第四話、吸血鬼対策課第九分室
文字数 1,537文字
ラソテッド北部、テレーズ市、入り組んだ古い路地に、吸血鬼対策課第九分室があった。看板も表札もない石造りの二階建ての古いアパートに見えた。
分析係のシャロン・ザヤットが言った。
港町ミルトでイーサンとエドワードが狩った吸血鬼である。採取した血液を分析していた。
室長のブライアン・フロストが苦笑いした。
血を分け与えた吸血鬼のことを、親、という。
エドワード・ノールズがいった。
港町ミルトの吸血鬼ジャック・ディーゼルのことは、すでに新聞に載っている。
笑った。上下の前歯がないイーサン・クロムウェルの舌が見えた。
「まだ、力が戻らないな」
暗闇の中、男は、手を何度か開いて握った。手足はしびれ脱力感があった。
半年ほど前に、人間に血を分け与えた。成功したが、力が恐ろしく弱体化した。当初は歩くことすらつらく、体を引きずるように家に帰った。半年以上経っても、力は戻らず、吸血鬼の強靱な運動能力を取り戻せないでいた。
己を吸血鬼にしてくれた男のことを思い出していた。血を分け与えてくれた後、脱力した様子は見えなかった。吸血鬼は年を取るごとに強くなっていくと聞く、血を与えた影響があっても、元の力が強ければ、移動が困難になるほど弱体化しないのかもしれない。
男は吸血鬼になって三年しか経っていなかった。
唇に指を這わせた。口の中がまるで砂になったような感覚がする。血を分け与えてから喉の渇きが増えた。できる限り我慢しているが、そろそろ我慢できなくなる。
上下の犬歯が痛いぐらいのびていた。
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