第40話 環濠集落決戦
文字数 2,697文字
古代史研究会のメンバーは洞窟を出て、伊都国……環濠集落にたどり着いた。
そのまま環濠集落の中も走り抜けて、柵を越えようとしたとき、後ろから声がした。
「待ちやがれ!」
立ち止まって振り返ると、そこには、文化財保存推進協会チームの四人がいた。
「またお前らか」
信二がうんざりした顔をすると、
「それはこっちのセリフだ!」
松永が怒鳴って言い返す。
「全くお前らには本当に振り回されたよ。ほう、藤原先生もいましたか」
石川が藤原を見てニヤリとする。
「藤原先生。こいつらは人の邪魔ばっかりして困ったもんですよ。もっと、学生の指導をしっかりしてほしいもんですね」
「あんたたちみたいな悪党にそんなこと言われる筋合いはないわよ!」
弥生が言い返す。
「元気な学生さんですね。でも、それもここまでだ」
急に石川の表情が変わる。目つきが一段と鋭くなった。
「お前らの持っているお宝を全部よこせ」
「そんなものはない!」
信二がはっきりと言う。
「そう言うと思ったよ。もうその言葉は信じないがな」
石川は松永と斎藤に目配せした。二人が前に進み出た。
「やれ」
石川が短く指示を出す。
そのとき、信二が藤原のほうを見てうなずく。
「みんな早く逃げろ!」
信二はそう叫ぶと同時に、斎藤に向かって全力で走っていきそのまま体当たりをした。虚をつかれた斎藤は吹き飛ばされてしまった。
「みんな行こう!」
藤原が柵に向かって走っていき、急いで柵を上って越えた。次に、金次郎が伊代を背負ったまま柵を上って越えていった。
「信二……」
弥生は信二のほうを見ている。
「弥生君、早く柵を越えるんだ」
柵の向こう側から藤原が呼びかける。
「早く行け!」
斎藤ともみ合いになっていた信二が、弥生を見て大声で叫んだ。
弥生は信二を見てうなずくと、柵を越えて向こう側へ行った。
「あいつらを追うぞ!」
藤原らが柵を越えたのを見た石川と富子も、柵を越えて藤原らを追いかけた。
一方松永は、信二と斎藤の争いをじっと見ていた。
先に走っていった古代史研究会のことも、それを追いかけていった石川と富子のことも全く気にしていない様子だった。
信二と斎藤は殴り合いになっていた。斎藤の攻撃をかわして信二が二、三回殴ると、斎藤が倒れたので、信二は殴るのをやめた。
信二が斎藤が倒れたのを見てそこから離れようとした瞬間、松永の太い腕にいきなり後ろから肩をつかまれて、そのまま投げ飛ばされてしまった。信二は思いっきり地面に叩きつけられた。
「うわー!」
信二が叩きつけられた痛みで声を上げる。
「ようやく、お前に借りを返す時がきたな」
松永が不気味な笑いを浮かべる。
「もう、許さねえぞ」
松永が拳を握って音を鳴らした。倒れている信二を起こして、信二の顔面を殴りつけた。信二は吹き飛ばされて柵に激突した。
「どうした。もう終わりか」
松永が信二に近づいていく。そして、信二を起こして再び殴ろうとした瞬間、信二が松永の向う脛をつま先で思いっきり蹴った。
「痛え!」
松永が脛を押さえて座り込んだ。
その瞬間、信二がすばやく柵を上って越えていった。
「畜生! 逃がさねえぞ」
松永は痛そうな顔をしながらも立ち上がって、柵を越えた。
そのまま信二を追いかけようとすると、なんと信二はその場から逃げることもなく、松永から少し離れた場所に立っていた。
「ほう。逃げずにいるとはいい度胸だ」
松永がゆっくりと信二に近づいていく。
「お前ごとき相手に逃げるわけないだろ。うだうだ言ってないでさっさとかかってこい!」
「この野郎!」
信二の言葉にカッとなった松永は、信二に向かって全力で走り出した。
そして、信二の目の前まで来て、信二を殴ろうとしたその瞬間、いきなり松永の体が地面に沈んだ。
「うわっ!」
松永はそこにあった落とし穴、いや、集落の周囲にあった空堀に落ちてしまった。草が伸びていたので、松永はそこに空堀があるのが見えなかった。
「痛え……」
松永は、堀に落ちるときに信二に蹴られた向う脛を強くぶつけてしまった。
松永は苦悶の表情を浮かべて堀の下でうずくまっていた。もはや信二と戦う気力もなくなってしまったようだ。
