第46話 永遠の邪馬台国【最終話】
文字数 2,285文字
邪馬台国ツアーから一週間後、古代史研究会のメンバーは部室に集まっていた。
「すごい経験をしたな。俺、今もなんか頭がぼーっとしてるよ」
信二がだるそうな表情をしたまま口を開く。
「私も」
「僕もそうです」
「私もそうです」
他のメンバーも気が抜けたような声で答える。
「みんなそろってるわね」
小町が部室に入ってくると、
「ちょっと、何なのみんな。その覇気のない顔は」
四人の顔を見て、あきれたように言う。
「だって、小町先輩。この前のツアーがすごすきて」
信二がだるそうに答える。
「ごめん、ごめん。遺跡の調査をしてたらつい……」
小町に続いて、藤原が段ボール箱を抱えて部室に入ってきた。藤原も眠そうな表情をしている。
「何? 先生までツアーぼけ?」
小町が腕組みして藤原を見る。
「ツアーぼけ? 僕は昨日徹夜で論文を書いていたから眠くて……」
藤原があくびをした。そのまま眠ってもおかしくない様子だったが、ふと「そうだ」と何かを思い出して口を開く。
「今度、僕の知人が大規模な遺跡の発掘に参加することになってね。それで……」
「大規模な遺跡の発掘?」
それまでだるそうな表情をしていた四人の目がパッと開く。
「みんながよければ、古代史研究会チームとして参加しようと思っているんだけど」
藤原が全員の顔を見る。
「先生、この人たちはツアーぼけで抜け殻のようになってるから無理よ」
小町が冷めた口調で答えると、
「そんなことはありません!」
弥生が立ち上がって、大声で反論する。
「ぜひ参加させてください!」
他の三人も立ち上がって答える。
「先生、全員参加だそうよ」
小町の言葉に、藤原が笑いながらうなずく。
「そういえば……」
と言って、藤原がポケットから一枚の封筒を出した。宛先は東静大学古代史研究会で、差出人はヒストリートラベルになっていた。
藤原が封を開けて入っている手紙を読む。
「急な話ではありますが、この度ヒストリートラベルは閉鎖しました。みなさんには大変ご迷惑をおかけいたしました。そのお詫びとお礼を兼ねて記念品を贈らせていただきます」
「ヒストリートラベルなくなっちゃうんだ……」
弥生がさみしそうにつぶやく。
「まあ、今回のことがあったからね。歴史好きが喜ぶツアーを開催してくれる貴重な会社だったから、ちょと残念だけどね」
藤原が残念そうに答える。
「先生、手紙に書いてある記念品って?」
信二は藤原が抱えてきた段ボール箱をじっと見つめる。
「そう、これが一緒に送られてきたんだよ」
「何が入っているんでしょう?」
金次郎がドキドキしながら箱を見る。
「ひょっとして邪馬台国に関する道具かも」
伊代の声がかすかに震えている。
「まさか、銅鏡や金印……」
弥生の表情も緊張で固くなっている。
全員で箱をそーっと開ける。信二が手を入れて箱の中にあるものを取り出す。
「何だこれ?」
信二の手には、ツアーのイベント会場で販売していた邪馬台国の衣装が何着も入っていた。
「は?」
それを見て、全員がきょとんとした表情を浮かべている。
「これってあそこで売っていた衣装?」
弥生がつぶやく。
「そうみたいですね」
金次郎が肩を落として力なく答える。
「私、これ持ってる……」
伊代の声にも元気がない。
「私と先生も持ってるわよ。ちょっと、これただの売れ残りじゃないの?」
小町が衣装をつかんでため息をつく。
「まあ、この衣装も活躍したしねえ」
藤原が苦笑いを浮かべる。
「先生、笑ってる場合じゃないわよ。そうだ! 優勝賞品の話はどうなったの?」
小町の言葉にみんなが「あっ!」と声を上げる。
「邪馬台国を発見したのは俺たちだぜ」
信二が思い出したように叫ぶ。
「優勝者は私たちですよね」
伊代がうなずく。
「ということは……」
金次郎もうなずいた。
「優勝賞品の世界一周古代遺跡ツアーは私たちのものよ!」
小町と弥生が同時に叫ぶ。
「信二、箱の中にツアーのチケットか何かが入ってない?」
信二は急いで箱の中を探したが、
「邪馬台国の衣装以外は何も入っていなかった……」
と力なく答える。
「会社に連絡するわよ。先生、ヒストリートラベルの連絡先は?」
小町が携帯電話を手にしながら藤原を見る。
「いや、ヒストリートラベルはもう閉鎖してるから。連絡先も何もわからないよ」
藤原が笑いながら答える。
「何それ。ちょっと、詐欺じゃないのよ!」
「そうは言っても、もう会社がないからね……」
藤原以外のメンバーががっくりと肩を落とす。
「あれだけの冒険をして、手に入れた宝物はこれだけ……」
信二が衣装を見つめながらため息をつく。
それに釣られて他のメンバーもため息をつく。
「ところで、さっき話した遺跡発掘の話だけど、そもそもこの遺跡は……」
と言って、藤原が話題を変えて話し始めると、落ち込んでいたみんなの目が、急に生き生きとしてきた。
そのまま夢中になって藤原の話を聞いていた。
その日の夜、伊代は部屋の窓から月を眺めていた。その日は満月だった。
伊代は邪馬台国の衣装を着て、首からは邪馬台国で手に入れた勾玉のネックレスを下げていた。
「私だけ邪馬台国の道具をもらっちゃって、みんなに申し訳ないなあ」
伊代が勾玉を手に取ってつぶやく。
月の光が反射して、勾玉がきれいに輝く。
