


「日の光りがあるうちに、吸血鬼と外で会うことはない。どれだけ樹木が生い茂っていても、日は注いでいる。建物や洞窟、完全に光が遮断できる場所以外は安全だ」


「しかしねぇ」


「あわよくば、自分たちの手で始末を付けてしまおうなどと考えているかもしれないが、素人が吸血鬼を滅ぼすことは難しい。吸血鬼が、何の備えもしていないと思うかね。日があるからこそ、吸血鬼は警戒している。罠や逃げ場を用意している。命の危険を感じた吸血鬼は、苛烈になる。日のあるうちに仕留められなければ、報復を受けることになる。君らの組織は皆殺しだ」


「わ、わかりましたよ。置いていきますよ」


 オーガスは肩に担いでいたライフルをおろした。



 オーガスの手下をいくつかの班に分け、山を探索させた。

 付近の住民は、また地上げ屋の連中がやってきたといやそうな顔をした。








 夜、レイヴァン・アスカルは腰をかがめ地面の匂いをかいでいた。

 人の匂い、たばこの匂いがした。


「山の中に、あいつらが来ているのか」


 不快そうな顔をした。

 山の中を走りながら匂いをかいだ。いくつか広がるように匂いが漂っていた。ふもとの村や集落をのぞいてみたが、ギャングどもの気配はない。


「昼間、何をしに来た」


 土地を見に来たのか、それとも、吸血鬼である己を見つけに来たのか。

 夜の山で、レイヴァン・アスカルはうろつきながら、悩んだ。


「日のあるうちとはいえ、こんな大がかりに調べて、吸血鬼に気づかれないのか」


 イーサンとエドワードは、山の川辺で休んでいた。水の音が涼やかだった。


「気づくだろうな」


 エドワードは岩の上に座って汗をぬぐっていた。


「逃げられんじゃないのか」


「かもしれん」


「じゃあ、まずいんじゃないのか」


「二人で、この広い山の中を調べるわけにもいかんだろ。山に行って帰ってくるだけでもずいぶん時間を食う。そんなことをしていたら何週間も、かかるよ。そうなると、どのみち気づかれる。仮に逃げられたとしても、こんな山の中を調べるより、他のところに逃げてもらった方が、探しやすいさ。山の中を歩き回って吸血鬼を探すなんて、私の体力が持たないよ」


 年寄りなんだ。イーサンは腰を叩いた。



 昼を少し過ぎたところで、イーサンとエドワードは集合場所に戻った。湖の近くでキャンプ地になる予定の場所だ。

 オーガスがすでに帰ってきており、イーサンとエドワードを呼んでいた。


「ちょっと、見てもらえますか」


 イーサンとエドワードが近づくと、オーガスは手に持ったものを見せた。

 人間の頭蓋骨だった。


「犠牲者なのか」


 エドワードは頭蓋骨を眺めながら言った。


「わかりませんが、他にも何体か埋まっていましたよ」


 斜面の窪地に頭蓋骨が一つ上を向いていた。その周辺を掘り出すと、骨がいくつも出てきた。


「血を吸った後の犠牲者の遺体を山に埋めていたのだろう。それが何かの拍子に一つ出てきた」


「ギャングが敵対勢力をまとめて埋めたって線もあるぜ」


 エドワードはオーガスを見た。


「ご冗談を」


 おどけた表情を見せた。


「古い骨のようだ。シャロンに調べてもらえば、だいたい何年前の骨かわかるだろう」


「それだけ前から、人間の血を吸い殺していたってわけだな」


「これが見つかるのを恐れていたんですかね」


「その可能性もあるが、墓場を一つ暴かれたぐらいで、襲っては来ないだろう。やはり近くに住処があると考えるのが妥当だ。明日は、その辺りを重点的に調べよう」


 イーサンは地図を見た。
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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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