「足元はよく見ないとな。といっても、俺も最初に来たときに同じようにここに落ちたから、偉そうには言えないけどな」
信二は松永を見て苦笑いを浮かべる。
「さて、俺もみんなのところに行くか」
と信二がつぶやいた瞬間、いきなり信二の足に痛みが走った。
「うわー!」
信二が倒れこんだ。
信二が自分の足を見ると、そこには矢が刺さっていた。
「さっきはよくも殴ってくれたな」
そのとき、信二のそばから斎藤の声が聞こえた。
斎藤は苦しむ信二の顔を見ながら笑っている。
信二の足に刺さった矢は、地面に刺さっていた矢を抜いた斎藤が刺したものだった。矢は侵入者が柵を越えて集落に入ろうとするときに、建物から飛んできて侵入者を阻むものだった。地面には何本かの矢が刺さっていた。
「こんなもんじゃ済まさねえぞ」
と言って、斎藤は地面に刺さっているもう一本の矢を抜いて、信二のそばに来る。
「さあて、足にもう一本刺してやるか、それとも腕にするか、それとも……」
斎藤は不気味な笑いを浮かべながら、苦しんでいる信二を観察している。
「とりあえず、もう片方の足に刺して歩けなくしてやるか」
斎藤が不気味な笑いを浮かべたまま、信二の足に矢を刺そうとしたまさにその瞬間、と突然斎藤が何者かに思いっきり蹴られて、吹き飛ばされた。
「うわー!」
斎藤はそのまま倒れこんでしまった。
「小町先輩!」
そこには小町が立っていた。
小町は信二の足に刺さっていた矢を抜いてくれた。
「信二君、危なかったわね」
「今のキックは小町先輩が?」
信二は驚きながら小町を見る。
「そうよ。あんなに思いっきり蹴ったのは久しぶりだけどね」
信二は倒れている斎藤を見た。完全にのびている。
「あいつ、大丈夫ですか?」
「まあ、死にはしないでしょ」
小町はあっけらかんと言う。
「はい。簡単な手当てはしといたわよ」
信二の足には包帯が巻かれていた。
「ありがとうございます」
「痛いとは思うけど、しばらくは我慢してね」
「大丈夫です」
「じゃあ、みんなのところに行くわよ。歩ける?」
「はい。なんとか」
信二が立ち上がると、二人は古代史研究会のメンバーを追いかけて歩き始めた。
そのまま環濠集落の中も走り抜けて、柵を越えようとしたとき、後ろから声がした。
「待ちやがれ!」
立ち止まって振り返ると、そこには、文化財保存推進協会チームの四人がいた。
「またお前らか」
信二がうんざりした顔をすると、
「それはこっちのセリフだ!」
松永が怒鳴って言い返す。
「全くお前らには本当に振り回されたよ。ほう、藤原先生もいましたか」
石川が藤原を見てニヤリとする。
「藤原先生。こいつらは人の邪魔ばっかりして困ったもんですよ。もっと、学生の指導をしっかりしてほしいもんですね」
「あんたたちみたいな悪党にそんなこと言われる筋合いはないわよ!」
弥生が言い返す。
「元気な学生さんですね。でも、それもここまでだ」
急に石川の表情が変わる。目つきが一段と鋭くなった。
「お前らの持っているお宝を全部よこせ」
「そんなものはない!」
信二がはっきりと言う。
「そう言うと思ったよ。もうその言葉は信じないがな」
石川は松永と斎藤に目配せした。二人が前に進み出た。
「やれ」
石川が短く指示を出す。
そのとき、信二が藤原のほうを見てうなずく。
「みんな早く逃げろ!」
信二はそう叫ぶと同時に、斎藤に向かって全力で走っていきそのまま体当たりをした。虚をつかれた斎藤は吹き飛ばされてしまった。
「みんな行こう!」
藤原が柵に向かって走っていき、急いで柵を上って越えた。次に、金次郎が伊代を背負ったまま柵を上って越えていった。
「信二……」
弥生は信二のほうを見ている。
「弥生君、早く柵を越えるんだ」
柵の向こう側から藤原が呼びかける。
「早く行け!」
斎藤ともみ合いになっていた信二が、弥生を見て大声で叫んだ。
弥生は信二を見てうなずくと、柵を越えて向こう側へ行った。
「あいつらを追うぞ!」
藤原らが柵を越えたのを見た石川と富子も、柵を越えて藤原らを追いかけた。
一方松永は、信二と斎藤の争いをじっと見ていた。
先に走っていった古代史研究会のことも、それを追いかけていった石川と富子のことも全く気にしていない様子だった。
