第16話 生活リズムを立て直そう①

文字数 1,864文字

 ある日、尾長先生とお風呂の話になりました。

「カバネさんってお風呂にゆっくり入ってる?」
「いえ、大体は朝にシャワーだけですね」
「お風呂は浸かった方が良いよ。身体もほぐれるし、メンタルもリラックスできるし」

 そう言われたのですが、僕はお風呂にゆっくり浸かる、という行為がどうにも苦手なのです。もうすぐに上がっちゃう。5分も浸かれば出たくなっちゃう。

 それ以前に休職する前はとにかく時間が無かったので、夜に湯船を溜める時間なんてありませんでしたし。

「入浴剤とかに凝ってみても面白いと思うよ」
「入浴剤ですか?」
「そうそう。私もお風呂好きだから、色々と持ってるねん。バスソルトとか温泉の元とか。○○ってブランドのバスソルトが好きなんやけど、香りも色々と変えると面白いよ」
「香りですか」
「最近は使い切りタイプとかもあるから、何種類か試しに買って、気に入ったら大きなボトルで買ったりね」
「あ、それ面白そうですね」
「ヨーロッパでは温泉治療なんて言葉もあるし。あまり長風呂しすぎても良くないけど、15分は浸かった方が良いんちゃうかな。まぁ、いちど試してみたら」

 そんな話を終えて、興味を持った僕はドラッグストアへと足を運びました。香りの良いバスソルトを日替わりで試すとか、ちょっと気になるじゃあないですか。んで、森の香り的なグリーンの小袋を一つ購入。多分200円くらい。家に帰って食事を終えてから湯船にサラサラっと流してみたのです。

 ……のですが。

 やっぱり長く浸かれない。何かこう、落ち着かないと言うか、じっとしていられないと言うか。うむむ、これはどうにかならないものか。

 思い返せば、小さい頃からお風呂に浸かるのは苦手でした。色々な人に入浴の効能……疲労回復やリフレッシュ等を勧められてはいたのですが、残念ながら人生の大半を朝シャワーのみで過ごして来たのです。

 色々と考えた挙句、スマホをお風呂場に持ち込んでみました。じっと出来ないなら何かすれば良いじゃないって感じでスマホをポチポチ。手から落としてしまうと大変なことになるので、ジップロックに入れてゲームをしたり動画を見たり。

 これが思いのほか効果テキメンで!!

 いやぁ何年かぶりに30分もの入浴をすることに成功したのですよ。

 厳密に言うと、僕はお風呂が苦手なんじゃなくて、お風呂でじっとしているのが苦手だったのか……そんな事実に生まれて初めて気付いた瞬間でした。

 お風呂にゆっくり浸かると、当然ですが身体が温まります。秋口の気温は寒いという程でもなかったけれど、やはり風呂上りは気持ちの良いもの。それに、僕は中学生の頃から年季の入った腰痛持ちで、お風呂に長く浸かった後は少しだけ腰が軽くなった気もしました。翌朝になれば痛いんですけれども。

 そんな感じでお風呂への苦手意識が薄れていき、少しずつ入浴習慣が作られていきました。

 入浴剤も色々と試したりして、夜は寝る前にお風呂に入る。お風呂にはペットボトルに入れたお茶、ジップロックに入れたスマートフォン、そして手を拭くためのバスタオルを持ち込みます。
 日によっては紙の本も持ち込みました。気が付けば30分、長いときは1時間も経っていたでしょうか。1ヶ月も経つ頃には、僕はすっかりお風呂スキーに。

 季節が冬が近づいて来ると身体も冷えて、お風呂に入るのがなおさらに待ち遠しい。

 なんだったら朝風呂に浸かる時もありました。身体が冷えると腰痛が強まる他、気分的にもあまり良くない状態になりやすかったのです。なるべく早めに寝て、早めに起きて、軽くお風呂に入ってからリワークへ向かう。これが中々に効果的で、体調にも良い影響を与えていたと思います。

 調子に乗った僕はスーパー銭湯へ行ってみました。家のお風呂が好きになったのだから、広い温泉とかも良いじゃないと。

 ……結果は惨敗。

 やっぱり長湯ができないカバネ。だって本とかスマホとか持ち込めないのですもの。お風呂場にスマホを持ち込んだ日には、目に映る全裸の皆様に沈められること火を見るよりも明らかです。

 でもそこは学んだカバネ。探してみると岩盤浴に漫画を持ち込める、そんなスーパー銭湯があるではないですか。

 これならイケる……!!

 予想は見事に的中し、ダラダラと汗をかきながら読む漫画は殊の外に楽しく、銭湯で汗を流して飲むビールの美味さは筆舌に尽くし難いものがありました。

 スーパー銭湯で漫画を読みながらダラダラ過ごす。

 夜寝る前のルーティンに加え、新たな休日の過ごし方スキルを身につける事ができました。
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