第2話 お父さん?と一緒
文字数 1,384文字
異世界から来たの。なるほどねー。納得納得。
俺の身の上に関するにわかには信じがたい話を聞いた後、眼鏡父はいたくあっさりとした感想をこぼした。
「いやあ、乱暴してごめんごめん。てっきりうちの薩摩くんがクロの組織に誘拐されて、クローン人間と入れ替えられて、本人は組織のアジトに監禁されてるかと思ってさ。ついね」
異世界人説も突飛だが、それに負けない突飛な発想をする男だ。堅物の俺の父とは大分異なる。
「でもさ、それなら逃げることないんじゃない? 後ろめたいとこないんだし」
「……説明しても信じてもらえないだろうと思ったから」
良くないね、とあぐらをかいた膝を叩いて、眼鏡父は一喝した。
「どうせ話しても分からないなんて、人の理解力を勝手に決めないでくれないかな。ましてやおじさんと君は初対面だよ。君におじさんの何が分かるって言うんだ。君の世界のおじさんとも大分性格違うみたいだし」
「すみません」
「話しても分からないから話さないってのが一番良くない。一瞬最もらしく聞こえるけど、コミュニケーションの放棄であり怠慢だ。それでいて、察して欲しい、とか何で分かってくれないのだろうとか考えちゃわない? 分かるわけないじゃん、言われてないんだから。人にものを伝えることから逃げちゃだめだよ」
話しても最初から答えは決まっていて、全然意味がなかったじゃないかと反論しそうになり呑み込む。
このおっさんは俺の父ではない。眼鏡の父で、俺と眼鏡が違うように、父親同士の性格も今までの経歴も異なるのだ。
「申し訳なかった」
「謝り方がかわいくないね。もう一回やり直し。『ごめんなさい』って言うんだ」
ご丁寧に自ら身をくねらせて、手本を見せてくれた。さすが眼鏡の父親。頭がおかしい。
俺は父権的な自分の父親に苦手意識があったが、このおっさんの意味不明なノリも苦手だ。
「ほら、どうした? ちゃんと謝んないとおじさん許さないよ」
「…ごめんなさい」
「違う! 憮然としない! もっとおどおどした感じで! 怯えた小動物をイメージするんだ!」
「ご、ごめんなさい」
「半泣きで! キュルンって効果音を出すつもりで!」
「はう…ごめんなしゃい…」
俺の渾身の可愛い? 謝罪に、眼鏡父は水揚げされたばかりの魚みたいに床の上で悶えて喜んだ。
気持ち悪さは歳を重ねている分、眼鏡を超えているかもしれない。
「いいよー! かわいい! やればできるじゃん。許しちゃう。かわいいから何でも。かわいいは正義! よおし、良くできた御褒美におじさんが良いところに連れて行ってあげよう」
眼鏡父は俺の頭をゴシゴシと撫でると、立ち上がった。
「良いところ?」
「ああ。かわいいに囲まれて心が洗われるところだ。薩摩くんと行こうと思ってたんだけど、さっちゃんの方が楽しそうだし。心配しなくても夕方には帰るし、薩摩くんには連絡しとくから。今の首傾げるのいいね」
さっちゃんとは俺のことを指すらしい。勝手にあだ名を決めないで欲しい。
レッツゴー! と号令を上げる眼鏡父に連れられ、俺はアパートを出た。
せっかくこの前イオ◯で服を買ったのに、またジャージのまま外出してしまったことに気づいた時には、すでに眼鏡父の運転する車の助手席に収まっていた。
俺の身の上に関するにわかには信じがたい話を聞いた後、眼鏡父はいたくあっさりとした感想をこぼした。
「いやあ、乱暴してごめんごめん。てっきりうちの薩摩くんがクロの組織に誘拐されて、クローン人間と入れ替えられて、本人は組織のアジトに監禁されてるかと思ってさ。ついね」
異世界人説も突飛だが、それに負けない突飛な発想をする男だ。堅物の俺の父とは大分異なる。
「でもさ、それなら逃げることないんじゃない? 後ろめたいとこないんだし」
「……説明しても信じてもらえないだろうと思ったから」
良くないね、とあぐらをかいた膝を叩いて、眼鏡父は一喝した。
「どうせ話しても分からないなんて、人の理解力を勝手に決めないでくれないかな。ましてやおじさんと君は初対面だよ。君におじさんの何が分かるって言うんだ。君の世界のおじさんとも大分性格違うみたいだし」
「すみません」
「話しても分からないから話さないってのが一番良くない。一瞬最もらしく聞こえるけど、コミュニケーションの放棄であり怠慢だ。それでいて、察して欲しい、とか何で分かってくれないのだろうとか考えちゃわない? 分かるわけないじゃん、言われてないんだから。人にものを伝えることから逃げちゃだめだよ」
話しても最初から答えは決まっていて、全然意味がなかったじゃないかと反論しそうになり呑み込む。
このおっさんは俺の父ではない。眼鏡の父で、俺と眼鏡が違うように、父親同士の性格も今までの経歴も異なるのだ。
「申し訳なかった」
「謝り方がかわいくないね。もう一回やり直し。『ごめんなさい』って言うんだ」
ご丁寧に自ら身をくねらせて、手本を見せてくれた。さすが眼鏡の父親。頭がおかしい。
俺は父権的な自分の父親に苦手意識があったが、このおっさんの意味不明なノリも苦手だ。
「ほら、どうした? ちゃんと謝んないとおじさん許さないよ」
「…ごめんなさい」
「違う! 憮然としない! もっとおどおどした感じで! 怯えた小動物をイメージするんだ!」
「ご、ごめんなさい」
「半泣きで! キュルンって効果音を出すつもりで!」
「はう…ごめんなしゃい…」
俺の渾身の可愛い? 謝罪に、眼鏡父は水揚げされたばかりの魚みたいに床の上で悶えて喜んだ。
気持ち悪さは歳を重ねている分、眼鏡を超えているかもしれない。
「いいよー! かわいい! やればできるじゃん。許しちゃう。かわいいから何でも。かわいいは正義! よおし、良くできた御褒美におじさんが良いところに連れて行ってあげよう」
眼鏡父は俺の頭をゴシゴシと撫でると、立ち上がった。
「良いところ?」
「ああ。かわいいに囲まれて心が洗われるところだ。薩摩くんと行こうと思ってたんだけど、さっちゃんの方が楽しそうだし。心配しなくても夕方には帰るし、薩摩くんには連絡しとくから。今の首傾げるのいいね」
さっちゃんとは俺のことを指すらしい。勝手にあだ名を決めないで欲しい。
レッツゴー! と号令を上げる眼鏡父に連れられ、俺はアパートを出た。
せっかくこの前イオ◯で服を買ったのに、またジャージのまま外出してしまったことに気づいた時には、すでに眼鏡父の運転する車の助手席に収まっていた。