第25話 途中参戦
文字数 2,239文字
藤原と小町は、黙って粋間の話を聞いていた。
小町は信じられないといった顔をしている。
粋間が最後に付け加えた。
「我々の名前についても藤原先生の言うとおりです。こんな簡単に推測される名前なんて使わなければいいだろうとお思いでしょうが、邪馬台国の時代から続くこの名前がずっと我々の心の支えであり、誇りになっているんでしょうな」
粋間が話を終えると、美馬が藤原のほうを見る。
「それで、藤原先生はどうするおつもりでしょうか?」
「どうするつもり、というと?」
「わざわざ我々の正体と秘密を知らせに来て、何がしたいのかということです。我々を脅して邪馬台国のことを公表するつもりですか?」
「私は、あなた方や邪馬台国のことを公表しようとかそんなことは考えていません」
藤原が言い返す。
「あなた方が、邪馬台国があるという場所のことをしっかり把握していて、危険もないということを確認したうえでツアーを開催されているのであれば、学生たちにツアーを楽しんでもらうだけです。しかし、あなた方は遺跡の場所もどういった遺跡や仕掛けがあるのかもわかっていない。そうじゃないですか?」
美馬の表情が曇る。
「遺跡が本当に存在するのであれば、しかもその存在を外部の人間に決して知られてはいけないのであれば、当然、侵入者を防ぐための危険な仕掛けが潜んでいる可能性もあります。そんなところに学生を行かせるわけにはいきません!」
「先生!」
少しの間席を離れていた小町が、慌てた様子で藤原に声をかける。
「さっきから古代史研究会のみんなに何回も電話をしているけど、誰ともつながらないわ」
藤原が粋間と美馬のほうを見る。
「それはミステリーツアーということで、参加者の携帯電話を預かっているためです。もちろん、参加者には代わりに我々の携帯電話を渡してあります」
美馬が答えると、
「じゃあ、その電話ならつながるの?」
小町が訊き返すと、
「おそらく圏外でつながらないと思います……」
美馬が力なく答える。
「私もこれから現地へ行きます。場所を教えてください」
藤原が美馬に迫った。
「場所は教えられません」
「どうしてです? 何かあったらどうするんですか?」
「我々のスタッフが参加者の安全には万全を期しています」
「それは十分わかっています。しかし、何が起こるかわかりません。お願いします。他の人には絶対話しませんので」
「しかし……」
二人の押し問答が続く。
「じゃあ、警察にでも届けるしかないわね」
小町が美馬を見て脅すように言う。
「先生、ここにいても時間の無駄よ。警察に事情をすべて話して、みんなを探してもらいましょう」
それを聞いた美馬が困った表情を浮かべる。
すると、それまで黙って話を聞いていた粋間が口を開く。
「わかりました。具体的にどこの場所にあるかはお教えできませんが、これから先生を現地へ案内しましょう」
「社長!」
粋間は美馬に「いいんだ」と言って、藤原のほうを見る。
「先生、ではこれから現地に行きましょう。ただし、ツアーの参加者と同じミステリーツアーということで行き先はわからないようにさせていただきますよ。それでよろしいですか?」
「それで構いません」
「美馬、車の用意をしてくれ。では、小町さんはここでイメージモデルの打ち合わせの続きをしていてください」
「私も行くわ。打ち合わせはあとでもいいでしょ」
「しかし……」
小町は自分の考えを譲る気はないという顔をしている。
「社長、彼女もいっしょにお願いします」
小町の顔を見た藤原が頭を下げて頼んだ。
「先生が言うのであれば……わかりました」
美馬が至急ミステリーツアーのバスを手配した。
藤原と小町、粋間と美馬はバスに乗ってツアー会場へ向かった。
車内で美馬がツアーのルールなどを二人に説明した。
その後、しばらく粋間と美馬は黙っていた。
「みんな大丈夫かな? あの四人なら大丈夫だと思うけど」
いつもは冷静な小町だが、四人のことが心配で落ち着かない。
あの四人はしっかり者だから大丈夫と思う一方で、四人とも古代史が好きでしかも好奇心旺盛だから、もし遺跡のようなものを見つけたら、きっと多少危ないことがあってもどんどん先に進んでいく、そんな気がしていた。
「無茶をしていなければいいが……」
藤原も心配そうな顔をしている。
しばらくすると、イベント会場の近くでバスが停まった。
「我々はここで待っています。そうだ。これを持っていってください。わが社の幹部だけが持っているバッジです。スタッフにこれを見せればいろいろと助けてくれると思います」
と言って、粋間が藤原に銀色の丸いバッジを渡した。
「ありがとうございます。では、私たちは先に進みます」
藤原と小町はイベント会場に向かって走っていった。
「社長、やはり今回のツアーを開催してよかったんでしょうか? 藤原先生の言うように、危険な仕掛けなどがあって参加者に何かあったら……」
美馬が不安そうに尋ねる。
しかし、粋間は美馬の話など耳に入っていないようだった。
「あの藤原大和がこの場所に来てくれたぞ。彼なら邪馬台国を発見して、卑弥呼様を復活させてくれるかもしれない」
「社長……」
心配そうな表情をしている美馬の脇で、粋間は邪馬台国が見つかるかもしれないという期待で興奮して、顔を紅潮させていた。
