第34話 邪馬台国の野望
文字数 2,606文字
伊代、いや復活した卑弥呼は、天に向かってぶつぶつと何かを唱えている。その姿はまるで神に祈りをささげているかのようだった。
三人は卑弥呼に声をかけるどころか、近づくことすらできなかった。
卑弥呼の声はどんどん大きくなっていく。さらに、卑弥呼が唱え続けていくにつれて、何やら神殿の外が騒がしくなってきた。
三人は何が起こっているのかと思って、外を見てみた。
すると、洞窟内のあちこちの方向から、邪馬台国に向かってどんどん人が集まってきている。
「なんだこれは!」
「みんな邪馬台国の衣装を着ているわね。ということは、ツアーのスタッフの人たち?」
「でも、すごい数ですよ」
邪馬台国には何十、何百、いやそれ以上の人たちが集まっていた。
三人が驚いて外を見ていると、いきなり三十名程度の人が神殿に上がってきた。
「あの人は!」
金次郎が叫んだ。
「ミステリーツアーのバスのガイドだった人と、最初にツアーのルールを説明した人じゃない?」
弥生が先頭を歩いている二人を見る。
神殿に上がってきた者の中には、ヒストリートラベルの美馬と梨目の姿があった。
さらに、三人は会ったことはなかったが、社長の粋間もそこにいた。
美馬は三人のほうをチラッと見た。しかし、三人のことなど全く覚えていないようだった。
美馬は、自分の後ろにいた何人かに三人を捕まえるように指示した。三人は逃げようとしたが、すぐに捕まってしまい、動けないように縄で縛られてしまった。
粋間らは卑弥呼の前に行き、一斉に跪いた。
「卑弥呼様、復活おめでとうございます」
「ただいま到着しました」
「間もなく全員そろいます」
それらの言葉を聞いた卑弥呼は唱えるのをやめて、粋間のほうを振り返って大きくうなずく。
「その三人は?」
卑弥呼は、捕えられている三人をチラッと見て尋ねる。
「外部の人間です。どうやって入ってきたのかはわかりませんが」
美馬が答える。
「卑弥呼様、こいつらどうしますか? 始末しますか?」
梨目が卑弥呼に訊く。
「空いている建物にでも閉じ込めておけ」
卑弥呼は短く言うと、もう三人には興味がなくなったのか、再び天に向かって何かを唱え始めた。
「伊代ちゃん!」
「伊代さん!」
「目を覚ませ!」
三人が伊代に向かって叫んだが、伊代、いや卑弥呼は全く反応せず、ひたすら天に向かって何かを唱え続けていた。
「そいつらを向こうの建物に連れていけ。見張りもつけておけよ」
梨目が指示を出す。その場にいた数名が三人を神殿の外に連れ出して、小さな建物の中に押し込んだ。一人が見張りとして建物の前に立った。
三人は建物の中に閉じ込められてしまった。
「何がどうなっているんだ?」
信二が茫然としてつぶやくと、
「邪馬台国が、卑弥呼が復活したのよ。信じられないことだけど……」
弥生が力なく答える。
「邪馬台国に関する重要な道具はあれでよかったのよ」
「銅矛、銅鏡、金印の三つですか?」
「それと、伊代ちゃんがつけていた勾玉のネックレス。あれも重要な道具のひとつだったんだわ」
「でもあれは、たまたま釣れた魚の歯に引っかかってたものだぜ」
「その辺はよくわからないけど、とにかくあの勾玉に三つの道具が反応して卑弥呼は復活したのよ」
弥生は建物の中から外を見た。
卑弥呼の祈り、というか、まるで呪術を唱えているかのような声に吸い寄せられるように、邪馬台国には数えきれないほどの人が次から次へと集まってきている。
「これからどうなっちゃうの……」
三人は集まってくるおびただしい数の人を見ながら、ただ茫然と立ち尽くしていた。
邪馬台国には、城柵の中に入りきらないほどの人が集まっていた。
すると、卑弥呼が祈りをやめて、外の人が見えるように神殿から姿を見せた。
その瞬間、全員が跪いた。
「皆の者、よく来てくれた。今ここに邪馬台国は復活した!」
卑弥呼が高らかに宣言すると、全員が雄たけびのような大歓声を上げる。
「なんか異様な光景だな」
「ものすごい熱気です」