「卑弥呼さん、きっとまた会えるよね」
伊代が月に向かって微笑んだ。
「すごい経験をしたな。俺、今もなんか頭がぼーっとしてるよ」
信二がだるそうな表情をしたまま口を開く。
「私も」
「僕もそうです」
「私もそうです」
他のメンバーも気が抜けたような声で答える。
「みんなそろってるわね」
小町が部室に入ってくると、
「ちょっと、何なのみんな。その覇気のない顔は」
四人の顔を見て、あきれたように言う。
「だって、小町先輩。この前のツアーがすごすきて」
信二がだるそうに答える。
「ごめん、ごめん。遺跡の調査をしてたらつい……」
小町に続いて、藤原が段ボール箱を抱えて部室に入ってきた。藤原も眠そうな表情をしている。
「何? 先生までツアーぼけ?」
小町が腕組みして藤原を見る。
「ツアーぼけ? 僕は昨日徹夜で論文を書いていたから眠くて……」
藤原があくびをした。そのまま眠ってもおかしくない様子だったが、ふと「そうだ」と何かを思い出して口を開く。
「今度、僕の知人が大規模な遺跡の発掘に参加することになってね。それで……」
「大規模な遺跡の発掘?」
それまでだるそうな表情をしていた四人の目がパッと開く。
「みんながよければ、古代史研究会チームとして参加しようと思っているんだけど」
藤原が全員の顔を見る。
「先生、この人たちはツアーぼけで抜け殻のようになってるから無理よ」
小町が冷めた口調で答えると、
「そんなことはありません!」
弥生が立ち上がって、大声で反論する。
「ぜひ参加させてください!」
他の三人も立ち上がって答える。
「先生、全員参加だそうよ」
小町の言葉に、藤原が笑いながらうなずく。
「そういえば……」
と言って、藤原がポケットから一枚の封筒を出した。宛先は東静大学古代史研究会で、差出人はヒストリートラベルになっていた。
藤原が封を開けて入っている手紙を読む。
「急な話ではありますが、この度ヒストリートラベルは閉鎖しました。みなさんには大変ご迷惑をおかけいたしました。そのお詫びとお礼を兼ねて記念品を贈らせていただきます」
「ヒストリートラベルなくなっちゃうんだ……」
弥生がさみしそうにつぶやく。
「まあ、今回のことがあったからね。歴史好きが喜ぶツアーを開催してくれる貴重な会社だったから、ちょと残念だけどね」
藤原が残念そうに答える。
「先生、手紙に書いてある記念品って?」
信二は藤原が抱えてきた段ボール箱をじっと見つめる。
「そう、これが一緒に送られてきたんだよ」
「何が入っているんでしょう?」
金次郎がドキドキしながら箱を見る。
「ひょっとして邪馬台国に関する道具かも」
伊代の声がかすかに震えている。
「まさか、銅鏡や金印……」
弥生の表情も緊張で固くなっている。
全員で箱をそーっと開ける。信二が手を入れて箱の中にあるものを取り出す。
「何だこれ?」
信二の手には、ツアーのイベント会場で販売していた邪馬台国の衣装が何着も入っていた。
「は?」
それを見て、全員がきょとんとした表情を浮かべている。
「これってあそこで売っていた衣装?」
弥生がつぶやく。
「そうみたいですね」
金次郎が肩を落として力なく答える。
「私、これ持ってる……」
伊代の声にも元気がない。
「私と先生も持ってるわよ。ちょっと、これただの売れ残りじゃないの?」
小町が衣装をつかんでため息をつく。
「まあ、この衣装も活躍したしねえ」
藤原が苦笑いを浮かべる。
「先生、笑ってる場合じゃないわよ。そうだ! 優勝賞品の話はどうなったの?」
小町の言葉にみんなが「あっ!」と声を上げる。
「邪馬台国を発見したのは俺たちだぜ」
信二が思い出したように叫ぶ。
「優勝者は私たちですよね」
伊代がうなずく。
「ということは……」
金次郎もうなずいた。
「優勝賞品の世界一周古代遺跡ツアーは私たちのものよ!」
小町と弥生が同時に叫ぶ。
「信二、箱の中にツアーのチケットか何かが入ってない?」
信二は急いで箱の中を探したが、
「邪馬台国の衣装以外は何も入っていなかった……」
と力なく答える。
「会社に連絡するわよ。先生、ヒストリートラベルの連絡先は?」
小町が携帯電話を手にしながら藤原を見る。
「いや、ヒストリートラベルはもう閉鎖してるから。連絡先も何もわからないよ」
藤原が笑いながら答える。
「何それ。ちょっと、詐欺じゃないのよ!」
「そうは言っても、もう会社がないからね……」
藤原以外のメンバーががっくりと肩を落とす。
「あれだけの冒険をして、手に入れた宝物はこれだけ……」
信二が衣装を見つめながらため息をつく。
それに釣られて他のメンバーもため息をつく。
「ところで、さっき話した遺跡発掘の話だけど、そもそもこの遺跡は……」
と言って、藤原が話題を変えて話し始めると、落ち込んでいたみんなの目が、急に生き生きとしてきた。
そのまま夢中になって藤原の話を聞いていた。
その日の夜、伊代は部屋の窓から月を眺めていた。その日は満月だった。
伊代は邪馬台国の衣装を着て、首からは邪馬台国で手に入れた勾玉のネックレスを下げていた。
「私だけ邪馬台国の道具をもらっちゃって、みんなに申し訳ないなあ」
伊代が勾玉を手に取ってつぶやく。
月の光が反射して、勾玉がきれいに輝く。
「卑弥呼さん、きっとまた会えるよね」
伊代が月に向かって微笑んだ。