第4話 夢中になれること
文字数 1,631文字
いい意見だと思ったのに、ツルガちゃんは呆れ顔で嘆息した。
「仮にさ、ギャルゲーの女に夢中になったとしても、今度声優とキャラの区別つかなくなって、声優の家に押しかけて逮捕されるタイプだよ、そういう人は」
「あ……」
さすがツルガちゃん。盲点ついてきやがる。けど、言われてみればそのとおりだった。無関係の声優さんに迷惑をかける訳にはいかない。
「あの、俺はそこまでまずくないぞ」
控え目にサツマ様が挙手して口を挟んできた。
「ごめん、説得力ない。お前ならやる。できる」
「うん。悪いけど、見るからにやりそう」
俺とツルガちゃん二人ほぼ同時に否定した。
サツマ様はしゅんとしょげかえり、体育座りをし、ギュッと縮こまってしまう。
「でもさあ、何も他に考えることがないと、ストーカー思考から抜け出せないよ。何か良い案ない? ツルガちゃん」
「そんなこと言われても……。ペットを飼うとかは?」
「うちはペット禁止物件だし、こいつペットに歪んだ愛情向けそうじゃん。かわいそうだよ、ペットが」
「そうだね。『猫が可愛すぎるから永遠にこの可愛さを保存するために殺しました』とか言いそう」
「だろ? 生き物とか人が関わるのはナシだ。死体が出る」
「けど、他に何ある? 習い事でもさせる? 社会性が身につくかもしれないし」
「先生が美人でストーカー化したらまずい」
「先生がおっさんのにすりゃ良いじゃん」
「先生がおっさんなんて、夢中になれないだろ」
「それお兄ちゃんの基準!」
兄妹で息の合ったノリツッコミが楽しくて、つい本題を忘れていると、自分の殻に閉じこもっていたサツマ様がもそもそと動き、雑誌ラックから冊子を持ってきて、俺たちに差し出した。
「これ、やってみたい」
サツマ様の広げたページには、市役所からのお知らせと大きなタイトルが銘打たれ、『絵画教室参加者募集』とあった。
「絵描きたいの? お前」
サツマ様は無言で頷いた。気恥ずかしいのか、俯いたまま、目線を合わそうとしない。
「先生おじさんみたいだし、行ってみれば」
ツルガちゃんは再び寿司をもりもり食べ始めていた。
「でもこいつ一人で行かせるの危険だって」
「じゃあお兄ちゃん付き添いで行けば良いじゃん」
「俺仕事あるもん!」
「毎週日曜朝9時から開催って書いてあるけど。今カレンダー通りの勤務なんでしょ。当番ない日なら行けるじゃん」
そんな勝手言うなよ。日曜の朝なんて俺寝てるよ。
「……行きたい。絵を描けば気持ちが落ち着いて気が紛れる気がする」
「行ってあげなよ。お兄ちゃんの分身なんでしょ」
「頑張るから」
サツマ様はあざとく、俺のシャツの裾を引き、上目遣いでおねだりしてくる。
重めの前髪の隙間からチラッチラ、俺の顔色を盗み見し、目が合うと頬を染めて視線を外す。
かわいくねー! 殴りたい、このきのこ。
「どうしたのよ。親身にストーカー治す方法考えてあげるんじゃなかったの? かわいそうじゃない。こんな可愛いのに」
妹の思わぬ援護射撃に、俺は耳を疑った。
「可愛い? これのどこが? つーか、ツルガちゃんちょろすぎない? 変な男に騙されないかお兄ちゃん心配なんだけど!」
「そ、そんな心配大きなお世話よ! た、ただお兄ちゃんと同じ顔で、変質者オーラ出てて気持ち悪いって思ってたはずなのに、よ、よく見ると可愛いんだもん! 健気だし。何かもじもじしてるし、お兄ちゃんと違って肌綺麗でほっぺた柔らかそうだし、ここの刈り上げ、触ると気持ち良いよ」
「それ騙されてる!」
何後頭部触られて気持ち良さそうに『クーン』とか言っちゃってんの? クソきのこ!