閉じ込められた建物の中でその様子を見ていた信二と金次郎が、不安な表情を見せる。
「『魏志倭人伝』では、卑弥呼は一般の人の前に姿を見せることはほとんどないって書かれていたけど、ここでは違うのね」
弥生がつぶやく。
卑弥呼の話は続いている。
「私が亡くなった後の邪馬台国のことはわかっている。この者たちに聞いた」
卑弥呼の脇には粋間らが控えていた。
「邪馬台国が消滅してしまった無念を、今こそ晴らすときだ」
「おー!」
全員が再び雄たけびを上げる。
「ここから出て隣国を攻撃する。邪馬台国の勢力範囲を昔の頃に、いや、それ以上に拡大して、倭国を統一する!」
「おー!」
卑弥呼が話をするごとに、群衆のボルテージは上がっていった。
「隣国を攻撃して倭国を統一? 今の時代に何を言っているんだ?」
卑弥呼の言葉を聞いた信二があきれた顔をする。
「確かにすごい数の人ですけど、このまま外に出て暴動を起こしても、警察に抑えられて終わりじゃないですか?」
金次郎も首をかしげている。
「どうするつもりなのかしら?」
弥生も不思議そうに卑弥呼の言葉を聞いている。
「卑弥呼様」
卑弥呼の脇にいた美馬が口を開く。
「今の時代、昔のようにただ弓矢を持って攻撃しても、倭国は統一できません」
さらに梨目が付け加える。
「弓矢よりはるかに強力な武器を持つ、現在の国家組織に抑えられてしまいます」
美馬が続けて何かを言おうとしたのを、卑弥呼が制した。
「私は呪術の力によって、人の心を意のままに操ることができる」
と言って、笑みを浮かべる。
「現在の国家組織がどれだけ強力な武器や軍事力を持っていようとも関係ない。私はその組織のトップにいる人間を、私の意のままに操りコントロールすることができる」
卑弥呼が続ける。
「つまり、私が今のこの国の権力者をすべて操ることばできれば、倭国を統一できる!」
「倭国を統一できる」の言葉を聞いた群衆は、
「卑弥呼様!」
「卑弥呼様!」
と、大合唱を繰り返した。
すかさず美馬が卑弥呼に平伏して口を開く。
「わかりました。我々はそのための準備を進めます」
大合唱はまだ続いている。
三人は卑弥呼に声をかけるどころか、近づくことすらできなかった。
卑弥呼の声はどんどん大きくなっていく。さらに、卑弥呼が唱え続けていくにつれて、何やら神殿の外が騒がしくなってきた。
三人は何が起こっているのかと思って、外を見てみた。
すると、洞窟内のあちこちの方向から、邪馬台国に向かってどんどん人が集まってきている。
「なんだこれは!」
「みんな邪馬台国の衣装を着ているわね。ということは、ツアーのスタッフの人たち?」
「でも、すごい数ですよ」
邪馬台国には何十、何百、いやそれ以上の人たちが集まっていた。
三人が驚いて外を見ていると、いきなり三十名程度の人が神殿に上がってきた。
「あの人は!」
金次郎が叫んだ。
「ミステリーツアーのバスのガイドだった人と、最初にツアーのルールを説明した人じゃない?」
弥生が先頭を歩いている二人を見る。
神殿に上がってきた者の中には、ヒストリートラベルの美馬と梨目の姿があった。
さらに、三人は会ったことはなかったが、社長の粋間もそこにいた。
美馬は三人のほうをチラッと見た。しかし、三人のことなど全く覚えていないようだった。
美馬は、自分の後ろにいた何人かに三人を捕まえるように指示した。三人は逃げようとしたが、すぐに捕まってしまい、動けないように縄で縛られてしまった。
粋間らは卑弥呼の前に行き、一斉に跪いた。
「卑弥呼様、復活おめでとうございます」
「ただいま到着しました」
「間もなく全員そろいます」
それらの言葉を聞いた卑弥呼は唱えるのをやめて、粋間のほうを振り返って大きくうなずく。
「その三人は?」
卑弥呼は、捕えられている三人をチラッと見て尋ねる。
「外部の人間です。どうやって入ってきたのかはわかりませんが」
美馬が答える。
「卑弥呼様、こいつらどうしますか? 始末しますか?」
梨目が卑弥呼に訊く。
「空いている建物にでも閉じ込めておけ」
