第26話 東三条院

文字数 626文字

 帝と定子様の仲は、たいそうよい。やはり、才気活発で見目麗しく、会話も機知に富み、定子様ご自身には何の憂いもない。早く皇子がお生まれになればよいのだが。
 そうこうするうちに、大変なことが起こった。
 正暦2年(991年)2月12日、御願寺である円融寺で円融院が33歳の生涯を閉じられた。仲の良い夫とは言い難かったが、尊敬もし頼りにも思っていた帝のお父上である。33歳は、まだまだお若い。悲しみに暮れながら御心の安らかなることを祈る。そして、帝のただ一人の親となったわが身を思い、なんとしても帝をお守りせねばと思う。
 9月16日、出家し尼となった。帝より東三条院という院号を賜った。円融院に代わり、女院として帝をお支えする。女院は、わたくしが初代である。何事も有職故実に従う平安の世に、このようなことがかなったのは、妹のわたくしを権力を支える一翼とみなす長兄道隆の思惑あってのことである。道隆はいったん関白を辞し、次兄道兼が内大臣となる。我が兄ながら、権力に対する執着はすさまじい。
 それはまだしも、この年の正月に蔵人頭在任わずか4ヶ月で参議に任ぜられて公卿となった道隆の正妻の産んだ嫡男(だけど三男)の伊周は、9月には先に参議となった7名を超えて権中納言に昇進した。身びいきが過ぎる。兄道隆をいさめる者がいないのは困ったことだ。わたくしは、この先どう動くべきか。藤原氏の繁栄は、わたくしも願うことだが、あまりにも専横が過ぎると、碌なことにならないのだが。
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登場人物紹介

時姫…彰子のおばあちゃん。摂津守藤原中正の娘。

   藤原兼家の妻。藤原道隆・藤原道兼・藤原道長・超子・詮子の母。

藤原兼家…彰子のおじいちゃん。

     藤原師輔の三男。兄は、伊尹と兼通。

詮子…時姫の次女。円融天皇の后。

   子供は一条天皇だけ。道長の姉。

   彰子の父方の伯母。夫の母でもある。

   

円融天皇…兼家の姉の安子の三男。村上天皇の第五皇子で、安子の三男。兄の朱雀天皇から譲位された。

     彰子の父方の大伯父(おじいちゃんのお姉さんの子)に当たる。夫の父でもある。

     子供は一条天皇だけ。后は、たくさんいる。

彰子…当分出てこないけど、三人目のヒロイン。

   藤原道長と源倫子の長女。

   一条天皇の妻。紫式部が女房として仕えた。

一条天皇…円融天皇と詮子の子。

     定子(清少納言が女房として仕えた)や詮子(紫式部が女房として仕えた)の夫。

     他にも、妻がいる。

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