第22話 発達障害の特性色々

文字数 2,231文字

「他にも、発達障害の方には色々な特性があると言われています」

 引き続き、僕は工藤さんに教えて貰いました。

「例えば、感覚過敏ですとか」
「過敏ですか?」
「視覚、聴覚、嗅覚などが敏感な人が多いそうです」
「……正直、心当たりはないのですが」

 どちらかと言えば鈍感な方では? と自分では思うのです。

「カバネさんはわりと敏感だと思います。例えばリワーク中、ちょっとした物音や話し声によく反応していますし」
「え、そうなんですか?」
「あと、苦手な食べ物も結構ありませんでした?」
「確かに……キノコ類はほぼダメですし、レバーやホルモンとかも苦手ですね」
「味が苦手ですか?」
「いや、匂いですね。土の匂いや血生臭いのが苦手というか……あっこれ嗅覚ですか?」
「そう思います。あと、明るい所で眠れないという話もされていましたね」
「眠れないですね……というか、目覚ましにタイマー点灯するライトを買いましたし。明かりがつくとすぐ起きれます。なるほど視覚ですか」

 こんなやり取りを経て、僕は生まれて初めて、自身の感覚が過敏なことに気付いたのでした。

 通常、人は様々な感覚を、無意識の内にフィルタリングしているそうです。音、光、匂い、他にも五感の様々な情報を。気にしなくてもいい感覚にフィルタを掛けることで、情報を取捨選択し脳への負荷を軽減しているのだと。

 だけれどそのフィルタがいまいち弱い。不要な情報も次々と脳が受け止めてしまうらしい。

「感覚が過敏ですと、注意が散漫になるケースも多々あります。ですが、それが絶対に悪いという訳ではないのです」
「そうなんですか?」
「カバネさんはリワークのメンバーが何を話しているのか、どんな表情なのか、わりと広く見ていると思います。ポジティブに言えば視野が広く、目配りや気配りの出来る人と置き換えることもできます」

 そう言われてみればメリットにも思えました。いや全く自覚はないのだけれど。

「ですがその分、疲労しやすいんだと思います。これもまずは自覚して、どう折り合いをつけていくかが大切なのかなと」

 ここまで聞いて、僕には一つの疑問が浮かびました。
 注意力が散漫になる、という話は理解できた気がしますが、集中力が高すぎる状態……いわゆる『過集中』というクセが僕にはあるのです。注意力の欠陥と矛盾するのでは?

「そうですね。過集中もADHDの特性の一つと言われています」
「そこが繋がらないと言いますか……」
「興味のないことには全然、集中できない。けれど集中しなければいけない会議や授業でも、耐え難いほどの眠気とか、ありませんでした?」
「……もの凄くあります。もう、眠くなるとどうしようもなくなって、大事な会議でもヤバイです」

 そう、それ。
 本当にそれ。
 これはまさに悩んでいることでした。

 小さい頃から授業中の眠気が強く、大人になった今でも会議なんか必死です。夜にぐっすり寝ていたとしても、耐えがたい眠気に襲われる。
 なんとか捻り出した対処法は二つ。一つは議事録を作ること。もう一つは自分が司会になって会議を動かすこと。それでも日によってダメな時が多くありましたが。

「反面、興味があることに過剰に集中することも多くあります」
「過集中ですね」
「休憩も食事も忘れて、寝る時間を過ぎても集中し続けてしまうですとか」
「つまり集中力のコントロールが効かない、という感じでしょうか?」
「合っていると思います」

 ここまで聞くと心当たりがあり過ぎてヤバイ。

 仕事柄、プログラミングをすることも多くあったのだけれど、過集中状態に入ると回りの音も時間も匂いも、全く気にならない状態に入るのです。話しかけられたことにさえ気が付かないことも。

 一応は休憩を取ってみたりもするのですが、その間にずっとプログラミングのことを考えていたり、思考にブレーキを掛けられないというか、常にCPU100%状態というか。

「これも単に悪いという話ではありません。良い方に向けば強いパフォーマンスを発揮できます。でも、それを当たり前に思っちゃうと、どんどん疲労しちゃいますね」

 総じて、なにかと疲弊しやすい性質という話。
 時間や段取り、忘れ物などをしないために色々な工夫が必要で。
 様々な情報にフィルターを掛けられず、音・光・匂いに敏感過ぎるし。
 けれど集中できない時は全くできず、集中する際は過剰になってしまう。

 これまでの工藤さんとのやりとりの中で、自分に発達障害的な傾向があるのか? という疑問はすっかり消えてなくなっていました。そして同時に、ほっとした自分もいたというか。

 これまで悩んでいたこと、頑張って対処してきたこと……もう少し踏み込むと、小さい頃から『なんでそんなことも出来ないんだ?』と言われてきたアレコレの原因が分かった気がしたのです。

 リワークで気付かせてもらった『白いノートが苦手な話』を思い出しました。あれも視覚の問題だったのかと。他にも睡眠のために照明を変えたことや、小さい頃も含めて、これまで実行してきた工夫の数々も。

 漠然と抱えていた、苦手なことや上手く行かないこと、その点と点が結びついた気がしたのです。

 決して自分は怠け者だとか、時間や約束を故意に破る不義理者ではなかった。それどころか必死になって対策を立て、工夫を積み重ね、それでも足りないものは気合いと根性で突き進み……文字通りダウンしてしまう程に。

 そんな自分を少しだけ、ほめてあげても良いんじゃないかと思えました。
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