第8話 勉強会③ ルートと重要アイテム
文字数 3,113文字
「たくさん話をしてみんなのどが渇いただろうから、何か飲み物を買ってくるわ」
「弥生先輩、私も行きます」
弥生と伊代が部室を出ていく。
「弥生先輩、邪馬台国のことすごく詳しいですね」
「そんなことないわよ。古代史好きなら邪馬台国に関心がない人はいないしね。それに、先生の下で勉強していれば多少は詳しくなるわよ」
大学内の自動販売機で飲み物を買った二人は、近くのベンチに座って休憩することにした。
「卑弥呼さんや壱与さんってどんな人物だったんでしょうね。当時の日本で一番上に立って国をまとめるなんてすごいですよね」
「きっと何か特殊な能力を持っていたんじゃないかなあ。そうじゃないと、争いが起きている国で女王様なんて務まらないわよ」
「壱与さんは十三歳で女王になったんですよね。すごいなあ」
「きっと伊代ちゃんみたいな人だったんじゃないかな?」
「私ですか?」
「明るくてかわいくて、真面目でやさしい女性だったのよ。でも、ちょっと不思議なところがあるのも似てる気がする」
弥生が伊代を見て笑う。
「それも何かの文献に載っていたんですか?」
伊代が真面目な顔で尋ねる。
「まさか。今のは私の勝手な想像よ」
二人が顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、卑弥呼さんは弥生先輩みたいな人だったんじゃないですか?」
「私が卑弥呼?」
「美人で頭がよくて、リーダーシップもあって……」
「伊代ちゃん、お世辞はいいわよ」
「お世辞じゃないですよ」
「それより小町先輩のほうが卑弥呼って感じじゃない? 美人だし、見た目もまさに女王様って感じだし。あの美貌で男を惑わす……まさに呪術で人を惑わしたという卑弥呼にそっくりね」
「ぴったりですね」
二人が笑っていると、
「二人で何を笑っているの?」
急に後ろから声がしたので二人がびっくりして振り返ると、小町が立っていた。
「卑弥呼様!」
伊代が思わず声を上げた。
「卑弥呼様? 二人とも戻ってこないから心配して迎えに来たのよ。そろそろ時間よ」
「もうそんな時間なんですか。すみません。戻りましょう」
弥生はあわてて立ち上がった。
「弥生ちゃんらしくないわね、そんなにあわてて。伊代ちゃんも戻るわよ」
「卑弥呼様、わかりました」
「だから、なんなのさっきから卑弥呼様って?」
「伊予ちゃん、ちょっと疲れてるんです。小町先輩、戻りましょう」
三人は部室に向かって歩いていった。弥生と伊代は目を合わせて笑っている。
「遅いよ。のどが乾いたよ。どこまで行ってたんだ?」
「別にいいでしょ。ちょっと休憩してただけよ」
弥生がみんなに、買ってきたジュースを渡す。
「弥生君、伊代君ありがとう」
藤原がジュースの代金を二人に渡した。
「じゃあ、これを飲みながらさっきの続きをやろう」
「はい」
藤原のひと声で勉強会が再開する。
「先生、このまま邪馬台国の話をしてたら、何日あっても話が終わらない気がするんですが……」
信二が藤原に言うと、
「確かにそうだね。けっこう時間も経ってるし」
藤原が時計を見る。
「今日は邪馬台国ツアーに向けての勉強会なので、その話をしませんか?」
「その話というと?」
「今回は宝探しもあるので、邪馬台国へのルートとか、邪馬台国に関するお宝というか重要なアイテムの話なんてどうでしょう」
「いいですね、それ」
金次郎が信二の考えに賛成した。
「よし、わかった。では最初に、『魏志倭人伝』に書いてある邪馬台国へのルートを確認しておこう。弥生君、お願いできるかな」
弥生がうなずいて話を始める。
「『魏志倭人伝』によれば、邪馬台国へのルートは、朝鮮半島中部西岸の帯方郡 からスタートします。そして、朝鮮半島南部の狗邪韓国 に着きます。そこからは対馬 国、一支 国、末盧 国、伊都 国、奴 国と進んでいきます。その次に不弥 国、投馬 国と来て、邪馬台国に到着します」
弥生は資料も何も見ないですらすらと説明する。
「帯方郡、狗邪韓国、対馬国、一支国。次はええと……末盧国、伊都国、奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。でいいんだよな?」
弥生が言うのを聞いて、信二も何も見ないで言ってみる。
「帯方郡、狗邪韓国。あれ? 次は……対馬国、一支国、末盧国、伊都国……伊都国……思い出した! 奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。できました」
信二に続いて金次郎も言ってみる。
「帯方郡、狗邪韓国、対馬国、一支国、末盧国、伊都国、奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。言えた!」
