第十七話、山

文字数 1,817文字

 小さな湖がいくつかあり、小高い山が連なっていた。


「悪くないところだな」


 エドワードは辺りを見渡しながら言った。

 イーサンとエドワードの二人は、ラソテッド西部のデラウェンから、さらに西、ピリオーネに来ていた。


「リゾート地としては最適だね」


 オーガスの話によると、リゾート施設を作る計画があり、その地上げに、マローファミリーは内々に関わっていたそうだ。


「この辺りのどこかにいるとしたら、広すぎるよな」


 エドワードはため息をついた。


「調べてみないと何とも言えないが、面倒なことになりそうだね」


「例のコインで、見つけられないか」


 イーサンは吸血鬼時代に作ったコインを使って、吸血鬼が放つ魔力を探知することができる。


「索敵範囲が狭いからね。歩くしかないだろう。付近の集落に住んでいてくれていたらいいが、山とかに住まれると、ちょっと絶望的かな」


 樹木が生い茂った山々が広がっていた。


「こんな田舎の集落だと、吸血鬼が家で隠れ住むのは、無理なんじゃないか」


「だろうね。いるとしたら、やっぱり山かな」


 イーサンは心底いやそうな顔をした。








 夜。


「静かだ」


 レイヴァン・アスカルは、つぶやいた。虫の声や魚の跳ねる音、風の音が辺りに広がっていた。近くの村で夜中まで騒いでいた薄汚い男達の声は、ずいぶん前から聞こえなくなった。


「俺が殺したからな」


 最初は、失敗だった。

 ロイ・オズボーンにあって、話を付けようと堀を飛び越えたら、塀に警報装置が仕掛けられていたようで、すぐに見つかった。あわてて、二階に飛び上がり、中に入り、二階にいたなんだか偉そうな顔をした男を捕まえた。話を聞くと、ロイ・オズボーンだった。タンスを部屋の外にいる連中に投げつけ、ロイ・オズボーンにピリオーネの地上げをやめるよう、話すと、「お前あそこに住んでいるのか」と、言われ、頭が真っ白になった。住んでいる場所を知られるのはまずいことに気がついた。

 うまく返事ができず、どうしていいかわからなくなり殺した。

 かなり困った。

 地上げをやめろというと、住処がばれてしまう、かといって、地上げをやめさすためには地上げをやめろと言うしかない。しばらく悩んだすえ、全部殺してしまえば、いいじゃないかと、思いついた。


「静かでいい」


 美しい夜空が広がっていた。








 イーサンとエドワードは、朝と夕、日に二度ほど出る馬車に乗って、近くの町からピリオーネに通った。三日ほど、辺りの集落をコイン片手に歩き、怪しい人物の目撃情報を住人に聞いた。この辺りの人間は、顔見知りばかりで、夜にしか顔を見せない住人がいるという情報はなかった。ただ、夜中に時々、山の辺りで高速で移動する生き物を見たという証言があった。


「やっぱり山かねぇ」


 段々畑のあぜ道を歩きながらエドワードが言った。


「そうだろうね。二足歩行で夜の山林をとびまわる生き物が他にいれば別だろうがね」


「この辺の人間には手を出してないようだな」


「普通の吸血鬼は、自分の住処の近くでは手を出さないものだよ。月に一度の食事だからね。少しぐらい遠出しても、それほど苦にはならない」


「たまの外食みたいなもんか」


「そんな感じだね」


 だが、その度に人が一人死んでいる。


「登山靴でも買うか」


「闇雲に山を歩いてもね」


 いやそうな顔をした。山が広々と広がっている。


「開発予定地にいるんじゃないか」


「そうとも限らんさ。近くに来られるのを嫌がった可能性もある。どこまで開発されるか、この吸血鬼にはわからなかった可能性もある」


「山に住めるところなんて限られているだろ。昼間、日の光を遮ることができる場所なんていったら、山小屋か洞窟、それぐらいなもんだろう」


「地元の住人が知っている洞窟ならいくつかあるが、山小屋に関してはちょっとわからないね」


「月に一度しか外食しないと言っても、生活しているなら、何か痕跡が残るはずだろ」


「残るだろうね。だがそれを見つけるには、この広さだ。人手と時間がいる」


「ぐずぐずしていると、オーガスどもが吸血鬼に殺されてしまうぜ」


「心配しているのかね。彼らはギャングだよ」


「それはそうだが、今は捜査協力者だからな」


「なるほど、捜査協力者か」


「殺されたりしたら寝覚めが悪いだろ」


「いっそ彼らに探させるか」


「うん? 吸血鬼をか」


「ああ、大自然の中、吸血鬼が生活をしている痕跡、山小屋か洞窟、足跡ぐらい見つかるだろう」


「危なくないか」


「危ないね」


 イーサンは左の眉を上げた。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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