第29話 奴国② 急展開
文字数 3,623文字
四人が振り向くと、後ろには文化財保存推進協会チームのメンバーがいた。
「こんな洞窟の中ではしゃいで、何かいいことでもあったのか? 邪馬台国のお宝でも見つけたか?」
石川がニヤリとして、古代史研究会チームの四人をじっと見る。
その目はこれまで見せた目つきとは違って、もちろんこれまでも胡散臭い目つきであったが、それに加えてより悪意と不気味さに満ちた目つきだった。
「貴様らのような学生がよくもまあ、こんなところまでたどり着いたもんだ。我々より先に」
石川が嘗めまわすように四人を見る。
「ここへ来たということは、あの迷路のような森も抜けてきたというわけか。そして、あの環濠集落へも矢をかわして中に入ったってわけか。さらに、どうやったか知らないが、あの二匹の犬のところも突破してきたらしいな」
そう言って、石川は松永に声をかける。
「あの犬がどうやっても道をあけねえから、何回も思いっきり殴ってやったぜ。まあ、しぶとい犬だから命はまだあったようだが。とっとと道をあければいいのに馬鹿な犬だ」
松永が自分の拳をさすりながらニヤリと笑う。
その拳には大量の血がついていた。それは環濠集落の門の前にいた二匹の犬を殴った時についた血だった。
松永の拳についた血を見て、四人は青ざめた。
松永は四人の表情を見て、不気味な笑いを浮かべている。
次に松永の脇にいる斎藤が口を開いた。
「さてと。俺たちはあの環濠集落にあった主祭殿の二階に行ったが、そこには何もなかった。だが、あそこには棚がひとつあって、その上には何かが飾ってあったような形跡があった。さらに……」
斎藤が一度言葉を切ってから四人を見る。
「部屋の中には、あきらかに俺たちが来る直前にそこに入ったと思われる足跡がいくつかあった。その足跡は棚のほうまで続いていた。これは何を意味するのか」
斎藤も松永と同じように不気味な笑いを浮かべる。
「そこには何かがあったってことね。そして、それはあなたたちが持っている」
そう言って、富子が四人を指さした。
文化財保存推進協会のメンバーが話をしている間、古代史研究会の四人はずっと黙っていた。
「時間もないから単刀直入に言う。主祭殿で見つけたものをよこせ。いや、それ以外にもここに来る途中で見つけた物を全部よこせ。おとなしく渡してここを去れば何もしない。ただし、渡さないときは……」
松永がその大きな拳を握りしめてパキパキと音を鳴らしながら、四人に近づいてくる。
四人はお互いに目配せして、どうしようか迷っている。
「さあ、早く出すんだ。こいつは本気だぞ」
石川がそう言うや否や、松永は金次郎の胸ぐらをつかんだ。
「まずはお前からだ」
松永が金次郎を殴ろうとする。
「待ってくれ!」
信二が声を上げた。
その声で松永は殴るのをやめて、金次郎から手を離した。
「主祭殿で見つけたのはこれだ」
と言って、信二は環濠集落に入ろうとしたときに飛んできた矢を石川に見せた。
古代史研究会の他の三人は、信二が渡したものを見て「えっ」という表情をしたが、石川はそれには気づかなかった。
「本当にこれか? どこかで見たことがあるような気がするが……」
石川が考えていると、
「これって環濠集落に入ろうとしたときに飛んできた矢に似てない?」
富子が疑うような目で矢を見る。
「そういえば確かにそうだな。おいっ! 本当にこれが主祭殿にあったのか。嘘をつくとただじゃすまねえぞ」
松永の大きな怒鳴り声を聞いて、信二以外の三人は恐くてぶるぶると震えだした。
「本当だ。よくその矢を見てみろ。表面に金がついているはずだ」
石川が改めて矢をよく見てみると、確かに矢の周りには金の粒がついていた。
それは、信二がさっき黄金の川で見つけた砂金と矢をいっしょにしまっていたために、偶然矢に砂金がついたものだった。それを見つけた信二がとっさに機転を利かせて、その矢が金がついた特別なものであるかのようにうそをついた。
「黄金のついた矢か。どうやら本物らしいな」
信二の話を信用した石川が、矢を見てニヤリとする。
四人がホッとしたその瞬間、石川が再び四人のほうを見る。
「だが、これで全部じゃないはずだ」
その瞬間、四人の表情が引きつった。
「さっき俺たちに会ったときに、お前らがあれほど浮かれていたのは、この近くで何かを見つけたからだ。そうだろう? それを出せ」
「それは……」
今度はいい案が浮かばないらしく、信二が言い淀んでいると、
「私たちがはしゃいでいたのは、これを発見したからよ」
弥生が黄金の川で拾った砂金を見せた。
砂金を見た瞬間、文化財保存推進協会チームのメンバーの目の色が変わった。
「こんなものをどこで見つけた?」
石川が興奮した表情で訊いてくる。
「そこの細い道を入った先に小さな川があるのよ。そこにはこんなわずかじゃない、大量の砂金があるわ」
