第7話 リワークってなあに?

文字数 1,360文字

 休職して2ヶ月近く経つと、体調の良い日も増えてきました。もちろん波はあるのですが、あんなにあっぱらぱぁだった脳ミソも、本当に少しずつ動くようになってきます。

 通院は2週間に1回のペースで、ある時、先生からこんな提案を受けました。

「カバネさん、リワークはどうですか?」
「リワ?」
「そう、リワーク。うちの病院はリワークもやっているんだけど、参加してみるのはどうかなって」

 聞きなれない単語。
 先生の話を聞くに、リワーク――正式名称はReturn to Work――日本語で『復職訓練』と呼ぶらしいものは、仕事でダウンした人たちが、仕事復帰・社会復帰へ向けて取り組むリハビリ的なものなのだとか。

「はぁ……ちょっと、ピンと来ていないのですが」
「よかったらこの後、リワーク担当の心理療法士さんに聞いてみる? 細かく説明してくれるから」
「はい」

 とりあえず頷いてみる。
 それなりに体調は戻って来たものの、当時の僕はまだ思考力・理解力などガタ落ちな状態で。コミュニケーションで相手の言葉を理解する、というのはまだ難易度が高かったと思います。

 先生の話の半分も理解できていないし、何だかよく分からないけれどとりあえず返事した、というのが正直なところでした。

 ◇

 別室へと呼ばれ、詳しい説明を受けることに。向かいに座る方は恐らく僕と歳が近い、けれどとても落ち着きのある女性でした。

「はじめまして、カバネさん。心理療法士の工藤と申します」

 少し茶色掛ったショートヘアに、おでこの前で揃えられた前髪。笑顔がとても優し気な、でも一つ一つに芯のある凛とした言葉の響き。

「当院ではリワーク施設を併設していて、復職に向けた訓練やリハビリを行っています」
「訓練、ですか」
「はい。内容としては簡単なカリキュラムが多いのですが、週に4回参加していただきます。月・火・木・金、それぞれ10時~15時まで参加して、終了後は必ず尾長先生の診察を受けていただきます」

 とのこと。
 それからも何枚かのA4資料をベースに説明は続きます。

「第一の目的は、生活リズムを整えることです。休職中はどうしても不規則になりがちですが、それは復帰した際に大きな負担になります」
「なるほど」

 確かにその通りだと思います。
 仕事に行っているときは朝6時には起きていたわけで、じゃあ休職してからどうかというと、起きれる時間に起きてる感じでしたし。

「そして、病状の再発防止に向けた訓練、振り返りをする場でもあります。次に復帰したとき再びダウンしてしまう方は、残念ながら少なくありません」
「そうなんですね……」
「えぇ、それを防ぐための時間でもあります。カバネさんもできたら、復職に向けて参加して欲しいと思っています」

 なんて沢山の情報を聞いたものの、どれだけ内容が頭に入ったかは微妙なところ。はぁそうですか、みたいな受け答えを繰り出していた気がします。上の説明も、後になって『そういえばそんな説明を受けていたな』と思い出したような内容です。

 それより何より、目の前に座る療法士さんを見て『あっすごく綺麗な人だな』が思考の9割だったかも知れません。いや本当に。めっちゃ美人なんですよ。

「あ、じゃあ参加してみます」

 綺麗な人だなぁなんて思いながら、気が付くとそんな言葉が口をついて出ていました。
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