信二と斎藤は殴り合いになっていた。斎藤の攻撃をかわして信二が二、三回殴ると、斎藤が倒れたので、信二は殴るのをやめた。
信二が斎藤が倒れたのを見てそこから離れようとした瞬間、松永の太い腕にいきなり後ろから肩をつかまれて、そのまま投げ飛ばされてしまった。信二は思いっきり地面に叩きつけられた。
「うわー!」
信二が叩きつけられた痛みで声を上げる。
「ようやく、お前に借りを返す時がきたな」
松永が不気味な笑いを浮かべる。
「もう、許さねえぞ」
松永が拳を握って音を鳴らした。倒れている信二を起こして、信二の顔面を殴りつけた。信二は吹き飛ばされて柵に激突した。
「どうした。もう終わりか」
松永が信二に近づいていく。そして、信二を起こして再び殴ろうとした瞬間、信二が松永の向う脛をつま先で思いっきり蹴った。
「痛え!」
松永が脛を押さえて座り込んだ。
その瞬間、信二がすばやく柵を上って越えていった。
「畜生! 逃がさねえぞ」
松永は痛そうな顔をしながらも立ち上がって、柵を越えた。
そのまま信二を追いかけようとすると、なんと信二はその場から逃げることもなく、松永から少し離れた場所に立っていた。
「ほう。逃げずにいるとはいい度胸だ」
松永がゆっくりと信二に近づいていく。
「お前ごとき相手に逃げるわけないだろ。うだうだ言ってないでさっさとかかってこい!」
「この野郎!」
信二の言葉にカッとなった松永は、信二に向かって全力で走り出した。
そして、信二の目の前まで来て、信二を殴ろうとしたその瞬間、いきなり松永の体が地面に沈んだ。
「うわっ!」
松永はそこにあった落とし穴、いや、集落の周囲にあった空堀に落ちてしまった。草が伸びていたので、松永はそこに空堀があるのが見えなかった。
「痛え……」
松永は、堀に落ちるときに信二に蹴られた向う脛を強くぶつけてしまった。
松永は苦悶の表情を浮かべて堀の下でうずくまっていた。もはや信二と戦う気力もなくなってしまったようだ。
「足元はよく見ないとな。といっても、俺も最初に来たときに同じようにここに落ちたから、偉そうには言えないけどな」
信二は松永を見て苦笑いを浮かべる。
「さて、俺もみんなのところに行くか」
と信二がつぶやいた瞬間、いきなり信二の足に痛みが走った。
「うわー!」
信二が倒れこんだ。
信二が自分の足を見ると、そこには矢が刺さっていた。
「さっきはよくも殴ってくれたな」
そのとき、信二のそばから斎藤の声が聞こえた。
斎藤は苦しむ信二の顔を見ながら笑っている。
信二の足に刺さった矢は、地面に刺さっていた矢を抜いた斎藤が刺したものだった。矢は侵入者が柵を越えて集落に入ろうとするときに、建物から飛んできて侵入者を阻むものだった。地面には何本かの矢が刺さっていた。
「こんなもんじゃ済まさねえぞ」
と言って、斎藤は地面に刺さっているもう一本の矢を抜いて、信二のそばに来る。
「さあて、足にもう一本刺してやるか、それとも腕にするか、それとも……」
斎藤は不気味な笑いを浮かべながら、苦しんでいる信二を観察している。
「とりあえず、もう片方の足に刺して歩けなくしてやるか」
斎藤が不気味な笑いを浮かべたまま、信二の足に矢を刺そうとしたまさにその瞬間、と突然斎藤が何者かに思いっきり蹴られて、吹き飛ばされた。
「うわー!」
斎藤はそのまま倒れこんでしまった。
「小町先輩!」
そこには小町が立っていた。
小町は信二の足に刺さっていた矢を抜いてくれた。
「信二君、危なかったわね」
「今のキックは小町先輩が?」
信二は驚きながら小町を見る。
「そうよ。あんなに思いっきり蹴ったのは久しぶりだけどね」
信二は倒れている斎藤を見た。完全にのびている。
「あいつ、大丈夫ですか?」
「まあ、死にはしないでしょ」
小町はあっけらかんと言う。
「はい。簡単な手当てはしといたわよ」
信二の足には包帯が巻かれていた。
「ありがとうございます」
「痛いとは思うけど、しばらくは我慢してね」
「大丈夫です」
「じゃあ、みんなのところに行くわよ。歩ける?」
「はい。なんとか」
信二が立ち上がると、二人は古代史研究会のメンバーを追いかけて歩き始めた。