結局、ちょっと色々心配なツルガちゃんの押しに俺は渋々折れた。
俺は付き添いだし、実は絵は結構得意なので、適当にやり過ごせば良いやと割り切ることにした。
「仮にさ、ギャルゲーの女に夢中になったとしても、今度声優とキャラの区別つかなくなって、声優の家に押しかけて逮捕されるタイプだよ、そういう人は」
「あ……」
さすがツルガちゃん。盲点ついてきやがる。けど、言われてみればそのとおりだった。無関係の声優さんに迷惑をかける訳にはいかない。
「あの、俺はそこまでまずくないぞ」
控え目にサツマ様が挙手して口を挟んできた。
「ごめん、説得力ない。お前ならやる。できる」
「うん。悪いけど、見るからにやりそう」
俺とツルガちゃん二人ほぼ同時に否定した。
サツマ様はしゅんとしょげかえり、体育座りをし、ギュッと縮こまってしまう。
「でもさあ、何も他に考えることがないと、ストーカー思考から抜け出せないよ。何か良い案ない? ツルガちゃん」
「そんなこと言われても……。ペットを飼うとかは?」
「うちはペット禁止物件だし、こいつペットに歪んだ愛情向けそうじゃん。かわいそうだよ、ペットが」
「そうだね。『猫が可愛すぎるから永遠にこの可愛さを保存するために殺しました』とか言いそう」
「だろ? 生き物とか人が関わるのはナシだ。死体が出る」
「けど、他に何ある? 習い事でもさせる? 社会性が身につくかもしれないし」
「先生が美人でストーカー化したらまずい」
「先生がおっさんのにすりゃ良いじゃん」
「先生がおっさんなんて、夢中になれないだろ」
「それお兄ちゃんの基準!」
兄妹で息の合ったノリツッコミが楽しくて、つい本題を忘れていると、自分の殻に閉じこもっていたサツマ様がもそもそと動き、雑誌ラックから冊子を持ってきて、俺たちに差し出した。
「これ、やってみたい」
サツマ様の広げたページには、市役所からのお知らせと大きなタイトルが銘打たれ、『絵画教室参加者募集』とあった。
「絵描きたいの? お前」
サツマ様は無言で頷いた。気恥ずかしいのか、俯いたまま、目線を合わそうとしない。
「先生おじさんみたいだし、行ってみれば」
ツルガちゃんは再び寿司をもりもり食べ始めていた。
「でもこいつ一人で行かせるの危険だって」
「じゃあお兄ちゃん付き添いで行けば良いじゃん」
「俺仕事あるもん!」
「毎週日曜朝9時から開催って書いてあるけど。今カレンダー通りの勤務なんでしょ。当番ない日なら行けるじゃん」
そんな勝手言うなよ。日曜の朝なんて俺寝てるよ。
「……行きたい。絵を描けば気持ちが落ち着いて気が紛れる気がする」
「行ってあげなよ。お兄ちゃんの分身なんでしょ」
「頑張るから」
サツマ様はあざとく、俺のシャツの裾を引き、上目遣いでおねだりしてくる。
重めの前髪の隙間からチラッチラ、俺の顔色を盗み見し、目が合うと頬を染めて視線を外す。
かわいくねー! 殴りたい、このきのこ。
「どうしたのよ。親身にストーカー治す方法考えてあげるんじゃなかったの? かわいそうじゃない。こんな可愛いのに」
妹の思わぬ援護射撃に、俺は耳を疑った。
「可愛い? これのどこが? つーか、ツルガちゃんちょろすぎない? 変な男に騙されないかお兄ちゃん心配なんだけど!」
「そ、そんな心配大きなお世話よ! た、ただお兄ちゃんと同じ顔で、変質者オーラ出てて気持ち悪いって思ってたはずなのに、よ、よく見ると可愛いんだもん! 健気だし。何かもじもじしてるし、お兄ちゃんと違って肌綺麗でほっぺた柔らかそうだし、ここの刈り上げ、触ると気持ち良いよ」
「それ騙されてる!」
何後頭部触られて気持ち良さそうに『クーン』とか言っちゃってんの? クソきのこ!
結局、ちょっと色々心配なツルガちゃんの押しに俺は渋々折れた。
俺は付き添いだし、実は絵は結構得意なので、適当にやり過ごせば良いやと割り切ることにした。