第37話 作戦会議

文字数 1,429文字

「先輩!」
 藤原と小町の顔を見た弥生の目から涙が流れ落ちた。
 小町は「シーッ」と言って、小声で話し始める。
「弥生ちゃん、恐かったでしょ」
 と言って、弥生をやさしく抱きしめる。
「みんなも大変だったわね。でも、ここまでよくがんばったわ」
 次に信二と金次郎のほうを見る。
 二人は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「信二君、これまでの状況を簡単に教えてくれないかな」
 藤原が信二に尋ねる。信二はこれまでのいきさつを簡潔に説明した。
「なるほど。そういうことか。伊代君が卑弥呼に……」
 藤原がうなずく。
「先生と小町先輩はどうしてこんなところに?」
 信二が逆に尋ねる。
「まあ、いろいろあってここに来ることになってね、みんなを追いかけて洞窟の中に入ったんだけど……」
 小町が三人の顔を見る。
「歩いていたら、突然、洞窟の中が明るく光ったのよ。そして、その後すぐに、突然邪馬台国の衣装を来た人が次から次へと現れたの。それで、その人たちの向かう行く方向について行ったら、ここに来たってわけよ。ね、先生」
 小町に話しかけられた藤原がハッとしてうなずいた。藤原は、さっき信二からここまでの状況を聞いてから、何かを考えているようだった。
「そして、ここに来たら、なんか異様に盛り上がってたのよ。でも、何が起こっているのかはさっぱりわからなかったわ」
 三人は小町の話をじっと聞いている。
「もうちょっと詳しい状況が知りたいと思って、その盛り上がりの間に何食わぬ顔でこの神殿まで来て、護衛のふりをして話を聞いていたのよ。私たちも邪馬台国の衣装を着ているからバレないかなと思って」
「大胆ですね」
 金次郎が小町の行動に感心している。

「何してる! さっさと連れてこい!」
 そのとき、梨目が建物に向かって大声を上げた。
 護衛……のふりをしている藤原が建物の外に出て、
「すみません。こいつらが抵抗したので手間取ってました。すぐ行きます」
 と返事をして、再び建物の中へ入る。
「先生、時間がないわ。どうする?」
 小町が緊迫した声で藤原を見る。
 すると、藤原が何かを思い出したようで、小町を見る。
「そうだ。小町君、確かサングラスをもってたよね」
 急に言われて、小町は面食らった。
「サングラス? ああ、これね」
 小町は邪馬台国の衣装を買った店でもらったサングラスを出した。
 藤原は全員にサングラスを渡す。さらに、
「それと、これは金次郎君に」
 と言って、藤原と小町が環濠集落で見つけた銅鏡を金次郎に渡した。それを受け取った金次郎は、藤原の指示で銅鏡を服の中に隠した。
 次に、藤原は縛られていた三人の縄をいったんほどいて、自力で簡単に外せるように縛りなおした。
「これで縄はすぐに外せるけど、他の人にはばれないようにしておくんだよ」
 藤原が改めて全員の目を見る。そして、それぞれがどのように行動するかの指示を出した。
 それを聞いて全員がうなずく。

「おい、いい加減にしろ!」
 梨目がイライラした口調で、さっきより大きな声で怒鳴った。
「じゃあ、みんな頼んだよ!」
「はい」
 藤原の声にみんなが小さな声で、けれども力強く返事をした。
 それからすぐに、護衛の二人、藤原と小町が三人を連れて建物から出てきた。
 建物から出てきた三人の表情は緊張感でいっぱいだった。ただし、それは恐怖やあきらめではなく、決意に満ちた表情だった。

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登場人物紹介

出雲 弥生(いずも やよい)


東静大学古代史研究会 副部長 2年生 

武田 信二(たけだ しんじ)


東静大学古代史研究会 部長 2年生 

桜井 伊予(さくらい いよ)


東静大学古代史研究会 1年生 

鹿島 金次郎(かしま きんじろう)


東静大学古代史研究会 1年生

姫野 小町(ひめの こまち)


東静大学古代史研究会 4年生 

藤原 大和(ふじわら やまと)


東静大学古代史研究会 顧問 講師 

粋間(いきま)


ヒストリートラベル株式会社 社長

美馬(みま)


ヒストリートラベル株式会社 部長

梨目(なしめ)


ヒストリートラベル株式会社 主任

石川(いしかわ)


文化財保存推進協会 リーダー

富子(とみこ)


文化財保存推進協会 メンバー

松永(まつなが)


文化財保存推進協会 メンバー

斎藤(さいとう)


文化財保存推進協会 メンバー

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