第1話 蘇るストーカー

文字数 1,549文字

 最近、サツマ様の様子がおかしい。

 前から常におかしかったけど、輪をかけておかしいと気づいたのは、GWに入った頃だった。

 連休になって暇になったので、俺たちは一緒に暇つぶしに映画やら海外ドラマやらアニメを見るようになった。

 ボーッと適当に選んだ作品を見て、ふわっと感想を言い合うような緩い観賞会を開催しているうちに、俺はある傾向に気づいてしまったのだ。

 観賞会を終え、キッチンでドリップ式コーヒーを入れているきのこ頭に話しかけた。

「サツマ様さ、パツキンの清楚系お嬢様ヒロイン好きだよね」

「べべべべべべべ別にいいいいいい」

 むっちゃ動揺してる。
 お前、ビチャビチャにコーヒー溢れてるぞ!

「全然、偶然だし。ボニー様に似てる系の女優が気になっちゃうとかそんなの全然ないから」

「そこまで言ってないじゃん! 全部ゲロるなよ!」

 うう、とサツマ様はうめいた。

「今よく考え直すと、あの時はボニー様もかなり混乱していた。他の王家の方々や憲兵隊だの反近衛師団の圧力もあって、ご自身の身や国の安泰を考えると、俺を拒絶するフリをするしかなかったんじゃないかって気がしてきているのだ」

「いや、お前今の台詞、前半と後半矛盾してるぞ。かなり混乱してた人がそんな冷静な政治的判断できないっしょ」

 ボニー様、本気でお前のこと嫌がってたよ、とは俺も鬼じゃないので言わずにいてやる。

「言い方が悪かった。でも思うのだ。もしかして、今頃ボニー様は、少し時間が経って冷静になって、この前のことを後悔なさっているのではないかとか寂しい思いをされているのではないかとか」

 コーヒーで茶色に染まった台拭き片手に居間にやってきた奴の顔は希望で生き生きとしていた。
 あーあ。また居心地の良い妄想の世界に戻りかけてる。
 やべえよ、ヤンデレストーカー思考再発してるよ。
 まあ簡単に引かないのがストーカーのストーカーたる所以ではあるのだけどね。

 お巡りさんとして、見逃すのは良くないな。
 ビシッと説諭しとこ。

「お前が冷静になれよ。この前の王宮でのどさくさの前に、そもそもお前、あの女に殺されかけてるじゃん」

「あの女とか言うな! 不敬だぞ!」

「うるせーよ。怒鳴んな。俺はね、外野として客観的な意見を言ってるの。ボニー様今頃、お前がいなくなってようやく心休まる日々を過ごしてらっしゃるに違いないよ」

「き、貴様にボニー様の何がわかるんだ! 俺はあの方に15年お仕えしているのだぞ」

「さあな。でも、15年も仕えてたくせに、彼女の気持ちなんて何も分からず、ストーキングしてたお前よりはボニー様のお気持ち分かるつもりだよ」

 短い時間だったけど、直接話聞いてるしね。
 サツマ様は怒りで顔を赤くしていたが、反論する言葉に詰まった。
 そこに俺は追い討ちをかける。

「サツマ様さ、これから先お前がどんな金持ちになろうと、どんな権力を手にしようと、どんな愛されきのこに生まれ変わろうと、ボニー様が君に振り向くことはあり得ないから。いい? 忘れんなよ。ボニー様が君のことを好きになるなんてあり得ません。大事に思うなら、潔く身を引きなさい」

「……分かった」

 小さな声で呟くと、サツマ様は回れ右して風呂場の方に消えた。おって脱衣所のドアを閉める音が響く。

 一応引いたように見えているけど、まだ危ういと俺の刑事の勘が告げていた。
 どうしたものかね。
 昔の恋を忘れるには新しい恋と言うけど、あんなの紹介したら相手の女性に申し訳ないし、そもそも俺に紹介できる女友達なんていねえし……。

 仕方ない。背に腹は変えられない。
 俺はスマホを取り出すと、ある人物に架電した。
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