伊代も口に出して言ってみた。
「あなたたち、何してるの……」
小町があきれた顔をしている。
「これだけ言えれば、邪馬台国へのルートは大丈夫みたいだね」
藤原も引きつった笑いを浮かべている。
「次は邪馬台国に関する重要なアイテムの話だったかな?」
藤原が思い出したようにうなずく。
「それでは、邪馬台国に関する重要な道具、あるいは邪馬台国の謎を解く道具といったら何が考えられるかな。みんなでひとつずつ挙げてみよう」
藤原が全員の顔を見る。
「僕が最初に。卑弥呼が魏から贈られた金印です」
金次郎が自分の知っていることを最初に言ってしまおうと考えて、すばやく答える。
「同じく卑弥呼が魏から贈られた銅鏡も邪馬台国の謎を解く道具だと思います」
次に伊代が答える。
「えっと、『魏志倭人伝』にも書いてある、邪馬台国で武器として使用した矛や木弓があります。あとは、各地で出土した銅剣や銅矛も邪馬台国の謎を解くカギとなる道具と言っていいと思います」
続いて信二が意見を言う。
「銅鐸 もそうだと思うわ。『魏志倭人伝』には銅鐸のことが全く出てこないけど、日本各地で出土しているのに、全く話題になっていないのは逆に変じゃない?」
小町が少し考えた後で言った。
「各地の遺跡から出土している勾玉 や管玉 も重要な道具だと思います。『魏志倭人伝』には壱与が中国に白珠 五千孔と青大句珠 二枚を貢ぎ物として贈ったとあります。白珠は真珠で、青大句珠は青いガラス玉などの玉類という話もあるみたいです」
最後に弥生が答える。
「『魏志倭人伝』の伊都国と比定される福岡県の平原 遺跡からは、ガラス製の勾玉や瑪瑙 製の管玉が出土されているわよね」
弥生の説明に小町が追加をすると、弥生もそれにうなずいた。
全員の話を熱心に聞いていた藤原が口を開く。
「みんなよく答えられたね。結論から言うと、みんなの答えで正解だと思うよ。今出てきた道具は、すべて邪馬台国を考える上での重要な道具だといえるね」
藤原の言葉に全員が喜んでいる。
「邪馬台国に関する話は本当に尽きないですね」
金次郎が少し興奮したような表情を浮かべている。
「そうだね。プロ、アマチュアを問わずこれだけを専門に研究している人もたくさんいるからね。それでも、いまだに謎だらけなんだよ」
藤原もとても楽しそうな顔をしている。
「やっぱり邪馬台国は古代史最大のミステリーね」
弥生の言葉にみんながうなずく。
「もう暗くなってきたし、今日はこれくらいにしよう。みんな、ツアーを楽しむのはいいけど、くれぐれも無茶はしちゃだめだよ」
「はーい」
「みんながんばってね。優勝して世界一周古代遺跡ツアーに行くわよ!」
「はい!」
四人が大きな声で返事をして、勉強会は終わった。
「弥生先輩、私も行きます」
弥生と伊代が部室を出ていく。
「弥生先輩、邪馬台国のことすごく詳しいですね」
「そんなことないわよ。古代史好きなら邪馬台国に関心がない人はいないしね。それに、先生の下で勉強していれば多少は詳しくなるわよ」
大学内の自動販売機で飲み物を買った二人は、近くのベンチに座って休憩することにした。
「卑弥呼さんや壱与さんってどんな人物だったんでしょうね。当時の日本で一番上に立って国をまとめるなんてすごいですよね」
「きっと何か特殊な能力を持っていたんじゃないかなあ。そうじゃないと、争いが起きている国で女王様なんて務まらないわよ」
「壱与さんは十三歳で女王になったんですよね。すごいなあ」
「きっと伊代ちゃんみたいな人だったんじゃないかな?」
「私ですか?」
「明るくてかわいくて、真面目でやさしい女性だったのよ。でも、ちょっと不思議なところがあるのも似てる気がする」
弥生が伊代を見て笑う。
「それも何かの文献に載っていたんですか?」
伊代が真面目な顔で尋ねる。
「まさか。今のは私の勝手な想像よ」
二人が顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、卑弥呼さんは弥生先輩みたいな人だったんじゃないですか?」
「私が卑弥呼?」
「美人で頭がよくて、リーダーシップもあって……」
「伊代ちゃん、お世辞はいいわよ」
「お世辞じゃないですよ」
「それより小町先輩のほうが卑弥呼って感じじゃない? 美人だし、見た目もまさに女王様って感じだし。あの美貌で男を惑わす……まさに呪術で人を惑わしたという卑弥呼にそっくりね」
「ぴったりですね」
二人が笑っていると、
「二人で何を笑っているの?」
急に後ろから声がしたので二人がびっくりして振り返ると、小町が立っていた。
「卑弥呼様!」
伊代が思わず声を上げた。
