第3話 仕事を休もう!

文字数 1,620文字

 新幹線を降りた僕は、上司には早めに伝えねばなるまいと電話を掛けました。

「おぉカバネ、どうかしたか?」
「いやぁ、実はご相談がありまして」
「相談?」
「ここ最近、調子が悪かったので今日の午前中に病院に行ってみたんです」
「びょっ病院? 大丈夫か?」
「それが大丈夫じゃないみたいで、1日でも早く休めという診断でして……」
「えっマジで。病院ってどっか悪いのか」
「メンタルの病院です。うつ病とハッキリは言われなかったのですが、限界だから早く休めと」

 絶句する上司。
 まさかあのカバネが? そう思ったのかも知れません。

 当時は調子が悪いとはいえ、日常会話や業務上のコミュニケーションは割と普通にこなせていました。ミスもあったけれど。
 それ以前に僕のキャラクターというか、立ち居振る舞いから『カバネがメンタルの問題でダウンする』なんて想像できなかったのかも知れません。何より僕自身もその一人でした。

 自他共に認める鋼のメンタル。今思えば、ただただ無理をしていただけなのですが。

「……ていうか、今日からの出張は大丈夫なんか?」
「なんとか大丈夫だと思います。多分」
「そ、そうか。とりあえず部長に相談するわ。また連絡するから」

 と、通話は終わり。
 あ~休むっめ伝えちゃったなぁ。まぁ仕方がないか。ホッとしたような、そうでないような。

 ともかく、まずはこの3日間を無事に終えなければと、ここに至っても仕事に向かう気力はどこから湧いていたのか。行き過ぎた責任感と義務感だけが、動かぬ身体を突き動かしていたのかも知れません。

 ◇

 2泊3日の出張もいよいよ終盤、何とか山場を乗り切ることができました。
 メモとか一切取れなかったんですけどね。言語の理解力も大幅にダウンしていたので、頭あっぱらぱぁなのによく客先で本番切替できたなと。

 あと、説明会とかプレゼン的なものは不思議にスラスラとできました。人前で話すのはまったく問題なし。本当にメンタルの病気なのか? なんて疑問が改めてよぎるほどに。

 客先から引き上げる段になり、僕はタイミングを見計らって、一緒に本番切替を乗り切ったメンバーに声を掛けていきました。

 内容はもちろん、しばらく休むという話。

 みんな一様に同じ反応で『カバネが? マジで』みたいな。うん、自分でも正直マジで? って思ってる。
 でも本当に優しいメンバーたちで、後は気にせずゆっくり休んで下さい、また元気で会えるのを楽しみにしています、と背中を押してもらいました。

 翌日、向かった先は会社。

 朝礼後に会議室へ呼ばれると、部長を始め管理職の皆さんが勢揃い。
 休むという報告はすでにしていたため、詳細の確認と、今後の段取りについて話し合うというものでした。

 ここ最近の体調や、主治医とのやり取りを端的に伝えるとほぼ全員が絶句。まさかカバネが……そう、顔に書いてあるようでした。

 決まったのは、取りあえず4日間で業務を引き継げるだけ引き継ぐこと。
 診断のとおり1カ月はゆっくり休むこと。
 携帯もノートPCも全て会社に置いていくこと。
 関係各所、取引業者やユーザには体調不良で休む旨は上司から連絡を入れること。
 そんな段取りがパタパタと決まっていきました。

 それから4日間、後輩たちに業務を引き継いだものの、正直あまり出来ていなかったと思う。頭働かぬのだもの。ゴメンね後輩たち。

 また、お世話になっていた関係業者さんには直接、電話で休職する旨を伝えたりもしました。やっぱりみんな『まさかカバネが』という感じでしたが、有難いことにまた元気になるのを待ってると言って貰えました。この時は本当、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 何とかかんとか4日間を乗り切って、心療内科で受け取った診断書。
 A4用紙の病名欄には『感情障害』の4文字。なんだこれ? とは思いつつ頭も働かないしまぁいっか、て感じでポストに投函。

 そうして、僕はいよいよ人生で初めての休職へと入りました。
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