第3話 結婚

文字数 1,079文字

兼家様は、摂関家の三男で、現在兵部省(兵隊関係の省、今の防衛庁みたいなものかな)の大輔(たいふ)つまり次官をやっている、まあまあ有望な貴族だ。
 父は、摂津の守を務めた金持ち受領で三男、母は、橘家の五男澄清の娘。どっちを向いても兄弟が多い。しかも、妻も多い。いとこはくさるほどいる。
とすると、兼家様は、結構いい結婚相手か。道綱の母の存在は、気になるけど。
 でも、この時代は通い婚。姑にいじめられる心配なく、実家で暮らせるし。女は度胸だ。こんなに、私のことを好きだ好きだと文を送ってくる貴公子。結婚してやろうじゃないの。
 何度かの文の往復の末、私は出雲に、
「『結婚してもいいわよ。』って返事して。」
と伝えた。父母は、喜び、部屋の調度品をすべて新しいものに変え、婿殿を3日間もてなした。摂関家と縁続きになるのだ。我が家の繁栄、間違いなし!露顕(ところあらわし)はたいそう華やかにたくさんの客人を呼んで行われた。


 私のおなかに新しい生命が宿ったことを知った時、兼家様は、歓喜の声を上げた。
「ほ、本当に!!私にお子がうまれるのか!?」
大喜びで、読経の準備を始めた。私の両親もだ。そんな・・・坊様に祈ってもらっても、何の役にも立たんわ!!と思ったが、この時代にそんなことを言ったら気がふれたのかと思われてしまう。仕方なく、あまり派手にするなと告げる程度にしておく。さて、高校一年生だった私に出産の知識などない。出雲(いずも)に聞いてみた。
「ひたすら、仏様のご加護をお願いし、力を込めてお産みください。いにしえより、案ずるより産むがやすし、と申します。そのときになれば、仏さまがきっとご加護くださいますよ。」という。
うん・・・分からない。お母様にも聞いてみたが、
「ええ、ずいぶん苦しかったのですが、あなたたちの産声を聞いてとてもうれしかったことしか覚えておりませんわ。出産のときは、周りを白い調度品で囲みますから、準備を整えなくてはね。」
とおっしゃった。白い調度品ね。。。やはり具体的なお話は聞けなかった。
 兼家様は、わたくしの顔を見、優しく言葉を掛けると父母に、いかに楽しみかを伝えて帰って行かれるというまめまめしさであった。
 確かにずいぶん苦しかったが、私は無事に母になった。高校生で終わった前世とは違う。満足感と、我が子の可愛さに転生してよかったと心の底から思うことができた。乳母(めのと)が手配され、子育ては任せきり。毎日、きげんのいいときに抱っこしてあやしてあげるだけの、いいとこどりの母だけど。太郎君は、元気でやんちゃな男の子で、兼家様もわたしも、おじじ様も、おばば様も、みんなでかわいがって育てた。
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登場人物紹介

時姫…彰子のおばあちゃん。摂津守藤原中正の娘。

   藤原兼家の妻。藤原道隆・藤原道兼・藤原道長・超子・詮子の母。

藤原兼家…彰子のおじいちゃん。

     藤原師輔の三男。兄は、伊尹と兼通。

詮子…時姫の次女。円融天皇の后。

   子供は一条天皇だけ。道長の姉。

   彰子の父方の伯母。夫の母でもある。

   

円融天皇…兼家の姉の安子の三男。村上天皇の第五皇子で、安子の三男。兄の朱雀天皇から譲位された。

     彰子の父方の大伯父(おじいちゃんのお姉さんの子)に当たる。夫の父でもある。

     子供は一条天皇だけ。后は、たくさんいる。

彰子…当分出てこないけど、三人目のヒロイン。

   藤原道長と源倫子の長女。

   一条天皇の妻。紫式部が女房として仕えた。

一条天皇…円融天皇と詮子の子。

     定子(清少納言が女房として仕えた)や詮子(紫式部が女房として仕えた)の夫。

     他にも、妻がいる。

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