第十五話、ギャング

文字数 2,649文字

「マローファミリーって知っているか」


 吸血鬼対策課、第九分室、夕方、そろそろ帰ろうかと、エドワードが帰り支度をしていたところ、室長のブライアン・フロストに呼び止められた。


「知ってますよ。ラソテッド西部を根城にしているギャングでしょ」


 マローファミリーは、元は戦争中に軍需物資の横流しをしていた連中である。それが集まり、今は非合法な活動で組織を大きくしている。

 エドワードは昔、組織犯罪対策課にいたので、ある程度知っている。

「そこの、ナンバースリーが、殺された」


「へぇー、確か、ロイ・オズバーンだったかな」


 頭のいい男で、合法非合法、両方の商売を手広くやっていた。


「そいつだ。そいつが、自宅で殺されたらしいんだが、それの犯人がどうも、吸血鬼らしい」


「えっ、吸血鬼ですか。それは、まぁ、なんというか。喜んでいいんですかね」


 やっかいな男で、なかなかしっぽを出さなかった。


「今回だけはいいだろう。だが、吸血鬼だからな。他にも、マローファミリーの人間が何人かやられているらしい」


「なんか恨みでも買ったんですかね。調べてみます」


「明日からでいいぞ。日のある間にしか捜査はするな」


 ブライアン・フロストも帰り支度を始めた。








 翌日、イーサンとエドワードはラソテッド西部のデラウェンに来ていた。テレーズ市から汽車で三十分ほど行ったところにある古い町である。


「ほう、いろいろ、新しくなっているな」


 駅から出ると、商店が建ち並んでいた。


「汽車が通るようになって、いろいろできたんじゃないか」


 十年ほど前に駅ができたことにより、町の開発は進んだ。


「さて、どこへ行くんだ」


 ギャングのことをイーサンは、よく知らなかった。ギャングという概念自体ここ最近できたものだった。


「組織犯罪対策課の知り合いが、デラウェンの警察にいたはずだ。そいつを訪ねよう」


 二人は警察署に向かった。








 デラウェン警察署は、三階建ての比較的新しい建物だった。

 二十年ほど前に発表されたデラウェンを通る鉄道計画を受け、人口増加を期待した当時の市長が、警察や消防、病院などを増やした。その結果である。


「トム・ターナーのところのおんぼろ警察署とは、えらい違うな」


「あっちは、景気が悪そうな町だったからな。ここの市長はやり手なのかね」


「どうなんだろうな、カネに汚いって噂は聞くが、やることやってくれていたらそれはそれでいいのかもしれないな」


 二人は警察署の中に入り、二階にある組織犯罪対策課とかかれた部屋を尋ねた。


「よう、ラリー」


 その中の一人に声をかけた。


「エドワードか、久しぶりだな」


「ああ、久しぶりだな。二年ぶりぐらいか」


「なにやらいろいろあったみたいだが」


 ラリーは苦笑いした。エドワードはギャングから金をもらい情報を渡していた上司を殴り移動になった。


「今は、吸血鬼対策課にいるんだ。こっちは、イーサン・クロムウェル同僚だ」


「ラリー・ジョイスだ。こいつの面倒を見るのは大変だろう」


「多少はね」


 イーサンとラリーは握手した。


「それでどうしたんだ」


 ラリー・ジョイスは二人を隣の応接室に案内した。三人は革張りのソファーに座った。なかなかいい座り心地だった。


「ロイ・オズボーンが死んだって聞いたんだ」


「やはりその話か。死んだぜ。犯人は屋敷にいたボディガードを何人か殺して、ロイ・オズボーンの首を素手でへし折った」


「やっぱり吸血鬼か」


「うちの検死官の話だと、人間の力じゃ無理だって話だ」


「あいつら何をやらかしたんだ」


「さぁな、恨まれるようなことを奴らはごまんとやらかしている。そのうちの何かが吸血鬼の逆鱗に触れたんだろ。この調子で町のギャングどもを掃除してくれればありがたいんだけどな」


 ラリー・ジョイスは膝を叩いて笑った。


「それだけで終わればいいが、吸血鬼は人の血を吸う。存在している限り、人の命を奪う。終わらないよ」


 イーサンは下唇を舐めた。


「お、おう、そうだな。そっちの方はあんたらに任すよ」


「それで、ロイ・オズボーンはどうやって殺されたんだ」


「十日ほど前の話だ。夜の十時頃、犯人は屋敷の壁をジャンプして飛び越えた。知らなかったのか、壁には警報装置が取り付けられていて、それで見つかっちまった。ギャングの手下どもが警報装置が鳴った場所に集まったが、誰もいない。窓ガラスが割れる音がして、上を見ると、二階の窓が割れていて、中に入る男の背中が見えたそうだ。それで追いかけた。二階にも手下がいたが、手下は胸を拳で殴られ死んだ。ロイ・オズボーンがいた部屋に犯人は扉を壊し入った。遅れて、家の中に入った手下は二階に上がった。階段を上がったところで、男がいた。左手にロイ・オズボーンの首を掴み、右手には、タンスがあった」


「タンス?」


「ああ、百キログラムぐらいあるんじゃないか。なんにしろ、それを投げてきた。廊下にいる手下に向かってな。一人死んで、二人は重傷、後の一人は、びびって動けなくなった。そりゃあな、タンスを片手で投げてくる相手に勝てるとは思えないよな」


「それで、その後どうなったんだ」


「しばらく部屋の中で、ロイ・オズボーンとなにか話していたらしい」


「何を話していたんだ」


「内容まではわからんそうだ。しばらく話した後、叫び声がして、吸血鬼は窓から出て行った。残されたのは首がへし折れたロイ・オズボーンの死体ってわけよ」


「ロイ・オズボーンに何の用だったんだ」


「わからん。マローファミリーの連中に聞いてみたが、しのぎに関しては奴らなかなか口が固くてな、ロイ・オズボーンが何をやっていたのか、まだ、はっきりとはわからんのだ」


「他にも何件か、襲っているんだろ」


「ああ、事務所を二軒襲われている。こっちは、話し合いはなしだ。事務所に入って、殺しまくっている。適当に暴れて、帰って行った感じだな」


「ロイ・オズボーンを殺した後なのか」


「そうだ。五日後と、その三日後、他にも組員が何人か行方不明になっている」


「組織ごと潰す気なのか」


「わからんね。その割りには中途半端な気がする。何かを警告するなら、その理由を説明するはずだが、それもしていない。なにがしたいのか、吸血鬼のすることなんてさっぱりわからんよ」


「犯人の特徴を教えてくれ」


「身長は百七十前後、見た目は三十代から四十代、焦げ茶色の髪に少しあごが尖っている。それと、どこの会社のものか、まだわからないが警備員の制服を着ていたそうなんだ」


「警備員?」


「ほう」


 最近そんな話を聞いたなと、イーサンとエドワードは顔を見合わせた。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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