第6話 集いしトレーナーたち

文字数 1,850文字

 お二人とも独特ですね。
 さすが双子と言うべきか。

 非常に不本意なのだが、先生は苦笑いしながら、俺とサツマ様の絵を評した。

 あっちは太陽黒いし、メイン焼却炉だし、虫みたいな犬描いたり、典型的なやべえ精神状態が表出した画伯だけど、俺は違うだろう。

 学生時代、ホラー漫画家に憧れていた時期もあった故、若干ホラー要素が抜け切れないけどさあ。

 所詮、田舎の市民センターで講師やってる先生なんて、画家一本じゃ食えないレベルなんだろうし、仕方ないのか。

 俺の芸術的価値の高い一枚を理解できないなんて気の毒だと思うしかない。

 まあそんな感じでしょっぱなから気分を害したので、二度とここには来るまいと早々に決めたのだけど、帰り道、サツマ様は目を輝かせて言った。

「楽しかったな。来週も行こう」

 えー?!

「お前あれ楽しかったの? 独特とか貶されたのに」

「個性があることは良いことだ。前から思っていたが、眼鏡は自意識拗らせていると言うか、ネガティブ過ぎないか? 傷つくのを恐れていたら何もできないぞ。鈍感力だっけ。大切だとテレビでも言ってた」

 さすが、ポジティブ過ぎるのが原因でそこかしこでトラブルを生み、しまいには異世界追放されただけある。
 元気の押し売りがうぜえ!

「余計なお世話だよ。世知辛い現代社会で生き抜くにはネガティブなくらいの方がちょうど良いの。俺はもう来週はいいや。行きたいなら一人で行ってくれよな」

「来週は裸婦デッサンだって言ってたぞ。貴様そういうの好きだろう?」

 鼻息を荒くするな! つーか、中学生じゃないんだから、美術の裸婦デッサンで興奮する訳ない、と思う。

「どうせ微妙なおばさんだよ。お前こそめっちゃ楽しみにしてんじゃねーかよ。期待しない方が良いぞ」

「いや、ボニー様の裸体に勝てる女なんていないと思ってるから、さほど期待してない」

「え?! お前、あの女の裸見たことあるの? なんだ。やることやってんじゃん」

「声がでかい!」

 口元をやけにがっちり塞がれた。息苦しい。もしかして殺されるの? 俺。

 腕の中で俺の意識が徐々に遠のいているのに、サツマ様は耳まで赤くなりながら小声で早口に捲し立てた。

「俺はやってない。その、夜にお部屋に呼び出された時に、ベッドに他の男と一緒に裸で休憩されておられたり、お部屋の方から変な声が聞こえるから見に行ったら、最中だったことがよくあっただけだ」

「むがむがむががが……」

 話そうとしたのだが、口を封じられてしまっているので言葉にならなかった。
 でも、そのおかげでやっと俺が窒息しかけているのにサツマ様は気付いたようで解放してくれた。

 あー死ぬかと思った。

「そんな頻繁にNTR起こってたの? よくそんな地獄みてえなの我慢できてたな」

「ボニー様の裸体が拝めるとか乱れた姿に興奮するとかのメリットの方が大きくて。俺相手には絶対そんな姿お見せにならなかったし」

 何か思い出すものがあったのか、サツマ様はグフっとほくそ笑んだ。
 分厚い前髪で目元が隠れて余計に気味が悪い。

「言ってて悲しくならない?」

「別に。相手の男は遠からず全員この手で葬っていたし」

「出たよ! サイコパス発言! この子病んでるよー。怖いよー」

 そんな他愛もない? 会話をしながら歩いていると、児童遊園の中に人だかりが見えてきた。
 老若男女10人くらいが噴水の前に集まっている。

「何だ? 公開処刑でも始まるのか?」

「やらねーよ。お前の故郷の恐怖政治国家と一緒にしないで」

「じゃあ何だ? 大道芸人でも来るのか?」

「今時?」

 公園の入り口まで近づくと、人々が皆スマホを手にしていることに気づいた。
 あ、もしかして。

 俺も立ち止まってスマホを取り出し、グーグルさんに聞いてみる。
 検索結果を見て納得。なるほどね。
 しかしあれまだ流行ってたんだ。

「眼鏡、行ってみよう。もしかして蛇女が見られるかもしれない」

 前近代的な発想丸出しのサツマ様を引き留める。

「蛇女いねえよ。そうじゃなくて、この公園の噴水がポケニャンランっていう携帯のゲームのスポットになってるんだよ。あの人たちはみんなポケニャンランのレアキャラ捕まえに来てるんだと思う」

「ポケ……ニャン?」

 小首を傾げるサツマ様に俺はポケニャンランなるゲームの概要と歴史を簡単に説明してやった。
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