第3話 笑っていいとも?

文字数 1,895文字

 サツマ様が仕事に出かけるのを寝たふりをしてやり過ごした後も、一日何だか落ち着かなかった。

 テレビをつけても、Twitterやっても、ようつべ見ても、5◯ゃん眺めても、pixi◯巡回しても、もう何しててもそわそわするっ!

 どうしよ、外行こうかな? でも別に行きたいとこねえよな。
 こんな急に遊んでくれる友達もいねえし、彼女なんかもっといねえし、とぐだぐだしているうちに、夕方になっていた。
 今日も休日を無駄に過ごしてしまったという罪悪感にかられながら、夕食用の米を炊いていた。

 何となく、スマホを見ると、ほぼ迷惑メールかAmazo◯さんからの発送メールしか受信しないメールに新着メールが届いていた。

 差出人名『サツマ様』の表示に、俺は大学受験の時、合格発表サイトを開いた時並に緊張してメールを開封した。

『ちょとにじかんくらいおそくなる。さきぱべてて(^ω^)』

 携帯持ち始めのおじいちゃんでも、もう少しマシなメールを作れるのではないかと思った。
 変換のやり方がわからなかったっぽいくせに、無駄に顔文字使ってるのがシュールだ。
 しかも(^ω^)とかお前のキャラじゃねえだろ。

 突っ込みどころ満載のメールにくすりとさせられつつも、俺はどこかでほっとしていた。
 サツマ様と2人きりで過ごす時間が気まずかったので、何の用事だか知らんが、その時間が短くなるのは望ましかった。

『りょ』

 とだけ返信し、俺は少しだけだが伸びた猶予期間に、帰宅したサツマ様をどう迎えれば良いか考えながら、用事を済ませた。

 結局、いつもと大して変わらず、ただちょい優しめに迎えてやるのが、ベストかというところに着地した。
 考えた割に大した結論じゃなくて悪かったな。
 でも、変に気を遣われるのもあいつ嫌がりそうだし。
 普通が一番だよ、普通が。

 だから、廊下の先から玄関ドアを開錠する音が聞こえても、俺は敢えて出迎えには赴かず、居間で面白くもないバラエティを見ているふりをしていた。

「ただいま」

「ああ、おかえ……ブボっ!」

 一応挨拶くらい顔見てしてやるかと思って振り返った俺をとてつもない不意打ちが襲った。

 サツマ様はパーカーのフードを被り、紐を限界まで絞り、顔だけを露出させた海坊主スタイル(仮)だったのだ。

 え? 何これ? ネタ? 小学生かよ!

 思わず吹き出してしまったのだが、サツマ様は真顔のまま、荷物を床に置くと洗面所に手洗いに行ってしまった。

 ネタじゃない? 笑っちゃいけなかったヤツ?

 もしかして今の反応は大失敗だったのかと悩んでいると、サツマ様は洗面所から戻ってきた。
 相変わらずの海坊主スタイル(仮)のまま。

「ご飯、余ってるか?」

「あ、うん。おかずは冷凍のがあるから食っていいよ」

 え? そのまんま飯の準備するの? 何なの?
 聞きたいけど、聞いちゃいけない感がやべえ。
 自分の家なのに居心地悪い。
 実家帰りたい。

 フードを被ったままの状態で、サツマ様は淡々と夕飯の準備をし、テーブルについて食べ始めた。
 気まずい沈黙の中、冷凍餃子を食べ終えたサツマ様はおもむろに箸を置いて、こちらを見た。

「何も聞かないんだな……」

 聞いて欲しかったの? わかりづれーよ!
 察してちゃんかよ!

「ごめん、触れちゃいけない気がして。どうしてフード脱がないの?」

「……」

 無視かよ! 聞いてやったのに。

「あの、聞いてるんだけど」

「……答えたくない。絶対笑われるから嫌だ」

「はあ? 何? 頭にキノコでも生えたか? 前に銀◯であったよな。馬鹿の頭にしか生えないキノコ」

 サツマ様は深い深いため息をついた。
 そして、自らフードに手をかけると、一気に脱いだ。

 当たり前だが、キノコは生えていなかった。
 だけど、ファンタジー的にはかっこいい艶のある長ったらしい黒髪が、色や艶はそのままに、キノコの傘みたく、短く切り揃えられていた。

 何となく予想はついていたけれど、いざ目のあたりにすると、俺も小さくないショックを受けた。

 でも、確か最近ちょっと流行ってる髪型だよね、これ。
 何だっけ。キノコカットじゃなくて、お洒落な名前があった気がするけど出てこねえ。

「あ、えーと。イメチェンしたんだ。公然わいせつカット? いいね、似合ってるよ」

 俺の台詞を合図のように、サツマ様はテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。
 綺麗に刈り上げて処理されたうなじが白くて頼りなげだった。
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