第2話   兼家の求婚

文字数 789文字

「時姫様、兼家様よりお文が届いておりますよ。」
侍女と思しき女性が声をかけてきた。
 おっ、来たな。この時代、恋の駆け引きは、デートでなく文を交わして行われる。作文は、得意だ。一応、古今和歌集も読んでるし、ま、何とかなるだろう。
 一応、なんだかわからない木に(植物は詳しくない)、白い紙が結んであって、紙をほどいて広げてみた。絶句!教科書に載っていた図版のようなミミズ字が。慣れれば読めるかもしれないが、分からない。
「ちょっと、読んで。」
『時姫様のことを思うと夜も寝られません。どうか私の妻になってください。』
うん、読んでもらうと、翻訳されるからわかるな。えーと、こうゆう場合は、No!と言ってじらすんだよな。
「テキトーに、どうせ私のことなんてすぐ飽きるんでしょ。いやよ!!って書いて返しておいて。」
「はい、わかりました。」
有能な侍女で、助かった。

 しばらくこんな風に暮らしていたら、だんだん状況が理解できてきた。このころの貴族のお姫様は、あまりしゃべらないので侍女に任せておけば、何とかなる。この侍女は、出雲(いずも)と呼ばれていて、現代の山陰地方から都にやってきた人で、もと出雲の守から紹介された人らしい。田舎人にしては文字も美しく和歌の才能もあり、貴重な人材で、時姫の教育係も兼ねているらしい。平安時代の女性として、ひらがなは読めて書けるようにベンキョーしなくっちゃ。よろしくね!

 この家の主は、摂津守などの要職を歴任した藤原中正で、そこそこ金持ちだ。食事もいいし、着物も美しい。うん、当たりだったな。時姫は、評判の美人で兼家様は、藤原氏の息子とはいえ、三男坊に過ぎない。中流貴族の金持ちの家に婿入りできれば、何かと有利だろう。この時代、通い婚だから、どこの家の女性を射止めるかは、出世に大いに関係するはず。

 王子様ではないが、宰相の息子の一人、という感じかな。うん、やる気が出てきた。
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登場人物紹介

時姫…彰子のおばあちゃん。摂津守藤原中正の娘。

   藤原兼家の妻。藤原道隆・藤原道兼・藤原道長・超子・詮子の母。

藤原兼家…彰子のおじいちゃん。

     藤原師輔の三男。兄は、伊尹と兼通。

詮子…時姫の次女。円融天皇の后。

   子供は一条天皇だけ。道長の姉。

   彰子の父方の伯母。夫の母でもある。

   

円融天皇…兼家の姉の安子の三男。村上天皇の第五皇子で、安子の三男。兄の朱雀天皇から譲位された。

     彰子の父方の大伯父(おじいちゃんのお姉さんの子)に当たる。夫の父でもある。

     子供は一条天皇だけ。后は、たくさんいる。

彰子…当分出てこないけど、三人目のヒロイン。

   藤原道長と源倫子の長女。

   一条天皇の妻。紫式部が女房として仕えた。

一条天皇…円融天皇と詮子の子。

     定子(清少納言が女房として仕えた)や詮子(紫式部が女房として仕えた)の夫。

     他にも、妻がいる。

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