第11話 地下室にて
文字数 1,267文字
ソコロフは何度か脇道に入り、その度に道幅は狭まりって人通りは減り、やがてうらぶれたアパルトメントの立ち並ぶダウンタウンへと入った。
そして、ある薄汚れた外壁のビルの勝手口の奥へと消えていった。
俺も建て付けの悪い木製のドアを開けてみると、急傾斜の下り階段があり、ソコロフの姿はすでに見えなくなっていた。
ランプの灯はあるが、階段の先に何があるのかは地上からは確認できない。
一瞬戻るべきか迷ったけれど、腹を括って階段を降りていくことにした。
深淵を覗く者はなんちゃら……なんて厨二臭い台詞が頭を過ったけど、俺には深淵に取り込まれない自信がある。
いい加減でやる気のないダメ警官だけど、根は真面目な地方公務員なのさ。
2階分はあろう長い階段のどん詰まりの左手には分厚い鉄の扉があった。
控えめにノックをし、来訪を告げると、笑顔のソコロフが迎え入れてくれた。
「よく来てくれました。あなたなら大丈夫だろうとは思っていましたが」
慇懃な素振りで奥に入るよう促される。
地下室は学校の教室くらいの広さのスペースにテーブルやソファ、酒瓶を並べたカウンターが置かれたバーのような空間だった。
無骨なコンクリートの壁がここが限られた者だけしか入室できないアウトローな空間であることを物語っていた。
「早速交渉をしたいのですが、奥にもう一人あなたにお願いをしたいゲストがいらっしゃいます」
ソコロフは部屋の壁沿いにある稼動式の本棚をずらした。
本棚の奥には壁ではなく扉が現れる。
「失礼いたします。お約束の方をお連れしました」
ノックをし、イケメンがイケボで囁くとドアの奥から「入れ」と短い返事が聞こえた。
王女ボニー様がお忍びでいらっしゃると予想していたのだけれど、声は明らかにおっさんだった。
「さあ、お入りください」
ドアが開き、執事のように振る舞うソコロフに付き添われて入った部屋はシャンデリアの下がった応接室だった。
エンジのふかふかの絨毯や高そうな調度品からしてVIPルームみたいな感じ?
「ようこそ、白波薩摩くん。お会いできて光栄だ」
ソファから立ち上がり、にこりともせずにそう俺に告げた男の姿に、不覚にも息を呑んだ。
しかつめらしい表情で、近衛師団の軍服とは違う、旧日本陸軍の将校に似たカーキ色の軍服を着て、腰に軍刀を下げたそいつの顔を俺はよく知っていた。
ただし、俺の知っているそいつは、いつもヘラヘラしてて軽薄で、よれた服にボサボサの髪で、時代遅れのデザインの汚れた眼鏡をかけている。
巣鴨の露と消えた某陸軍出身の元総理みたいな丸眼鏡なんてあいつは持ってないし、奴が目の前の男のように髪をポマードできっちり七三に整えているところも見たことがない。
でも、そいつが誰なのか、俺にとってどういう存在なのか、俺は理解できた。
「こちらこそはじめまして。コータロー・シラナミさん」
ルサンチマン王国の親父、つまりはサツマ様の実父は重々しく、うむと頷いた。
そして、ある薄汚れた外壁のビルの勝手口の奥へと消えていった。
俺も建て付けの悪い木製のドアを開けてみると、急傾斜の下り階段があり、ソコロフの姿はすでに見えなくなっていた。
ランプの灯はあるが、階段の先に何があるのかは地上からは確認できない。
一瞬戻るべきか迷ったけれど、腹を括って階段を降りていくことにした。
深淵を覗く者はなんちゃら……なんて厨二臭い台詞が頭を過ったけど、俺には深淵に取り込まれない自信がある。
いい加減でやる気のないダメ警官だけど、根は真面目な地方公務員なのさ。
2階分はあろう長い階段のどん詰まりの左手には分厚い鉄の扉があった。
控えめにノックをし、来訪を告げると、笑顔のソコロフが迎え入れてくれた。
「よく来てくれました。あなたなら大丈夫だろうとは思っていましたが」
慇懃な素振りで奥に入るよう促される。
地下室は学校の教室くらいの広さのスペースにテーブルやソファ、酒瓶を並べたカウンターが置かれたバーのような空間だった。
無骨なコンクリートの壁がここが限られた者だけしか入室できないアウトローな空間であることを物語っていた。
「早速交渉をしたいのですが、奥にもう一人あなたにお願いをしたいゲストがいらっしゃいます」
ソコロフは部屋の壁沿いにある稼動式の本棚をずらした。
本棚の奥には壁ではなく扉が現れる。
「失礼いたします。お約束の方をお連れしました」
ノックをし、イケメンがイケボで囁くとドアの奥から「入れ」と短い返事が聞こえた。
王女ボニー様がお忍びでいらっしゃると予想していたのだけれど、声は明らかにおっさんだった。
「さあ、お入りください」
ドアが開き、執事のように振る舞うソコロフに付き添われて入った部屋はシャンデリアの下がった応接室だった。
エンジのふかふかの絨毯や高そうな調度品からしてVIPルームみたいな感じ?
「ようこそ、白波薩摩くん。お会いできて光栄だ」
ソファから立ち上がり、にこりともせずにそう俺に告げた男の姿に、不覚にも息を呑んだ。
しかつめらしい表情で、近衛師団の軍服とは違う、旧日本陸軍の将校に似たカーキ色の軍服を着て、腰に軍刀を下げたそいつの顔を俺はよく知っていた。
ただし、俺の知っているそいつは、いつもヘラヘラしてて軽薄で、よれた服にボサボサの髪で、時代遅れのデザインの汚れた眼鏡をかけている。
巣鴨の露と消えた某陸軍出身の元総理みたいな丸眼鏡なんてあいつは持ってないし、奴が目の前の男のように髪をポマードできっちり七三に整えているところも見たことがない。
でも、そいつが誰なのか、俺にとってどういう存在なのか、俺は理解できた。
「こちらこそはじめまして。コータロー・シラナミさん」
ルサンチマン王国の親父、つまりはサツマ様の実父は重々しく、うむと頷いた。