第10話 再転移
文字数 1,385文字
今度こそ死んだと思った。
けど、生きてた。
目覚めたらそこはルサンチマン王国の王女私室でもなければ、川岸神社の境内でもなく。
何故かジャ◯コのだだっ広い屋外駐車場の植え込みだった。
腕時計を見ると、土曜の夜8時過ぎ。
ルサンチマン王国に転移していた時間がきっかり過ぎていた。
まだ営業時間中のジャ◯コは煌々と輝いていて、楽しげに語らいながら出てくる家族連れやカップルに混雑ぎみの駐車場は川岸市の日常風景だった。
転移直前に銃で撃たれた気がしたのだが、どこも怪我をしていない。
サツマ様の深い絶望と俺の命の危機。
異世界転移の条件が偶然揃ったため、あっちの親父が知ってる正規の方法を経ずに、危機一髪戻って来れたということか。
いや、本当に偶然かな。
銀髪白皙の自称事務屋の顔が浮かんだ。
あいつなら、素早い状況判断を行い、即座に決行できる。
「そうだ、サツマ様……」
一緒に転移したに違いない。
辺りを見渡すと、すぐ近くに立っていた『不用衣服買取承ります!』と書かれたテナントののぼりの下に丸まって倒れていた。
即銃刀法違反で検挙される物騒な愛刀は持っていないようだ。
どうしよう、まだ動けないようなら、救急車呼んだ方が良いのだろうけど、説明めんどくせえ。
でも、病院連れていかない訳いかないよね。
気は進まないけど、御手洗係長にもみ消してもらうか、なんて考えながら、厨二丸出しの近衛師団の軍服の肩を揺すった。
「う……眼鏡?」
サツマ様は薄っすらとまぶたを開けると、特に問題なさそうに起き上がった。
「体大丈夫か?」
「ああ」
目を見開き、辺りを見回して自分の身に何が起きたのか悟ったようだった。
徐々に暗い表情になる。
「戻ってきた。夢ではないのだな」
「……みたいだな。何でジャ◯コなんだか知らんけど」
乱れた長髪の張り付いた頬に涙が一筋流れた。
「今何時だ?」
「土曜の午後8時過ぎだけど」
「明日シフト入ってる。帰って準備して寝なきゃ」
こいつ、既に現代日本の社畜根性が身についてる。俺たちはどんなに辛いことがあったって、それとは関係なしに働かなきゃいけない。
「えっと、サツマ様……」
「帰る」
ルサンチマン王国での出来事には一切触れず、サツマ様は立ち上がると、とぼとぼ家路を辿り始めた。
俺は慌ててその後を追った。
「あのさ、どうしても心が辛い時は仕事休んでも良いと思うよ。風邪とか適当に言っておいて」
「大丈夫だ。働ける」
「いや、でも……」
「大丈夫だって! お願いだから働かせてくれ! 今は何も考えたくないんだ!」
振り返りざま、叫ぶようにサツマ様は怒鳴った。
「それからそんな俺の顔色を見て話すな。貴様に憐まれたり、申し訳ないと思われる筋合いはない。貴様はデリカシーがなくて、自分本位が売りだろう? らしくなくて気持ち悪い」
「え、別に売ってないけど」
「うるさい!」
感情が高まった拍子に、サツマ様の両目からせきを切ったかのように涙がこぼれては落ち、やがてそれはとめどなく頬を濡らしては落ちた。
「な、泣きたい時はいっぱい泣いた方が良いよ」
この後に及んで、クソみたいな台詞しか口にできない自分は本当にクソ人間だと思った。
けど、生きてた。
目覚めたらそこはルサンチマン王国の王女私室でもなければ、川岸神社の境内でもなく。
何故かジャ◯コのだだっ広い屋外駐車場の植え込みだった。
腕時計を見ると、土曜の夜8時過ぎ。
ルサンチマン王国に転移していた時間がきっかり過ぎていた。
まだ営業時間中のジャ◯コは煌々と輝いていて、楽しげに語らいながら出てくる家族連れやカップルに混雑ぎみの駐車場は川岸市の日常風景だった。
転移直前に銃で撃たれた気がしたのだが、どこも怪我をしていない。
サツマ様の深い絶望と俺の命の危機。
異世界転移の条件が偶然揃ったため、あっちの親父が知ってる正規の方法を経ずに、危機一髪戻って来れたということか。
いや、本当に偶然かな。
銀髪白皙の自称事務屋の顔が浮かんだ。
あいつなら、素早い状況判断を行い、即座に決行できる。
「そうだ、サツマ様……」
一緒に転移したに違いない。
辺りを見渡すと、すぐ近くに立っていた『不用衣服買取承ります!』と書かれたテナントののぼりの下に丸まって倒れていた。
即銃刀法違反で検挙される物騒な愛刀は持っていないようだ。
どうしよう、まだ動けないようなら、救急車呼んだ方が良いのだろうけど、説明めんどくせえ。
でも、病院連れていかない訳いかないよね。
気は進まないけど、御手洗係長にもみ消してもらうか、なんて考えながら、厨二丸出しの近衛師団の軍服の肩を揺すった。
「う……眼鏡?」
サツマ様は薄っすらとまぶたを開けると、特に問題なさそうに起き上がった。
「体大丈夫か?」
「ああ」
目を見開き、辺りを見回して自分の身に何が起きたのか悟ったようだった。
徐々に暗い表情になる。
「戻ってきた。夢ではないのだな」
「……みたいだな。何でジャ◯コなんだか知らんけど」
乱れた長髪の張り付いた頬に涙が一筋流れた。
「今何時だ?」
「土曜の午後8時過ぎだけど」
「明日シフト入ってる。帰って準備して寝なきゃ」
こいつ、既に現代日本の社畜根性が身についてる。俺たちはどんなに辛いことがあったって、それとは関係なしに働かなきゃいけない。
「えっと、サツマ様……」
「帰る」
ルサンチマン王国での出来事には一切触れず、サツマ様は立ち上がると、とぼとぼ家路を辿り始めた。
俺は慌ててその後を追った。
「あのさ、どうしても心が辛い時は仕事休んでも良いと思うよ。風邪とか適当に言っておいて」
「大丈夫だ。働ける」
「いや、でも……」
「大丈夫だって! お願いだから働かせてくれ! 今は何も考えたくないんだ!」
振り返りざま、叫ぶようにサツマ様は怒鳴った。
「それからそんな俺の顔色を見て話すな。貴様に憐まれたり、申し訳ないと思われる筋合いはない。貴様はデリカシーがなくて、自分本位が売りだろう? らしくなくて気持ち悪い」
「え、別に売ってないけど」
「うるさい!」
感情が高まった拍子に、サツマ様の両目からせきを切ったかのように涙がこぼれては落ち、やがてそれはとめどなく頬を濡らしては落ちた。
「な、泣きたい時はいっぱい泣いた方が良いよ」
この後に及んで、クソみたいな台詞しか口にできない自分は本当にクソ人間だと思った。