「卑弥呼様? 二人とも戻ってこないから心配して迎えに来たのよ。そろそろ時間よ」
「もうそんな時間なんですか。すみません。戻りましょう」
弥生はあわてて立ち上がった。
「弥生ちゃんらしくないわね、そんなにあわてて。伊代ちゃんも戻るわよ」
「卑弥呼様、わかりました」
「だから、なんなのさっきから卑弥呼様って?」
「伊予ちゃん、ちょっと疲れてるんです。小町先輩、戻りましょう」
三人は部室に向かって歩いていった。弥生と伊代は目を合わせて笑っている。
「遅いよ。のどが乾いたよ。どこまで行ってたんだ?」
「別にいいでしょ。ちょっと休憩してただけよ」
弥生がみんなに、買ってきたジュースを渡す。
「弥生君、伊代君ありがとう」
藤原がジュースの代金を二人に渡した。
「じゃあ、これを飲みながらさっきの続きをやろう」
「はい」
藤原のひと声で勉強会が再開する。
「先生、このまま邪馬台国の話をしてたら、何日あっても話が終わらない気がするんですが……」
信二が藤原に言うと、
「確かにそうだね。けっこう時間も経ってるし」
藤原が時計を見る。
「今日は邪馬台国ツアーに向けての勉強会なので、その話をしませんか?」
「その話というと?」
「今回は宝探しもあるので、邪馬台国へのルートとか、邪馬台国に関するお宝というか重要なアイテムの話なんてどうでしょう」
「いいですね、それ」
金次郎が信二の考えに賛成した。
「よし、わかった。では最初に、『魏志倭人伝』に書いてある邪馬台国へのルートを確認しておこう。弥生君、お願いできるかな」
弥生がうなずいて話を始める。
「『魏志倭人伝』によれば、邪馬台国へのルートは、朝鮮半島中部西岸の
弥生は資料も何も見ないですらすらと説明する。
「帯方郡、狗邪韓国、対馬国、一支国。次はええと……末盧国、伊都国、奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。でいいんだよな?」
弥生が言うのを聞いて、信二も何も見ないで言ってみる。
「帯方郡、狗邪韓国。あれ? 次は……対馬国、一支国、末盧国、伊都国……伊都国……思い出した! 奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。できました」
信二に続いて金次郎も言ってみる。
「帯方郡、狗邪韓国、対馬国、一支国、末盧国、伊都国、奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国。言えた!」
伊代も口に出して言ってみた。
「あなたたち、何してるの……」
小町があきれた顔をしている。
「これだけ言えれば、邪馬台国へのルートは大丈夫みたいだね」
藤原も引きつった笑いを浮かべている。
「次は邪馬台国に関する重要なアイテムの話だったかな?」
藤原が思い出したようにうなずく。
「それでは、邪馬台国に関する重要な道具、あるいは邪馬台国の謎を解く道具といったら何が考えられるかな。みんなでひとつずつ挙げてみよう」
藤原が全員の顔を見る。
「僕が最初に。卑弥呼が魏から贈られた金印です」
金次郎が自分の知っていることを最初に言ってしまおうと考えて、すばやく答える。
「同じく卑弥呼が魏から贈られた銅鏡も邪馬台国の謎を解く道具だと思います」
次に伊代が答える。
「えっと、『魏志倭人伝』にも書いてある、邪馬台国で武器として使用した矛や木弓があります。あとは、各地で出土した銅剣や銅矛も邪馬台国の謎を解くカギとなる道具と言っていいと思います」
続いて信二が意見を言う。
「
小町が少し考えた後で言った。
「各地の遺跡から出土している
最後に弥生が答える。
「『魏志倭人伝』の伊都国と比定される福岡県の
弥生の説明に小町が追加をすると、弥生もそれにうなずいた。
全員の話を熱心に聞いていた藤原が口を開く。
「みんなよく答えられたね。結論から言うと、みんなの答えで正解だと思うよ。今出てきた道具は、すべて邪馬台国を考える上での重要な道具だといえるね」
藤原の言葉に全員が喜んでいる。
「邪馬台国に関する話は本当に尽きないですね」
金次郎が少し興奮したような表情を浮かべている。
「そうだね。プロ、アマチュアを問わずこれだけを専門に研究している人もたくさんいるからね。それでも、いまだに謎だらけなんだよ」
藤原もとても楽しそうな顔をしている。
「やっぱり邪馬台国は古代史最大のミステリーね」
弥生の言葉にみんながうなずく。
「もう暗くなってきたし、今日はこれくらいにしよう。みんな、ツアーを楽しむのはいいけど、くれぐれも無茶はしちゃだめだよ」
「はーい」
「みんながんばってね。優勝して世界一周古代遺跡ツアーに行くわよ!」
「はい!」
四人が大きな声で返事をして、勉強会は終わった。