第51話 まさかの入院②

文字数 1,921文字

 高熱の原因は依然として判明せず、ロキソニンが切れればガタガタと全身が震え、頭も割れるようにガンガン痛い。血液、CT、エコー検査を繰り返しつつ、気が付けば1週間が過ぎました。

 腎臓に問題があるのでは? なんて話もありましたがやっぱり違いましたとなったり、先生もかなり頭を悩ませているご様子。看護師の皆さんも献身的に対応して下さり、いやぁ本当に申し訳ない……。

 ロキソニンが効いている間は思考も落ち着くので、テレビのMLB中継を観たりボーっと過ごしていました。これは小説を書くチャンスでは?? とも考えたのですが、思考がうまく回らず敢えなく断念。薬が効いても38度はあったので致し方なし。

 ようやく光が見えたのは、入院から2週間が過ぎたころ。

「わずがですが肝臓に影が確認できます。非常に分かり難いんですが、ポツポツと白い影が見えています。恐らくここに何らかの菌が溜まり、炎症を引き起こしているのだと思います」
「肝臓ですか……」
肝膿瘍(かんのうよう)と呼ばれる病気です。一旦は抗生剤で様子を見ましょう。点滴治療を進めつつ、しばらくしてから再検査で」
「よろしくお願いします」

 それから更に1週間ほど経ったものの、症状はむしろ悪化の一途。解熱剤を口から飲むのも出来なくなってしまい、人生で初めて座薬というものを経験し……。

 そこから更に検査を重ね、肝臓の白い影が肥大していることが判明しました。直径5センチを超えているというのですから、ちょっと意味がわからない。何それとても大きい。

「可能であれば肝臓に針を刺して病巣を採取、或いは吸い出す『ドレナージ』が手早いのですが、場所が悪いです」

 とは、先生の診断。

「針を刺そうにも背骨と重なっているため、神経系を傷つけるリスクが高いです。そうなると後遺症が残ります」
「お、おぉ」
「なので抗生剤を変えます。病原菌の種類は分かりませんが、今の抗生剤は全く効いていません。次の抗生剤に移ります」
「お願いします……」

 僕にはもうお願いするしかないわけでして、何かを決める余地などありませんでした。

 と、ここでふと気になったのですが、どうしてこんな病気になったのだろうか。不摂生をしたつもりは無いのだけれど。

「病原菌が不明なので感染経路も不明です。カバネさんのように若い方ですと、非常に珍しい病気なのですが……ただ」
「ただ?」
「最近、海外の渡航歴などはありますか?」
「ないですね」
「或いは、こう、男性同士の性交とか」

 ふぁっ!?

「アブノーマルな行為ですとか」
「ないです、全然ないです」
「ですよねぇ。やっぱり原因不明です」

 本当に心当たりがないのですが、実際に肝膿瘍は珍しい病気で、原因も上述のものが多いのだとか。

 連々とおもんみるに、慣れない土地、度重なる環境の変化などなどに晒され、僕の身体は相当に弱っていたのでしょう。
 普段であればどうってことのない病原菌でも、免疫力が弱まると人体の中で住処を定め、暴れまわるとはよく聞く話。ここでも自身への鈍感さをいかんなく発揮したカバネでした。

 ◇

 2種類目の点滴に切替えて数日が経ち、遂に、やっとこさ、徐々だけれど熱が下がり始めました。食欲も徐々に回復し、おかゆを食べてもリバースしない!!

 体重は入院前と比べて7キロほど落ちましたが、少しずつ、少しずつ身体が回復しているのを実感します。

「いや〜2つめの抗生剤が効きましたねぇ!」

 もんの凄くホッとした先生の顔が今でも思い出されます。ひょっとしなくても、あの状態が続けばかなり危険な事になっていたのでしょう。

「あとは検査を繰り返して、肝臓の影や血液の炎症が無くなるまで叩きましょう。ここで治し切ってしまえば、再発の心配もありません。他、何か気になる事はありますか?」

 そう聞かれて、気になったのはいつ頃に退院できるのかなと。このとき入院してすでに4週間ほどが経っていました。

 転職からの入院コンボをキメたわけですが、会社の就業規則はどうなっているのだろうか。不安を感じて調べた所、ちょっとシャレにならない事が書いてあったのです。

『研修中に私傷病等の理由により欠勤が20営業日以上続いた場合、退職とする』

 厳密な文章は少し違いますが、ザックリとこんな意味合いの規則。つまり、僕はそろそろ復帰しないとクビになってしまうという訳です。

 転職した先、それも故郷を離れた土地でクビになるとか、もうエッセイ書いて書籍化でも狙わない限りペイできないような経験です。そんな事態は出来ることなら避けたい。出来なくても避けたい。マジで。

「あの……見込みで結構なのですが、退院までどれほど時間が掛かるでしょう?」
「少なくとも1カ月は必要でしょう」

 あ、詰んだ。
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