小町は信じられないといった顔をしている。
粋間が最後に付け加えた。
「我々の名前についても藤原先生の言うとおりです。こんな簡単に推測される名前なんて使わなければいいだろうとお思いでしょうが、邪馬台国の時代から続くこの名前がずっと我々の心の支えであり、誇りになっているんでしょうな」
粋間が話を終えると、美馬が藤原のほうを見る。
「それで、藤原先生はどうするおつもりでしょうか?」
「どうするつもり、というと?」
「わざわざ我々の正体と秘密を知らせに来て、何がしたいのかということです。我々を脅して邪馬台国のことを公表するつもりですか?」
「私は、あなた方や邪馬台国のことを公表しようとかそんなことは考えていません」
藤原が言い返す。
「あなた方が、邪馬台国があるという場所のことをしっかり把握していて、危険もないということを確認したうえでツアーを開催されているのであれば、学生たちにツアーを楽しんでもらうだけです。しかし、あなた方は遺跡の場所もどういった遺跡や仕掛けがあるのかもわかっていない。そうじゃないですか?」
美馬の表情が曇る。
「遺跡が本当に存在するのであれば、しかもその存在を外部の人間に決して知られてはいけないのであれば、当然、侵入者を防ぐための危険な仕掛けが潜んでいる可能性もあります。そんなところに学生を行かせるわけにはいきません!」
「先生!」
少しの間席を離れていた小町が、慌てた様子で藤原に声をかける。
「さっきから古代史研究会のみんなに何回も電話をしているけど、誰ともつながらないわ」
藤原が粋間と美馬のほうを見る。
「それはミステリーツアーということで、参加者の携帯電話を預かっているためです。もちろん、参加者には代わりに我々の携帯電話を渡してあります」
美馬が答えると、
「じゃあ、その電話ならつながるの?」
小町が訊き返すと、
「おそらく圏外でつながらないと思います……」
美馬が力なく答える。
「私もこれから現地へ行きます。場所を教えてください」
藤原が美馬に迫った。
「場所は教えられません」
「どうしてです? 何かあったらどうするんですか?」
「我々のスタッフが参加者の安全には万全を期しています」
「それは十分わかっています。しかし、何が起こるかわかりません。お願いします。他の人には絶対話しませんので」
「しかし……」
二人の押し問答が続く。
「じゃあ、警察にでも届けるしかないわね」
小町が美馬を見て脅すように言う。
「先生、ここにいても時間の無駄よ。警察に事情をすべて話して、みんなを探してもらいましょう」
それを聞いた美馬が困った表情を浮かべる。
すると、それまで黙って話を聞いていた粋間が口を開く。
「わかりました。具体的にどこの場所にあるかはお教えできませんが、これから先生を現地へ案内しましょう」
「社長!」
粋間は美馬に「いいんだ」と言って、藤原のほうを見る。
「先生、ではこれから現地に行きましょう。ただし、ツアーの参加者と同じミステリーツアーということで行き先はわからないようにさせていただきますよ。それでよろしいですか?」
「それで構いません」
「美馬、車の用意をしてくれ。では、小町さんはここでイメージモデルの打ち合わせの続きをしていてください」
「私も行くわ。打ち合わせはあとでもいいでしょ」
「しかし……」
小町は自分の考えを譲る気はないという顔をしている。
「社長、彼女もいっしょにお願いします」
小町の顔を見た藤原が頭を下げて頼んだ。
「先生が言うのであれば……わかりました」
美馬が至急ミステリーツアーのバスを手配した。
藤原と小町、粋間と美馬はバスに乗ってツアー会場へ向かった。
車内で美馬がツアーのルールなどを二人に説明した。
その後、しばらく粋間と美馬は黙っていた。
「みんな大丈夫かな? あの四人なら大丈夫だと思うけど」
いつもは冷静な小町だが、四人のことが心配で落ち着かない。
あの四人はしっかり者だから大丈夫と思う一方で、四人とも古代史が好きでしかも好奇心旺盛だから、もし遺跡のようなものを見つけたら、きっと多少危ないことがあってもどんどん先に進んでいく、そんな気がしていた。
「無茶をしていなければいいが……」
藤原も心配そうな顔をしている。
しばらくすると、イベント会場の近くでバスが停まった。
「我々はここで待っています。そうだ。これを持っていってください。わが社の幹部だけが持っているバッジです。スタッフにこれを見せればいろいろと助けてくれると思います」
と言って、粋間が藤原に銀色の丸いバッジを渡した。
「ありがとうございます。では、私たちは先に進みます」
藤原と小町はイベント会場に向かって走っていった。
「社長、やはり今回のツアーを開催してよかったんでしょうか? 藤原先生の言うように、危険な仕掛けなどがあって参加者に何かあったら……」
美馬が不安そうに尋ねる。
しかし、粋間は美馬の話など耳に入っていないようだった。
「あの藤原大和がこの場所に来てくれたぞ。彼なら邪馬台国を発見して、卑弥呼様を復活させてくれるかもしれない」
「社長……」
心配そうな表情をしている美馬の脇で、粋間は邪馬台国が見つかるかもしれないという期待で興奮して、顔を紅潮させていた。