第5話 同期のゴリラ
文字数 1,604文字
休み明けの昼休み。
俺は署の屋上で唐澤に摩訶不思議で後悔にまみれた異世界転移の顛末を打ち明けた。
「なるほどねえ。かわいそうだけど完全にストーカー思考ね。でも、本人がまずかったって気づけただけ良かったんじゃない?」
ストーカー対策のプロフェッショナル、生安刑事殿は予想通りと言うべきなのか、あっさりしていた。
「けどさ、俺ももうちょい上手く立ち回れたんじゃないかって後悔が残っちまって」
「でも、あんたさっきモリモリ弁当食べてたし、元気そうよね」
「私生活を仕事に持ち込まないし、仕事を私生活に持ち込まないのが俺らのメンタル安定術だろ」
胸の奥にトゲが刺さって抜けない感じがするけれど、トゲが刺さっていても仕事はできるし、美味しく飯食えるし、ぐうぐう眠れる。
「それもそうね。まあ、私があんたの立場だったとしても、お手上げだったと思う。ルサンチマン王国だっけ? そこの歪みはいつかは何らかの形で暴発してただろうし、よそ者にできることはないわよ。責任感じることないんじゃない」
唐澤女史でもお手上げという言葉は、謙遜だったとしても嬉しかった。
「これが全然自分に関係ない仕事だったら割り切れるんだけどな。さすがにあのサツマ様見てるのはしんどいや」
「へえ、あんたもそうやって人に興味持つんだ」
大仰に驚いた表情しやがる。
「そりゃ数ヶ月ひとつ屋根の下に暮らした仲だし、異世界の俺的な存在。双子みたいな存在だからさ。一歩間違えば、俺もああなってたのかと思うと放って置けない」
唐澤は急に真顔になって言った。元の顔がとてつもなく良いので、真顔になられると美しすぎて謎の威圧感が出る。
「前半は同意だけど、後半は同意できないな」
「そ、そうか? 俺も結構闇深いよ」
「知ってる。こいつ頭おかしいって思ったことは何度もあるし」
何度もあるのかよ。そんなに変なこと職場ではしてないよ。
でもね、と唐澤は空を仰いだ。
春先の良く晴れた青空は呑気に澄み切って青い。
「あんたは絶対に道を外さない。変だけど信用はできる。同期としてそこだけは断言できる」
「お、おう」
ここまで真正面から褒められると照れる。
しかし、俺の純情を打ち砕くように美人刑事は続けた。
「大体さ、あんた不真面目だし、机周り汚くて、絶対家も汚そうだし、怠け者だし、ガサツだし、デリカシーないし、メンタルゴリラだし、エロいことばっか考えてるし、何歩間違えてもサツマ様にはならないよ。綺麗好きで家事してくれて、最近はカフェで真面目に働いてるんでしょう? あんたよりずっと偉いし純粋じゃん」
「あのなあ、慰めたいの? disりたいの?」
「喝入れたい。あんた私に慰めてもらいたいタマ?」
違うか。俺のキャラとはちょい違う。
「私は外野だから、突っ込んだアドバイスはできないけど、基本はサツマ様が自分で立ち上がるのを見守るしかないんじゃないかな。時間が解決することもあるしね。異世界のあんたなら、意外にすぐ復活するかもよ」
そうかな、と俺は首を捻ったが、唐澤はそうだよと笑った。
「手に負えなくなったら、遠慮無く言ってもらって構わないけどね。近々、おじいちゃんがうちに遊びに来るから、サツマ様連れておいでよ。おじいちゃん、サツマ様にめっちゃ興味持ってるから」
さすがスーパーハイスペックジジイ。好奇心に衰えはないようだ。
礼を唐澤に告げて、俺は執務室に戻った。
唐澤が言う程、楽観視はできないだろうけど、真っ暗だった目の前に一筋の光明が見えた気がした。
仕事に戻る前に、スマホを確認すると、サツマ様からメールが届いていた。
『かえり、AEONのフードコートでまてる。買い物しらい』
メールの文面は微妙に進化していた。