卑弥呼は短く言うと、もう三人には興味がなくなったのか、再び天に向かって何かを唱え始めた。
「伊代ちゃん!」
「伊代さん!」
「目を覚ませ!」
三人が伊代に向かって叫んだが、伊代、いや卑弥呼は全く反応せず、ひたすら天に向かって何かを唱え続けていた。
「そいつらを向こうの建物に連れていけ。見張りもつけておけよ」
梨目が指示を出す。その場にいた数名が三人を神殿の外に連れ出して、小さな建物の中に押し込んだ。一人が見張りとして建物の前に立った。
三人は建物の中に閉じ込められてしまった。
「何がどうなっているんだ?」
信二が茫然としてつぶやくと、
「邪馬台国が、卑弥呼が復活したのよ。信じられないことだけど……」
弥生が力なく答える。
「邪馬台国に関する重要な道具はあれでよかったのよ」
「銅矛、銅鏡、金印の三つですか?」
「それと、伊代ちゃんがつけていた勾玉のネックレス。あれも重要な道具のひとつだったんだわ」
「でもあれは、たまたま釣れた魚の歯に引っかかってたものだぜ」
「その辺はよくわからないけど、とにかくあの勾玉に三つの道具が反応して卑弥呼は復活したのよ」
弥生は建物の中から外を見た。
卑弥呼の祈り、というか、まるで呪術を唱えているかのような声に吸い寄せられるように、邪馬台国には数えきれないほどの人が次から次へと集まってきている。
「これからどうなっちゃうの……」
三人は集まってくるおびただしい数の人を見ながら、ただ茫然と立ち尽くしていた。
邪馬台国には、城柵の中に入りきらないほどの人が集まっていた。
すると、卑弥呼が祈りをやめて、外の人が見えるように神殿から姿を見せた。
その瞬間、全員が跪いた。
「皆の者、よく来てくれた。今ここに邪馬台国は復活した!」
卑弥呼が高らかに宣言すると、全員が雄たけびのような大歓声を上げる。
「なんか異様な光景だな」
「ものすごい熱気です」
閉じ込められた建物の中でその様子を見ていた信二と金次郎が、不安な表情を見せる。
「『魏志倭人伝』では、卑弥呼は一般の人の前に姿を見せることはほとんどないって書かれていたけど、ここでは違うのね」
弥生がつぶやく。
卑弥呼の話は続いている。
「私が亡くなった後の邪馬台国のことはわかっている。この者たちに聞いた」
卑弥呼の脇には粋間らが控えていた。
「邪馬台国が消滅してしまった無念を、今こそ晴らすときだ」
「おー!」
全員が再び雄たけびを上げる。
「ここから出て隣国を攻撃する。邪馬台国の勢力範囲を昔の頃に、いや、それ以上に拡大して、倭国を統一する!」
「おー!」
卑弥呼が話をするごとに、群衆のボルテージは上がっていった。
「隣国を攻撃して倭国を統一? 今の時代に何を言っているんだ?」
卑弥呼の言葉を聞いた信二があきれた顔をする。
「確かにすごい数の人ですけど、このまま外に出て暴動を起こしても、警察に抑えられて終わりじゃないですか?」
金次郎も首をかしげている。
「どうするつもりなのかしら?」
弥生も不思議そうに卑弥呼の言葉を聞いている。
「卑弥呼様」
卑弥呼の脇にいた美馬が口を開く。
「今の時代、昔のようにただ弓矢を持って攻撃しても、倭国は統一できません」
さらに梨目が付け加える。
「弓矢よりはるかに強力な武器を持つ、現在の国家組織に抑えられてしまいます」
美馬が続けて何かを言おうとしたのを、卑弥呼が制した。
「私は呪術の力によって、人の心を意のままに操ることができる」
と言って、笑みを浮かべる。
「現在の国家組織がどれだけ強力な武器や軍事力を持っていようとも関係ない。私はその組織のトップにいる人間を、私の意のままに操りコントロールすることができる」
卑弥呼が続ける。
「つまり、私が今のこの国の権力者をすべて操ることばできれば、倭国を統一できる!」
「倭国を統一できる」の言葉を聞いた群衆は、
「卑弥呼様!」
「卑弥呼様!」
と、大合唱を繰り返した。
すかさず美馬が卑弥呼に平伏して口を開く。
「わかりました。我々はそのための準備を進めます」
大合唱はまだ続いている。