第36話 大ピンチ

文字数 1,220文字

 神殿の外では、群衆、いや今や邪馬台国の戦士となった者たちが、戦闘の準備を終えて整列していた。
 それを見た卑弥呼が出発の号令をかけようとする。

 そのとき、石川が卑弥呼の前に出て跪いた。
「卑弥呼様、出発の前にお尋ねしたいことがあります」
 それを見た粋間が石川の前に立つ。
「何だ?」
 粋間は、「我々を通さずに直接卑弥呼様に話しかけるな」と言わんばかりに不機嫌な表情を見せて石川を睨む。
「申し訳ありません。実はあそこに閉じ込めている者についてなんですが……」
 と言って、石川が古代史研究会チームの三人が閉じ込められている建物を指さす。
「それがどうした?」
 粋間がイライラしながら訊き返す。
「あいつらは卑弥呼様の復活を邪魔したとんでもない者たちです。いっそのこと、出発の前に、今回の戦いの成功を祈って、生贄として神に捧げてはどうでしょうか?」

 石川の提案に粋間がうなずく。
「なるほど。ここに置いていくわけにもいかないしな」
 粋間は振り返って卑弥呼に向かって跪く。
「卑弥呼様、いかがいたしましょうか?」
「好きにするがよい」
 卑弥呼はどうでもいいといった感じで短く答える。
「わかりました」
 粋間は卑弥呼に一礼して、梨目に目配せした。
 すると、梨目が立ち上がって、「誰か、あの三人をここに連れてこい」と後ろに控えている護衛に命令した。
「私たちが行ってきます」
 二人の護衛がそれに答えると、立ち上がって建物のほうに歩いていった。

「生贄だと? あいつら何てこと言うんだ」
 今の会話を聞いていた信二が目を剥(む)いた。
「護衛がここに向かってきます。これは非常にまずいですよ」
 金次郎があたふたしている。
「何とかしないと。何か助かる方法が……」
 弥生はこのピンチを脱出する方法を必死で考えたが、いい方法は何も浮かばなかった。

 そうこうしているうちに、二人の護衛が建物にやってきた。
 護衛は見張りに入口を開けさせた。さらに、見張りに「ここはもういい」と告げて、見張りを建物の前からどけさせた。見張りは建物から離れていった。
 建物の中に入った護衛が三人の前に立つ。三人はもう万事休すだと思って、黙って下を向いているしかなかった。
 護衛の一人が口を開く。
「今からお前たちを卑弥呼様のところに連れていく」
 若い男性の声だった。やさしそうな声だったが、一部の隙もないといった感じの淡々とした口調だった。
 四人はまだ黙って下を向いていた。
「何を黙っているの? 顔を上げなさい!」
 すると、もう一人の護衛が声を上げた。女性の声だったが、とても厳しい口調だったので、三人は震えあがった。
 三人は、恐る恐る顔を上げて二人の護衛の顔を見る。

 次の瞬間……
「あっ!」
 三人は驚きのあまり大声を上げた。
 そこには、邪馬台国の護衛……ではなくて、邪馬台国の衣装を着た藤原と小町の姿があった。

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登場人物紹介

出雲 弥生(いずも やよい)


東静大学古代史研究会 副部長 2年生 

武田 信二(たけだ しんじ)


東静大学古代史研究会 部長 2年生 

桜井 伊予(さくらい いよ)


東静大学古代史研究会 1年生 

鹿島 金次郎(かしま きんじろう)


東静大学古代史研究会 1年生

姫野 小町(ひめの こまち)


東静大学古代史研究会 4年生 

藤原 大和(ふじわら やまと)


東静大学古代史研究会 顧問 講師 

粋間(いきま)


ヒストリートラベル株式会社 社長

美馬(みま)


ヒストリートラベル株式会社 部長

梨目(なしめ)


ヒストリートラベル株式会社 主任

石川(いしかわ)


文化財保存推進協会 リーダー

富子(とみこ)


文化財保存推進協会 メンバー

松永(まつなが)


文化財保存推進協会 メンバー

斎藤(さいとう)


文化財保存推進協会 メンバー

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