第10話 最初の面談

文字数 1,705文字

 リワーク初日を終えた僕は、療法士の工藤さんと面談することになりました。

「お疲れ様でした。リワークに参加してみて、どうでしたか?」

 そう聞かれて、やはり初日で緊張したことや、少し疲労感がある等、まぁシンプルな感想を聞いてもらいました。綺麗な人だなぁとか思いながら。
 幾つかの言葉を交わした後、工藤さんは2つの用紙を手に取りました。

「これはリワークを受ける皆さんに書いていただいているものです。ストレス度チェックの用紙と、休職に至るのまでの振り返りシートになります。まずはストレス度チェックから始めましょうか」

 渡された用紙には20項目の質問事項と、それぞれ1~4の数字。以下、簡単ですが記載してみます。

①ストレス度チェック
 20個の質問にそれぞれ4段階の回答を選択します。例えば、
  質問:夜はよく眠れない
  回答:まれに・時々・よくある・いつも
 といった感じで。
 記入を終えると点数を計算をるのですが、この数値がそのままストレス度を現す、という仕組みです。

「数値が高ければ高いほどストレス度が高い、という意味合いになります。ですが低ければ良いというわけでもありません」
「そうなんですか?」
「低すぎると、調子が良すぎる……あとで揺り戻しが来たり、冷静さに欠いている可能性があります」
「な、なるほど」

 説明を受けながら記入して最後に点数計算。僕は見事に高得点を叩き出しましたわあい。

「おぉ……」
「休みはじめて2ヶ月ですし、あまり気にしないでください。大事なのは、自分の状態を把握するということです」
「そ、そうですね」
「このチェックは今後も月に1度実施していただきます。3ヶ月、半年、1年という長い目で見ていくものですので、これからもお願いしますね」

②仕事の振り返り
 もう一枚のA4用紙には記入箇所が3つ。それぞれの項目に、休職開始時を思い出しながら書込むというものでした。

「休職時のことを思い出すので、メンタルに負荷が掛かると思います。あまり無理せずに、書ける範囲で構いませんから」

 工藤さんの仰る通り、思い出すだにストレスフルな部分もあるけれど、そこはフォローして貰いながら書き進めました。
 
―――――
1.休職時、どういう状況だったか
→激務に次ぐ激務で、心身共に疲弊極まった状態。

2.それに対してどう感じているか
→会社が自分の提案を一つでも受け入れてくれたなら、ダウンすることはなかったのではないか。

3.どうすれば回避できた(或いは、今後どうすれば良い)と考えているか
→上に同じ。自分自身が他にどうすれば良かったのか、今は分からない。
―――――

 ダウンするとき、僕は職場環境への不満が非常に強くありました。残業に継ぐ残業で過ごした数年間。なんとか負荷を下げようと色々な手を打ったものの、空振りもしくはストップが掛かった仕事の問題。

 部下を作ろうとしてダメで。
 上司に直談判してもダメで。
 色々と調整しようとしてもストップが掛かり。

 自分があんなことになる前に、言うことをもっと会社が聞き入れてくれれば、こんな状態を避けられたんじゃないか。もう少し踏み込んで言えば、()()()()()()。そんな具合でした。

 どれか一つでもボタンが上手くはまっていたなら。
 どこか一つでも聞き入れて貰えていたなら。
 職場でのことを振り返ろうとすると、そんな怒りの感情……言い様のない理不尽さに対する想いが湧き上がってくるのです。

 振り返ってはみるけれど、やれるだけの事はやったんじゃないか。あれ以上どうすれば良いというのか。当時は皆目見当もつかない状態で。

 療法士さんは、そんな僕の話をとても丁寧に聞いてくれました。
 そして回りくどい位の言い方で、傷つけないようにして、

「復帰したときに、同じことにならないように自分が出来ること、自分が出来る範囲をこれから見つけていきましょう」

 と、言ってくれました。

 頭では理解できるものの、果たしてそんなことが可能なのか……?
 そんな良い方法が見つかるのだろうか?
 疑問や疑惑が残りつつも、

「まずはリワークに参加しながら、体調を整えていきましょうね」

 との療法士さんの言葉で、初日の面談を終えました。
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