第45話 転職活動を始めたはなし

文字数 2,150文字

 転職活動を始めるにあたり、改めて考えを整理してみました。

 職場復帰したときと同様、幾つかの選択肢、そして順番があるのかなと。つまり例によってルート分岐を整理してみたのです。以下、簡単ですが記してみます。

●ルートA.別業種かつ別職種
 脱IT、その第1弾。
 全く未知の世界に飛び込むという考えです。例えば需要の多い営業職ですとか。決してダメとは思いませんが、うむむ。復職したての今の僕にはかなりハードルが高い気がする。

●ルートB.別業種かつ同職種
 脱IT第2弾。
 企業の情報システム担当者、いわゆる『社内SE』に転職する方法です。労働条件の改善は見込まれますが、お給料は多分、下がるであろう。

●ルートC.同業種に転職する
 IT業界はいつも人手不足なので、ぶっちゃけいつでも可能という感じ。けれど現在と同じく残業まみれな会社の可能性も高い。なので優先順位は最下位にしたい。

●ルートD.ツテを使って転職する
 いっそユーザに転職しちゃえという。案外この業界ではある話なのですが……僕の場合、ユーザさんも激務な感じだったので、これもちょっと優先順位を下げたい。


 ……結局、判断基準は『何を重要視するのか』に尽きるのでしょう。
 大事にするべきは健康的に、そして長く働けること。お金はその次以降です。いくら稼ぎが良くっても、倒れたらトータル赤字ですし。まさに実体験からしまして。

 そして折角(心身を犠牲にして得た)ITスキルもあるのだから、これを生かさない手はない。つまり、目指すべきはルートBである『社内SE』に定まりました。

 ◇

 転職サイトに登録を済ませると、1週間も経たない内に『転職エージェント』という方から電話連絡が入り、簡単な打合せが始まりました。

「初めまして、カバネさんを担当させていただく岡田と申します。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、初めての転職で右も左も分からずで。どうぞよろしくお願いします」
「では早速ですが、幾つか質問をよろしいでしょうか」

 と、岡田さんからのヒアリング開始。

 まず、転職したい度合いはどれ程か。期限や目途などを設けているか。これまでの簡単な職務経歴などなど。

 事前に調べていたのですが、転職エージェントの方は成功報酬があるらしく、登録した人材を高く売れば売るほど、給与の高い転職先であればあるほど、その報酬が転職会社そしてエージェントに支払われるそうです。

 つまり、具体的に転職したいのかどうかが重要なポイント。なので『うすっ自分っバリバリに転職したいっす』という旨をお伝えしました。

「ではカバネさん、これまでの経歴だとIT系が本命だと思いますが、希望業種などはありますか?」
「ぶっちゃけ、IT業界は避けたいと感じています。出来れば異業種のIT部門が理想です」
「社内SEみたいな職種でしょうか?」
「ですね、仰る通りです」

 3年前、ダウンする前の自分であったなら『お金を稼ぎたい』軸が強かったでしょう。けれど一度は地獄を見ているわけで、方針は考えるまでもありません。即ち『まず残業ゼロが前提。その上でお金があればなおヨシ』です。

「なるほど……ですが正直、社内SEは競争率が高いです」

 ほほう?

「カバネさんと同様、これまで培った経験や技術を生かせる、かつ激務でない職種ということで、志望されるSEの方が多いんです。しかも離職率が低い。各企業も大量の社内SEを抱えるケースは少ないですから、必然的に倍率が上がりますね」

 ふむ、ふむ。
 考えは整理していたものの、世の中そうそう甘くない模様。

「ですので労働時間を重視されるなら、IT系も視野に入れるのはどうでしょうか」
「IT系ですか?」
「はい、労働時間が少ない企業も皆無ではありません。なので社内SEと並行して、ホワイトなIT系も検討するのはどうでしょうか」

 え、そんなのあるの?
 という疑問が浮かびましたが、確かに噂には聞いた事があります。都市伝説か何かだと思っていましたが、実在するならもちろん検討しない手はありません。

「そうですね、では併せて検討できればと思います」
「ありがとう御座います。あと、職務経歴書をPDFで送付いただけますか」
「分かりました。直近数年分の経歴を書く、という感じですかね?」
「そうですね。カバネさんの場合は、これまでの担当プロジェクトと、そこで担った役割と成果を記載頂ければと思います」

 さて、ここで早速の問題です。
 この1年間は仕事してませんでしたっていう。

「岡田さん、ちょっとご相談なんですが」
「なんでしょう」
「実はメンタルの病気でぶっ倒れて1年休職し、3カ月前に復帰したところなんです」
「そ、そうなんですね……」
「なので1年ほどの空白期間が出てしまうのですが、どうしましょう……?」

 う~ん、と電話越しに考える岡田さん。
 しばらくして、

「いや、そこは空白のままで行きましょう。そして面接でも隠さずに。変に取り繕うよりも良いと思います」

 との事。

「そうですね、ありがとうございます。では作成次第、メールで送付します」
「はい、よろしくお願い致します」

 そんな感じで転職活動、その1歩目を踏み出したカバネ。
 正直、この時は舐めていました。なんだかんだサクッと決まるんじゃないかしら、みたいな。
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