第3話 全然譲れない条件
文字数 1,493文字
かくしてサツマ様の就職活動が始まったのだが、すぐに暗礁に乗り上げた。
理由その1
学歴職歴が空白。
戸籍などの現代日本で生きる最低限の肩書は、神の見えざる手により(使い方違うけど気にすんな)、調達できたが、こればっかりはどうにもならなかった。
実質的には学校に通えていない引きこもりの人でも、一応中学卒業までの資格が得られるのが現代日本だ。
お年寄りならともかく、アラサーの身空で履歴書の学歴欄すら真っ白なのは痛かった。
理由その2
現代日本の常識が通じないところが多々ある。
転移(転生?)当初よりは大分マシになったとはいえ、パソコンがまるっきし使えなかったり、面接のマナーがなってなかったり、覚えなきゃいけないことは山積みだ。
そして3つ目は……。
これが実は一番のネックになるとは、俺も予想外だった。
事務職の正社員やお堅い客商売じゃなければ、緩いものだと侮っていたが甘かった。
「どうして女は結えばいいのに、俺はダメなんだ!」
面接帰りのスーツのまま、サツマ様はちゃぶ台に拳を振り下ろし、荒れていらした。
「男だからだろ。現代日本は男の長髪には不寛容なんだよ」
「でも店長は豚の尻尾みたいなちょんまげ結ってるぞ!」
「店長特権じゃね。肩くらいの長さまでなら、ロン毛にも市民権あるし」
「どうして肩が良くて、尻がダメなんだ! 差別だ!」
そう。お気づきの方も多いと思うが、サツマ様ご自慢であり、ニート臭さの原因でもあるロン毛が、ここに来てニート脱出を阻む壁としてそびえていた。
「髪型自由のところ探せば良いじゃん。ほら、この梱包作業員とか、髪型自由って書いてあるぞ」
求人のフリーペーパーを広げて見せてやったが、不服そうな顔をする。
「給料安いし、非正規だし、作業着が格好悪いから嫌だ」
わがままだな、おい。何様だよ、お前。
呆れられているのも関せず、サツマ様は口を尖らせて続ける。
「髪型自由と言いつつ、作業の時にかぶる帽子に髪が入れられないといけないって小さく書いてある。俺の長さでははみ出る」
「じゃあ切れよ。せめて、その辺のロングヘアの女くらいの長さ、背中くらいなら入るんじゃね?」
「嫌だ。切るくらいならニートのままでいい」
「ちょ……。俺はニートのままでいられたら困るんだけど」
「この前まで働くなと言っていたくせに、舌の根も乾かぬうちに働けか。ふんっ! この世界で生まれ育って、順調に大学を出て就職した貴様なんかに俺の気持ちは分からないのだろうな」
求人誌を放り投げると、サツマ様はちゃぶ台に突っ伏し、不貞寝モードに入ってしまわれた。
俺に八つ当たりすんじゃねーよ! とキレたいけど、グッと堪え、俺は財布とスマホ片手に外に出た。
しばらく下手に構わず、そっとしておくのが一番だ。
家主の俺が気を遣って外出しなければいけないのは理不尽だが、あの状態の奴と二人でいるのも鬱陶しいので、仕方あるまい。
アパートを出ると俺はスマホを操作し、この世で一番大事な女にラインを送った。
『ツルガちゃあん、これからお兄ちゃんと一緒に夕飯食べない? おごっちゃうよーん(⌒▽⌒)』
トーク画面を見ていると、数秒で既読がつき、返信が届いた。
『きっしょ。おっさんラインの典型…。でもいいよ。今会社だから迎えに来て』
さすがはマイエターナルスイートシスター。
ツンデレ含めて完璧だ。
しばしプライドだけは一丁前のロン毛ニートのことは忘れて、妹ちゃんと至福の時を過ごそう。
理由その1
学歴職歴が空白。
戸籍などの現代日本で生きる最低限の肩書は、神の見えざる手により(使い方違うけど気にすんな)、調達できたが、こればっかりはどうにもならなかった。
実質的には学校に通えていない引きこもりの人でも、一応中学卒業までの資格が得られるのが現代日本だ。
お年寄りならともかく、アラサーの身空で履歴書の学歴欄すら真っ白なのは痛かった。
理由その2
現代日本の常識が通じないところが多々ある。
転移(転生?)当初よりは大分マシになったとはいえ、パソコンがまるっきし使えなかったり、面接のマナーがなってなかったり、覚えなきゃいけないことは山積みだ。
そして3つ目は……。
これが実は一番のネックになるとは、俺も予想外だった。
事務職の正社員やお堅い客商売じゃなければ、緩いものだと侮っていたが甘かった。
「どうして女は結えばいいのに、俺はダメなんだ!」
面接帰りのスーツのまま、サツマ様はちゃぶ台に拳を振り下ろし、荒れていらした。
「男だからだろ。現代日本は男の長髪には不寛容なんだよ」
「でも店長は豚の尻尾みたいなちょんまげ結ってるぞ!」
「店長特権じゃね。肩くらいの長さまでなら、ロン毛にも市民権あるし」
「どうして肩が良くて、尻がダメなんだ! 差別だ!」
そう。お気づきの方も多いと思うが、サツマ様ご自慢であり、ニート臭さの原因でもあるロン毛が、ここに来てニート脱出を阻む壁としてそびえていた。
「髪型自由のところ探せば良いじゃん。ほら、この梱包作業員とか、髪型自由って書いてあるぞ」
求人のフリーペーパーを広げて見せてやったが、不服そうな顔をする。
「給料安いし、非正規だし、作業着が格好悪いから嫌だ」
わがままだな、おい。何様だよ、お前。
呆れられているのも関せず、サツマ様は口を尖らせて続ける。
「髪型自由と言いつつ、作業の時にかぶる帽子に髪が入れられないといけないって小さく書いてある。俺の長さでははみ出る」
「じゃあ切れよ。せめて、その辺のロングヘアの女くらいの長さ、背中くらいなら入るんじゃね?」
「嫌だ。切るくらいならニートのままでいい」
「ちょ……。俺はニートのままでいられたら困るんだけど」
「この前まで働くなと言っていたくせに、舌の根も乾かぬうちに働けか。ふんっ! この世界で生まれ育って、順調に大学を出て就職した貴様なんかに俺の気持ちは分からないのだろうな」
求人誌を放り投げると、サツマ様はちゃぶ台に突っ伏し、不貞寝モードに入ってしまわれた。
俺に八つ当たりすんじゃねーよ! とキレたいけど、グッと堪え、俺は財布とスマホ片手に外に出た。
しばらく下手に構わず、そっとしておくのが一番だ。
家主の俺が気を遣って外出しなければいけないのは理不尽だが、あの状態の奴と二人でいるのも鬱陶しいので、仕方あるまい。
アパートを出ると俺はスマホを操作し、この世で一番大事な女にラインを送った。
『ツルガちゃあん、これからお兄ちゃんと一緒に夕飯食べない? おごっちゃうよーん(⌒▽⌒)』
トーク画面を見ていると、数秒で既読がつき、返信が届いた。
『きっしょ。おっさんラインの典型…。でもいいよ。今会社だから迎えに来て』
さすがはマイエターナルスイートシスター。
ツンデレ含めて完璧だ。
しばしプライドだけは一丁前のロン毛ニートのことは忘れて、妹ちゃんと至福の時を過ごそう。