第6話 新たな協力者?

文字数 1,580文字

 変な気分だった。

 突如、ルサンチマン王国からサツマ様がやってきて、なりゆきで面倒を見ることになって、ルサンチマン王国に戻れるかも知れないと実行した実験の巻き添いを食らって、今度は俺が異世界人になってしまったこと。

 できるだけ簡潔に理論的に話そうとしたけれど、どれも妄想じみていて、自分ですら信じられない話だ。
 見るからに賢そうなソコロフ相手にこんな話をするのは気が引けた。
 彼は薄っすら微笑みながら耳を傾けてくれているけれど、俺はいたたまれなくて、何度も話すのをやめたくなった。

 サツマ様もこんな気持ちだったのかな。

「なるほど。関係性はまだ分かりませんが、あなたは異世界のサツマ・シラナミ師団長なのですね」

 俺の懸念に反し、ソコロフはあっさり荒唐無稽な話を受け入れた。

「いや、そうと決まった訳では。単なる他人の空似かもしれませんし」

「でもお父上もそっくりだし、家族構成や家族の名前も同じなのでしょう? だったら、別世界の同一人物同士という結論が一番最もらしいです」

「しかし、それを証明できるものはない」

「証明できないから真実ではないとはならないと思いますが。現時点で証明できなくても、真実である可能性が非常に高い事象をひとまず受け入れる。あなただって、シラナミ師団長の世話を焼いていた頃は、多少の謎には目を瞑って、現実を受け入れていたのではありませんか? 僕も同じですよ」

 そのとおりだった。ぐうの音も出ねえ。

「分かっていただけましたかね?」

「ええ、まあ」

 よろしい、と美貌の使者は満足げに頷いた。
 銀色の前髪がさらりと揺れた。
 面食いの唐澤女史だったら、これで落ちるなと場違いな感想を抱く。
 そういや、ルサンチマン王国にも唐澤いるのかなあ。いるんだろうな、みんなどこかに。

「白波さん、年のために聞きますが、あなたは元の世界に帰りたいですか?」

「帰りたいに決まってるでしょう」

 それもできるだけ早くだ。ロン毛馬鹿があてにならないのは痛いけど、だったら一人ででも帰る方法を見つけて帰りたいと訴えた。

 白磁のような頬から笑みが消え、怜悧な面持ちになった。寒気がするほどに美しく冷たい。

「僕は王女の使者として、シラナミ師団長の復活の事実確認に訪れました。ですが、それ以外にも、場合によっては遂行せねばならない目的があります」

「場合によってはって、どういうことですが?」

「シラナミ師団長の連れてきた師団長そっくりの男が異世界人の白波薩摩であった場合。そして、白波薩摩が話のできる人物であった場合です」

 ソコロフは上着のポケットに片手を入れ、紙片を取り出した。

「あなたと取引をしたい。さすがにここでは難しいから、場所と時間を変えてですが」

「は?」

「取引に応じて頂けるなら、あなたが元の世界に帰る方法をお教えしますし、全力で協力いたします。もし僕の話を少しでも聞く気があるなら、そのメモに記されたところに明日、もう今日か、正午ちょうどに来て欲しい」

 渡されたメモを開くと、どこかの街の地図っぽかった。
 よく見ると、ゲシュタルト教会とか噴水が書き込まれている。俺が厨二時代に考えたルサンチマン王国の都心部の地図と全く同じだった。

「分かった。考えておくよ」

 俺はメモをたたみ直し、ソコロフに差し出した。
 怪訝な顔をされたので、ドヤ顔で言ってやる。

「こういうのは見たら暗記して、すぐ処分するのが鉄則でしょう? そしてこの部屋に軟禁されている俺より、あなたの方が安全かつ速かに処分できる。違いますか?」

 形の良い唇の端がキュッと上がり、ソコロフはメモを受け取ると、上着のポケットにしまった。

「では、正午に。期待していますよ」

 戦闘、開始だ。
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