第5話 働かない○○

文字数 1,393文字

 休職からひと月ほど経つと、徐々にですが体調に変化が出てきました。

 読めなかった漫画も読めるようになったり、自転車で身体を動かしてみたりと、少しずつ回復を感じます。

 気分の波はまだまだ落ち着かない……というか日によって凄く憂鬱とした気分になったりもするのだけれど、全身が痛かった症状も腰痛・肩こりをのぞけば大分とマシなもの。
 けれど能力的な部分は依然としてガタ落ちで、大体は頭あっぱらぱぁでした。

 人間、個人差はあれど、思考力・集中力・記憶力・判断力と言った機能を備えています。ですが当時の僕はそういった機能を失っていました。

 以下はもう少し後になってメモしたものですが、当時の状況を記録したノートがあります。調子の良い日もあれば悪い日もある。ここでは、悪い日をピックアップしてみたいと思います。

 ◇

●思考力
 どうも2段階以上の思考が出来なくなっている模様。2段階というのは例えば、予定を考えるときとか

 ①明日は10時に客先で会議
 ②だから9時半には○○駅に着く
 ③なので8時半に最寄り駅から電車に乗る
 ④結論、8時15分には家を出ないといけない

 なんて思考ができない感じ。
 ②を考え始めたあたりで①が怪しくなり、③を考える頃には……あれ? 何時から会議だっけ? みたいな。
 全て文字に起こしながら考えて、それでも①~④を行ったり来たりする始末。移動スケジュールを組むのにどれだけ時間がかかるんだっていう……そんな感じ。

●集中力
 これもガタ落ち。
 1日で2時間くらいしかまともに物事に取り組めない。それまで何の気なしに作っていたものが何故だか全く進まない。休職直前、後輩に仕事を引き継ぎながら
「ごめん、ちょっと今は無理。今日は2時間くらいしか集中できない」
「先輩、それって時間制限のある特殊能力みたいっすね」
 なんてやり取りがあったのを思い出します。ゴメンね後輩。

●短期記憶力
 思考力とも被るけれど、メモを一切とれなくなった話。
 ・今日は10時から会議があるよ
 ・場所は第2会議室だよ
 ・議題は今後のスケジュールだよ
 なんて上司から声を掛けられたとき、どこで、いつから、なんの会議をするのかメモを取ろうとしても取れない状態。これはストレートに仕事への支障が出てて、結構きつかった……。

●判断力(決断力)
 もの凄くミニマムな話をすると、人は日々、決断を積み重ねていると思うのです。今日のお昼はうどんにしようとか。お菓子食べたいからチョコを買おうとか。
 そういった判断力を失ったらしく、何をどうしたらいいのか分からない。例としては、コンビニでパンが買えない、或いは買うのにやたら時間が掛かる等。

 ◇

 総じて『あ、人間って脳みそ壊れるとこうなるんだな』と感じました。
 そして、僕の脳みそはもう壊れてしまったんだなと。

 幸い2021年現在はコンビニでチョコミントアイスも買えるし、メモもバシバシ取れています。頭の中で段取りも膨らむし、少なくともここでエッセイを書けるくらいには回復済み。

 が、当時は本当に『もう脳ミソは元に戻らないのか』……そんな漠然とした、けれども現実的な不安だけがある日々でした。

 と、ここに来てやっと、尾長先生に聞きたいことを一つ思い出しました。

 休職時の診断書に書かれていた『感情障害』という病名。聞いたこともない単語だったのだけれど、それはどういう意味なのかしらって。
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