第5話 親バレ
文字数 1,552文字
俺は激怒した。
かの傍若無人なクソ親父によるプライバシー侵害が15年の時を経て判明した訳だが、黒歴史の覗き見に時効はない。
今時重罪は時効撤廃されてるんだから。
さらに気に入らぬのは、クソ親父は俺が帰宅する前に退散していることだ。
逃げ足早っ。
結局何しに来たんだよ。
俺が仕事で留守にしている間に、クソ親父がサツマ様に語った昔話とやらを聞き、俺は確信した。
あの野郎、俺が学校に行っている間にでも、勝手に俺の部屋に侵入して、黒歴史ノート見やがったな。
学生時代、親父は俺の部屋にノックもせずに入ってきたり、いない間にベッドの下に隠しておいたエロ本を見つけて、机の上に並べたりなどの嫌がらせを楽しんでいた。
サツマ様は親父がルサンチマン王国のことにやけに詳しかったので、騙されかけていたが、なんてことはない。
親父は勝手に見た『設定資料集』の内容を覚えていて、さも自分が体験したかのように語っただけだ。
「しかし、貴様の黒歴史ノートには30年前の話は書いていなかったぞ。木こりのジャックとかも」
サツマ様は口半開きで枝毛探しをしながら指摘してきた。女子か、お前は。
「親父が自分で考えたんだろ、その部分は」
「だが、全て事実と合致していた。創作にしては不自然なくらいに……」
「俺の実在する異世界を無意識に見て妄想に落とし込む能力は親父譲りで、あいつの方がより正確に具現化できるってことじゃないか」
自分で言ってて意味分からないけど、親父が30年以上前にルサンチマン王国に行ったことがある説よりは、ずっとマシな理屈だ。
「そういうことなのか?」
サツマ様はまだ納得していないようだった。
「大体さ、親父が俺の産まれる前に数ヶ月失踪してたとか、聞いたことないぞ」
「パピィは眼鏡にはその件は秘密にしてるって言ってた」
「いやいやあり得ないって。そんな長期間失踪して、納得できる理由もなくノコノコ帰ってきたら仕事クビになるって」
親父は大学卒業後、数年前に定年退職するまで、ずっと同じ会社で働いていた。色々厳しい職場なので、いい加減なことは許されないはずだ。
それからパピィ呼びやめろ。気持ち悪い。
「やはり全部パピィの作り話だったのか」
「決まってんじゃん。確かにあのおっさんは変態だけど、異世界行って帰ってくる程、特殊ではないぞ」
「……しょぼん」
効果音付きで落胆された。ぶりっこがいつもに増して激しい。
「ぶりっこやめろ。文章じゃ伝わりにくいけど、絵面普通に気持ち悪いぞ。自分が日本人丸出しの薄顔のロン毛のおっさんであることを忘れるな」
「ご、ごめんなさい。パピィがこうした方が良いって……」
ええい! 俺の顔でもじもじすんなや! 俺が恥ずかしいだろ。
「素直過ぎるだろ! あれただの変態だから! 真に受けんな。大体何でこんな短時間で手懐けられてるんだよ。ちょろすぎだろ」
「最近自分が分からない。自分がどんな人間だったのか考えてみると、実は自分は何もない気がして怖い。パピィはその点、どう振る舞えば良いか指示してくれるので助かる」
「ちょっ……。唐突に深刻闇深モードになるのやめて。重いから」
とにかく、とにかくだ。
親父の気まぐれに振り回されないよう、サツマ様には強く念を押しておいた。
「風呂入ってくる。うさぎ臭い」
ふわふわした足取りでサツマ様は居間を出て行った。
親父への怒りはおさまらないが、電話するのもしゃくなので、ようつべでも見て気分転換しようとした時だった。
スマホに表示されたようつべのトップ画面に無粋な電話呼び出し画面が割り込んできた。
クソ親父からだった。
かの傍若無人なクソ親父によるプライバシー侵害が15年の時を経て判明した訳だが、黒歴史の覗き見に時効はない。
今時重罪は時効撤廃されてるんだから。
さらに気に入らぬのは、クソ親父は俺が帰宅する前に退散していることだ。
逃げ足早っ。
結局何しに来たんだよ。
俺が仕事で留守にしている間に、クソ親父がサツマ様に語った昔話とやらを聞き、俺は確信した。
あの野郎、俺が学校に行っている間にでも、勝手に俺の部屋に侵入して、黒歴史ノート見やがったな。
学生時代、親父は俺の部屋にノックもせずに入ってきたり、いない間にベッドの下に隠しておいたエロ本を見つけて、机の上に並べたりなどの嫌がらせを楽しんでいた。
サツマ様は親父がルサンチマン王国のことにやけに詳しかったので、騙されかけていたが、なんてことはない。
親父は勝手に見た『設定資料集』の内容を覚えていて、さも自分が体験したかのように語っただけだ。
「しかし、貴様の黒歴史ノートには30年前の話は書いていなかったぞ。木こりのジャックとかも」
サツマ様は口半開きで枝毛探しをしながら指摘してきた。女子か、お前は。
「親父が自分で考えたんだろ、その部分は」
「だが、全て事実と合致していた。創作にしては不自然なくらいに……」
「俺の実在する異世界を無意識に見て妄想に落とし込む能力は親父譲りで、あいつの方がより正確に具現化できるってことじゃないか」
自分で言ってて意味分からないけど、親父が30年以上前にルサンチマン王国に行ったことがある説よりは、ずっとマシな理屈だ。
「そういうことなのか?」
サツマ様はまだ納得していないようだった。
「大体さ、親父が俺の産まれる前に数ヶ月失踪してたとか、聞いたことないぞ」
「パピィは眼鏡にはその件は秘密にしてるって言ってた」
「いやいやあり得ないって。そんな長期間失踪して、納得できる理由もなくノコノコ帰ってきたら仕事クビになるって」
親父は大学卒業後、数年前に定年退職するまで、ずっと同じ会社で働いていた。色々厳しい職場なので、いい加減なことは許されないはずだ。
それからパピィ呼びやめろ。気持ち悪い。
「やはり全部パピィの作り話だったのか」
「決まってんじゃん。確かにあのおっさんは変態だけど、異世界行って帰ってくる程、特殊ではないぞ」
「……しょぼん」
効果音付きで落胆された。ぶりっこがいつもに増して激しい。
「ぶりっこやめろ。文章じゃ伝わりにくいけど、絵面普通に気持ち悪いぞ。自分が日本人丸出しの薄顔のロン毛のおっさんであることを忘れるな」
「ご、ごめんなさい。パピィがこうした方が良いって……」
ええい! 俺の顔でもじもじすんなや! 俺が恥ずかしいだろ。
「素直過ぎるだろ! あれただの変態だから! 真に受けんな。大体何でこんな短時間で手懐けられてるんだよ。ちょろすぎだろ」
「最近自分が分からない。自分がどんな人間だったのか考えてみると、実は自分は何もない気がして怖い。パピィはその点、どう振る舞えば良いか指示してくれるので助かる」
「ちょっ……。唐突に深刻闇深モードになるのやめて。重いから」
とにかく、とにかくだ。
親父の気まぐれに振り回されないよう、サツマ様には強く念を押しておいた。
「風呂入ってくる。うさぎ臭い」
ふわふわした足取りでサツマ様は居間を出て行った。
親父への怒りはおさまらないが、電話するのもしゃくなので、ようつべでも見て気分転換しようとした時だった。
スマホに表示されたようつべのトップ画面に無粋な電話呼び出し画面が割り込んできた。
クソ親父からだった。