第6話 独りよがり

文字数 1,509文字

 10年弱、お巡りさんをやっていれば、いわゆるストーカーな人たちと話をする機会は何回かあった。

 人によって事情は違うけれど、あえて共通点を述べるなら、彼らの愛は深く粘り強く、そして恐ろしく独りよがりで自分しか見えていない。
 歪んだ愛を攻撃性に転化して、愛しいはずの想いびとにぶつけてしまう者もいるが、サツマ様が今のところそこまでいっていないのを、救いと呼ぶのは違う気がする。
 ボニー王女は無事だけど、人は死んでいる。何人も。

 ていうか、俺も育った環境が違えば、あんな感じのストーカーになっていたのか?

 いやいやいや。
 認めん!
 中学の時、片想いしていた女子が「白波君だけは無理」と言っていたのを俺はちゃんと受け入れられた。
 高校の頃、向こうから告白してきた後輩に1週間で振られたのも泣きそうだったけど、ちゃんと諦めはついた。
 憧れの大学のサークルの先輩に10股かけられてた時だって、3年くらい女性不信に陥ったけど立ち直った。

 俺とあいつは違う。
 例え異世界における自分であったとしても。

 マイスイートシスターツルガちゃんはサツマ様のことを大量殺人者と同じ臭いがするとやたら警戒していたが、彼女の捜査官としての嗅覚は正しかったのだ。

 ルサンチマン王国のみなさんが、サツマ様の扱いにお手上げ状態なのも、ボニー様と話していてひしひしと感じた。
 だから俺は彼らの要求をのむしかなかったのだけど……。
 そんなやべえ奴を俺たちの世界に連れ帰って良いのか?

 一緒に過ごした数ヶ月を思い出す。

 憎たらしい顔やうざいロン毛がまぶたの裏に映り、非常に不愉快なのだけど、けど、捨て置く気にはなれなかった。
 それに、何か違和感があるんだよ。

「あああああああああああああっ!!!」

 頭パーンなりそう!

 サツマ様のベッドの上で俺はビタンビタンと痙攣するように暴れた。
 本人は夜会だか何だか知らないけど、どっかに出かけているので、荒らし放題だ。

 キーは王女なんだ。
 長年サツマ様のストーカー被害に悩まされていた彼女。
 魅力的な女性でありながら、恋をすればことごとく悲劇的な結末になってしまう。
 王女、さらっと言ってたけど、やってるとこ見せつけられるというNTR事案を故意に、しかも何度も起こされても、まだ愛情が冷めないサツマ様はやっぱおかしい。
 俺だったら、ショックで修道院に入っちゃいそう。

 サツマ様に恐れをなして彼女の前から姿を消した男たちは、薄情かもしれないけれど、もしかして彼らの選択に王女は胸を撫で下ろしていたかもしれない。
 愛する人を失わずに済む。
 結ばれはしないけれど、この世界のどこかで元気にしてくれているなら、喜ばしいと。

 この後に及んで、もし、徹底抗戦するなんて言われたら、俺だったら心配だし、やめてくれって言っちゃうかも。
 例えその男が今までの男と違って、簡単には倒れないような知力体力共に優れた者だとしてもだ。
 積み重なった悲劇の記憶が明るい展望を遮ってしまう。
 絶対また悲しい結末になってしまうと思い込んでしまう。

 ん?

 今何か来た気がする。

 あと少しで真実に手が届きそうな、閃き一歩手前的なのが見えた。

 サツマ様は刃向かう者全てを倒す。

 けれど、唯一彼が倒せないものは……。

 俺はベッドから立ち上がり、右斜め45度にあるカメラ(妄想)を意識し、ドヤ顔で言った。

「謎は全て解けた」

 決まった?

 つーか、この仮説が正しいなら……。
 こんなところで金田◯少年ごっこをしている場合ではなかった。
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