第37話 ミッション・あいさつ回り
文字数 2,152文字
実に1年と1カ月ぶり。7時57分発の電車に乗って、僕は会社へと向かいました。
会話なんてしたこともないけれど、車内には見覚えのある人達がちらほらと。僕がいない間も世界は回るわけで、この電車に乗る人たちも変わらず通勤していたんだろうか。そんなことを感じました。
正直、職場に行くのは不安で不安で仕方がありませんでした。と同時に、久々に会う人たちもいるわけで、楽しみな部分も少しだけ。不安が99%、楽しみが1%といったところでしょうか。
ここからが本当のリハビリ。二度とダウンしないための長い道のり、その一歩目。1年前と変わらず電車を降り、目の眩むような人混みを進み、いよいよ会社へと到着しました。
んで、復帰初日。
僕はとある計画を立てました。名付けて、
『あいさつ回り作戦』
です。
逆の立場を考えてみたのですが、僕の同僚・後輩・先輩が1年以上もの休職から復帰した時、どう思うだろうかと。想像した答えは『何を話しかけたらいいか分からないな』でした。
なので、こっちから先手を打って話しかけることにしたのです。ご無沙汰してますカバネです、今日から戻りました、ぼちぼちやって行きますってな感じで。
事業部長に相談していたお陰で、しばらくは特に仕事もありません。なので時間はたっぷり。
僕が勤めていたオフィスは、同じビル内に4つのフロアを借りていました。なので4フロアを順々にコンプリートしていくのです。行く先々で声を掛け、少しの笑顔でイイ感じに挨拶をして回る復帰初日。
皆さん一様に喜んでくれたと言いますか、元気に戻ってきてくれてよかった、無理はするなよと言葉を返してくれました。またご飯でも行きましょうなんて軽い約束をしながら、沢山の人と言葉を交わしました。
これ、とっても効果的と言いますか、思っていた以上に気持ちが楽になりました。
復帰後における最悪のケースを考えてるに、コミュニケーションがブッツリ無くなってしまうのが一番怖いなと思ったのです。
周囲から見たときに『何を話しかけたらいいか分からないな』と思われ、遠めに見られて声を掛けられないような感じ。もう少し踏み込んで言うと、腫 れ 物 に 触 れ る ような扱われ方になってしまうと、非常に辛かったと思います。
◇
ひと通りの挨拶を終えて、僕は与えられた席に戻り、久方ぶりに社用PCを触りました。フロアの隅っこの方でしたが、近くにいる後輩たちと軽いおしゃべりなんかして。
本当に久々に起動したPCなものだから、思いのほか、やる事は沢山ありました。まずはOSのアップデート。他にもソフトのパッチ適用などであっという間に時間が過ぎていきます。
社内で使用するWebサイトや、ソフトウェアのパスワードはことごとく期限切れ。ログインするために社内システム部門の同期に連絡を取りつつ、幾つものパスワードを更新していきます。
たまっていたメールも膨大なもので、会社の社内通知や案内なども凄まじい量。これは1日じゃ終わらないなと感じ、数日かけてゆっくりやることにしました。
そうこうしている内に時間は16時。
この会社は17時半が定時(退社する人はほぼ皆無)だけれども、復帰後1カ月間は16時退社と決まっていました。そしてここでも注意していたのが、退社する時の心持ち。
みんながバリバリ仕事しているのに、何もせず早く帰るなんて申し訳ないな。そんなことを考えていたら再び病むに決まっていまるので、もう『じゃぁお先!』ってな感じで帰ろうと。
冷静に考えれば、周囲の人たちも僕が16時で帰ることについて『オイオイ俺たちはこんなに忙しいのにイイご身分だなぁ』なんて思う余裕なんてないし、逆の立場でも思わないでしょう。そんなことを考える程、この会社に余裕や悪意のある人はいない様に思えます。忙しいし。
そうして、初日は予定通りに終えることが出来ました。
ただ想定以上だったのは、家に着いた時の疲労感。筆舌に尽くし難いほどクッソ疲れました。疲労するだろうとは思っていたのけれど、家に帰るともうグッタリ。これまで10時~15時くらいのペースで参加していたリワークなど比較にならないほどグッタリ。
考えてみるに、会社という場所は本当に、情報量がメチャクチャ多い気がします。
近くでも遠くでも電話が鳴り、そこかしこで打合せがあり、プリンタはガシャガシャと動き、PCのキーボードを叩く音、飲み物を買う自販機の音……。
視界には何十人もの人たちがいて、頭を掻きむしりながらモニタとにらめっこする人、笑顔でユーザと電話をしている人、死んだ魚の様に口を開けて虚空を見つめる人など、凄まじいまでの視覚と聴覚の刺激がありました。
発達障害の自覚を持つと、この情報量は確かに、僕の心身を疲弊させるに十分なものと理解できる。慣れてくる部分もあるとは思うけれど、まぁ職場にいるだけでも疲弊しますよね、という自覚は持っておいた方が良いのだろうなと。
『しばらく仕事を振らないで欲しい』
先生の指示により事業部長にお願いしたわけですが、これが本当に助かった。もう仕事をするどころじゃない。ただ9時~16時の間、会社にいるだけでも疲労がヤバい。
