第40話 まさかの転院③

文字数 1,647文字

 転院先を探す。それにはまず、調べる方針が大事だと考えたカバネ。むやみやたらに調べても雲を掴むようなものと思い、少し範囲を絞ることにしました。

 まずは藤本さんに教えてもらった通り、僕が服用している『コンサータ』を処方できる先生であること。そして発達障害について知見があること。

 どうも心療内科と一口に言っても、その専門はうつ病や双極性障害、睡眠障害や発達障害など、内実は分かれているそうなのです。

 そして立地。できれば今の病院と近い場所が良いな、と考えました。というのも僕と同じく転院する人がいた方が、事情を分かってくれるのではないだろうかと。紹介状も持たない状態ですから、イチから説明するのも大変ですし。

 そうしてインターネットで情報収集し、リワーク仲間達とも情報交換しつつ、幾つかの病院に当たりをつけたあと、会社へと相談することにしました。先生が倒れ、新しい病院を探す必要があるんです、と。

「えっマジか。ていうかカバネ、大丈夫か」

 僕の表情も憔悴しきっていたのでしょう。事業部長に相談したところ、返って来た言葉は心配するものでした。

「はい、なんとか……取り急ぎ今週の木曜にお休みを貰って、転院手続きをしようかなと」
「そうやな、そういう事情なら仕方がないやろう。病院ってすぐ見つかるもんなんか?」
「一応、当たりはつけているんですが、行ってみてダメなら別の所と考えています」
「そうか。まぁあまり無理はするなよ。休むのは問題ないから」

 そう配慮してもらって、転院のために休むことに。

 すると、このタイミングで心療内科の工藤さんから連絡を頂いたのです。リワーク参加者を中心に、個別での相談日を設けたいとのお電話を。

「急なことで大変かと思います。一度、病院に来ていただく事は可能でしょうか?」
「もちろんです。ちょうど木曜に近くまで行きますので、どうでしょうか」
「木曜で大丈夫です。医療行為としての面談は出来ませんが、今後について少しでも相談に乗れれば、と思っています」
「ありがとうございます。とても心強いです」
「では、木曜日に」

 そう言って、手短に電話が終わりました。
 工藤さんもバタバタで大変なことでしょう。僕も人の心配をしている場合ではないのですが、工藤さんのみならず、スタッフの皆さんが気掛かりでなりませんでした。

 ◇

 クリニックへ行くと、リワークルームで工藤さんと面談……ではなく相談することになりました。

 大変な状況にも関わらず、工藤さんはいつもと変わらぬ凛とした口調で、僕の話を聞いてくれました。本当に気丈な凄い方で、これまでお世話になって本当に良かったなと、改めて。

「カバネさんは、転院先の目途はついていますか?」
「はい、この近くの港町クリニックにしようかなと」
「あ、そこの先生でしたらお会いしたこともあります。優しい、話を聞いて貰いやすい方だと思いますよ」

 工藤さんにそう言って貰えたことは、僕にはとても心強いものでした。

「医療行為にあたる紹介は出来ませんので……参考程度に聞いてくださいね」
「もちろんです。ありがとうございます」

 いやもう本当に心強い。転院なんて初めての経験ですし。

「その、先生の容態とかは、聞けないものですよね」

 イチ患者である僕が聞いても仕方がない。仮に入院先の話を知ったとして、みんなで大挙してお見舞いに行くわけにもいきませんし。そう頭では分かりつつ、ほんの少しだけ尋ねてみました。

「はい。この病院がどうなるかの目途も、なんとも言えない状態です」
「というか工藤さんも、どうぞご無理を……せざるを得ない状況とは思いますが」
「ありがとうございます。相談窓口としてはしばらく用意していますので、また何かあればご連絡くださいね」
「はい、何かあればぜひ」
「カバネさんも大変な時期ですし、どうぞお気をつけて」

 そう言葉をかけてもらって、僕は尾長メンタルクリニックを後にしました。
 向かう先は港町クリニック。ここから徒歩10分ほどにある、発達障害を専門に扱う心療内科でした。
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