すぐに返信をしてやった。
『りょ』
俺は署の屋上で唐澤に摩訶不思議で後悔にまみれた異世界転移の顛末を打ち明けた。
「なるほどねえ。かわいそうだけど完全にストーカー思考ね。でも、本人がまずかったって気づけただけ良かったんじゃない?」
ストーカー対策のプロフェッショナル、生安刑事殿は予想通りと言うべきなのか、あっさりしていた。
「けどさ、俺ももうちょい上手く立ち回れたんじゃないかって後悔が残っちまって」
「でも、あんたさっきモリモリ弁当食べてたし、元気そうよね」
「私生活を仕事に持ち込まないし、仕事を私生活に持ち込まないのが俺らのメンタル安定術だろ」
胸の奥にトゲが刺さって抜けない感じがするけれど、トゲが刺さっていても仕事はできるし、美味しく飯食えるし、ぐうぐう眠れる。
「それもそうね。まあ、私があんたの立場だったとしても、お手上げだったと思う。ルサンチマン王国だっけ? そこの歪みはいつかは何らかの形で暴発してただろうし、よそ者にできることはないわよ。責任感じることないんじゃない」
唐澤女史でもお手上げという言葉は、謙遜だったとしても嬉しかった。
「これが全然自分に関係ない仕事だったら割り切れるんだけどな。さすがにあのサツマ様見てるのはしんどいや」
「へえ、あんたもそうやって人に興味持つんだ」
大仰に驚いた表情しやがる。
「そりゃ数ヶ月ひとつ屋根の下に暮らした仲だし、異世界の俺的な存在。双子みたいな存在だからさ。一歩間違えば、俺もああなってたのかと思うと放って置けない」
唐澤は急に真顔になって言った。元の顔がとてつもなく良いので、真顔になられると美しすぎて謎の威圧感が出る。
「前半は同意だけど、後半は同意できないな」
「そ、そうか? 俺も結構闇深いよ」
「知ってる。こいつ頭おかしいって思ったことは何度もあるし」
何度もあるのかよ。そんなに変なこと職場ではしてないよ。
でもね、と唐澤は空を仰いだ。
春先の良く晴れた青空は呑気に澄み切って青い。
「あんたは絶対に道を外さない。変だけど信用はできる。同期としてそこだけは断言できる」
「お、おう」
ここまで真正面から褒められると照れる。
しかし、俺の純情を打ち砕くように美人刑事は続けた。
「大体さ、あんた不真面目だし、机周り汚くて、絶対家も汚そうだし、怠け者だし、ガサツだし、デリカシーないし、メンタルゴリラだし、エロいことばっか考えてるし、何歩間違えてもサツマ様にはならないよ。綺麗好きで家事してくれて、最近はカフェで真面目に働いてるんでしょう? あんたよりずっと偉いし純粋じゃん」
「あのなあ、慰めたいの? disりたいの?」
「喝入れたい。あんた私に慰めてもらいたいタマ?」
違うか。俺のキャラとはちょい違う。
「私は外野だから、突っ込んだアドバイスはできないけど、基本はサツマ様が自分で立ち上がるのを見守るしかないんじゃないかな。時間が解決することもあるしね。異世界のあんたなら、意外にすぐ復活するかもよ」
そうかな、と俺は首を捻ったが、唐澤はそうだよと笑った。
「手に負えなくなったら、遠慮無く言ってもらって構わないけどね。近々、おじいちゃんがうちに遊びに来るから、サツマ様連れておいでよ。おじいちゃん、サツマ様にめっちゃ興味持ってるから」
さすがスーパーハイスペックジジイ。好奇心に衰えはないようだ。
礼を唐澤に告げて、俺は執務室に戻った。
唐澤が言う程、楽観視はできないだろうけど、真っ暗だった目の前に一筋の光明が見えた気がした。
仕事に戻る前に、スマホを確認すると、サツマ様からメールが届いていた。
『かえり、AEONのフードコートでまてる。買い物しらい』
メールの文面は微妙に進化していた。
すぐに返信をしてやった。
『りょ』