家に着いたらもう疲労困憊。とにかく翌日に備え、早く眠る復帰初日でした。
会話なんてしたこともないけれど、車内には見覚えのある人達がちらほらと。僕がいない間も世界は回るわけで、この電車に乗る人たちも変わらず通勤していたんだろうか。そんなことを感じました。
正直、職場に行くのは不安で不安で仕方がありませんでした。と同時に、久々に会う人たちもいるわけで、楽しみな部分も少しだけ。不安が99%、楽しみが1%といったところでしょうか。
ここからが本当のリハビリ。二度とダウンしないための長い道のり、その一歩目。1年前と変わらず電車を降り、目の眩むような人混みを進み、いよいよ会社へと到着しました。
んで、復帰初日。
僕はとある計画を立てました。名付けて、
『あいさつ回り作戦』
です。
逆の立場を考えてみたのですが、僕の同僚・後輩・先輩が1年以上もの休職から復帰した時、どう思うだろうかと。想像した答えは『何を話しかけたらいいか分からないな』でした。
なので、こっちから先手を打って話しかけることにしたのです。ご無沙汰してますカバネです、今日から戻りました、ぼちぼちやって行きますってな感じで。
事業部長に相談していたお陰で、しばらくは特に仕事もありません。なので時間はたっぷり。
僕が勤めていたオフィスは、同じビル内に4つのフロアを借りていました。なので4フロアを順々にコンプリートしていくのです。行く先々で声を掛け、少しの笑顔でイイ感じに挨拶をして回る復帰初日。
皆さん一様に喜んでくれたと言いますか、元気に戻ってきてくれてよかった、無理はするなよと言葉を返してくれました。またご飯でも行きましょうなんて軽い約束をしながら、沢山の人と言葉を交わしました。
これ、とっても効果的と言いますか、思っていた以上に気持ちが楽になりました。
復帰後における最悪のケースを考えてるに、コミュニケーションがブッツリ無くなってしまうのが一番怖いなと思ったのです。
周囲から見たときに『何を話しかけたらいいか分からないな』と思われ、遠めに見られて声を掛けられないような感じ。もう少し踏み込んで言うと、
◇
ひと通りの挨拶を終えて、僕は与えられた席に戻り、久方ぶりに社用PCを触りました。フロアの隅っこの方でしたが、近くにいる後輩たちと軽いおしゃべりなんかして。
本当に久々に起動したPCなものだから、思いのほか、やる事は沢山ありました。まずはOSのアップデート。他にもソフトのパッチ適用などであっという間に時間が過ぎていきます。
社内で使用するWebサイトや、ソフトウェアのパスワードはことごとく期限切れ。ログインするために社内システム部門の同期に連絡を取りつつ、幾つものパスワードを更新していきます。
たまっていたメールも膨大なもので、会社の社内通知や案内なども凄まじい量。これは1日じゃ終わらないなと感じ、数日かけてゆっくりやることにしました。
そうこうしている内に時間は16時。
この会社は17時半が定時(退社する人はほぼ皆無)だけれども、復帰後1カ月間は16時退社と決まっていました。そしてここでも注意していたのが、退社する時の心持ち。
みんながバリバリ仕事しているのに、何もせず早く帰るなんて申し訳ないな。そんなことを考えていたら再び病むに決まっていまるので、もう『じゃぁお先!』ってな感じで帰ろうと。
冷静に考えれば、周囲の人たちも僕が16時で帰ることについて『オイオイ俺たちはこんなに忙しいのにイイご身分だなぁ』なんて思う余裕なんてないし、逆の立場でも思わないでしょう。そんなことを考える程、この会社に余裕や悪意のある人はいない様に思えます。忙しいし。
そうして、初日は予定通りに終えることが出来ました。
ただ想定以上だったのは、家に着いた時の疲労感。筆舌に尽くし難いほどクッソ疲れました。疲労するだろうとは思っていたのけれど、家に帰るともうグッタリ。これまで10時~15時くらいのペースで参加していたリワークなど比較にならないほどグッタリ。
考えてみるに、会社という場所は本当に、情報量がメチャクチャ多い気がします。
近くでも遠くでも電話が鳴り、そこかしこで打合せがあり、プリンタはガシャガシャと動き、PCのキーボードを叩く音、飲み物を買う自販機の音……。
視界には何十人もの人たちがいて、頭を掻きむしりながらモニタとにらめっこする人、笑顔でユーザと電話をしている人、死んだ魚の様に口を開けて虚空を見つめる人など、凄まじいまでの視覚と聴覚の刺激がありました。
発達障害の自覚を持つと、この情報量は確かに、僕の心身を疲弊させるに十分なものと理解できる。慣れてくる部分もあるとは思うけれど、まぁ職場にいるだけでも疲弊しますよね、という自覚は持っておいた方が良いのだろうなと。
『しばらく仕事を振らないで欲しい』
先生の指示により事業部長にお願いしたわけですが、これが本当に助かった。もう仕事をするどころじゃない。ただ9時~16時の間、会社にいるだけでも疲労がヤバい。
家に着いたらもう疲労困憊。とにかく翌日に備え、早く眠る復帰初日でした。