石川は弥生が言った細い道のほうを見た。そして、斎藤に目配せして道の先を見てくるように指示した。斎藤は足早に細い道を進んでいった
少しすると、斎藤が血相を変えて戻ってきた。かなり興奮している。
「あった。黄金の川があったぞ。そこにはすさまじい量の砂金があるぞ!」
文化財保存推進協会のメンバーの顔つきが変わった。
「早く行きましょう!」
富子が興奮しながら細い道のほうに向かう。
「しかし、こんな細い道じゃあ大量の砂金は運び出せねえな。あれを使うか」
と言って、松永が何かを取り出した。
それは工事現場などで使うようなダイナマイトだった。
「ちょっと、こんなところでそんなの使ったら危ないんじゃないの?」
「大丈夫だ。火薬の量はたいしてないものを使う。何度か使ったことがあるし問題ない」
松永はダイナマイトに火をつけて道の前に置いた。
激しい爆発音とともに岩が崩れて、道が広くなった。
「ほらな、大丈夫だろ」
松永がニヤリとした。
「いいだろう。今回は見逃してやる。お前らはおとなしく引き返すんだな。さあ、さっさと行け!」
石川が四人に向かって怒鳴った。
四人は仕方なく来た道を引き返し始めた。
それを見て、石川は他のメンバーに指示を出した。
「よし、砂金を取りに行くぞ」
文化財保存推進協会のメンバーはダイナマイトを使って広くなった道に入っていった。メンバーは黄金の川を見つけると全員が歓声を上げた。
「これはすげえ!」
「これを全部持っていったら……」
「何でも買えるわね」
「一生遊んで暮らせるぜ」
文化財保存推進協会のメンバーは黄金の川の前ではしゃぎまわっていた。
古代史研究会チームの四人は洞窟の入口に向かって引き返し始める。
「これでよかったんだよな」
信二が三人のほうを見る。
「仕方ないわ。あんな連中に関わらないほうがいいわよ。もし、何かあったら大変だし」
弥生が答える。
「あいつら大っ嫌い!」
伊代が怒っている。
「すみません。何もできませんでした」
金次郎は肩を落としてがっかりしている。
「金次郎、そんなに落ち込むなよ」
「そうよ。戻ったらスタッフの人たちにこのことをきちんと話しましょう。警察に言ってあいつらを捕まえてもらいましょう」
そのまま四人が洞窟の中を歩いていると、ふと「バシャ、バシャ」と水たまりを歩いているような音が聞こえた。
「こんなところに水たまりなんてあったか?」
信二が立ち止まって考える。
「いや。水があったのは黄金の川のところだけじゃない?」
弥生も不思議そうな顔をしている。
「それに、何か変な気がしませんか?」
金次郎の顔が青ざめている。
「水の量が増えている……」
伊代の声も震えている。
最初はせいぜいくるぶしの高さまでしかなかった水が、いつの間にか膝の高さまで上がっていた。
「何だ?」
信二が洞窟の中を見回した。
すると、洞窟内のあちこちの穴から少しずつ水が流れてきているのが見えた。そして、その水の量は徐々に増えていった。しかも、流れも速くなってきた。
「何これ? 何が起きているの?」
四人は驚きと恐怖で不安そうな顔を浮かべる。
「まさか……」
弥生の顔色が変わる。
「あいつらがさっき使ったダイナマイト。あれが原因なんじゃないの?」
四人はお互いの顔を見る。
「とにかく、どこか高い場所に隠れないと」
四人は辺りを見渡したが、どこにも隠れられるような高い場所はなかった。その間にも水の量と速さはどんどん勢いを増している。
四人は慌てて近くにあった岩に必死にしがみついた。
しかし、流れはどんどん勢いを増していき、とてもつかまっていられなかった。
「うわー!」
四人は流れに飲み込まれて、そのまま流されてしまった……
「こんな洞窟の中ではしゃいで、何かいいことでもあったのか? 邪馬台国のお宝でも見つけたか?」
石川がニヤリとして、古代史研究会チームの四人をじっと見る。
その目はこれまで見せた目つきとは違って、もちろんこれまでも胡散臭い目つきであったが、それに加えてより悪意と不気味さに満ちた目つきだった。
「貴様らのような学生がよくもまあ、こんなところまでたどり着いたもんだ。我々より先に」
石川が嘗めまわすように四人を見る。
「ここへ来たということは、あの迷路のような森も抜けてきたというわけか。そして、あの環濠集落へも矢をかわして中に入ったってわけか。さらに、どうやったか知らないが、あの二匹の犬のところも突破してきたらしいな」
そう言って、石川は松永に声をかける。
「あの犬がどうやっても道をあけねえから、何回も思いっきり殴ってやったぜ。まあ、しぶとい犬だから命はまだあったようだが。とっとと道をあければいいのに馬鹿な犬だ」
松永が自分の拳をさすりながらニヤリと笑う。
その拳には大量の血がついていた。それは環濠集落の門の前にいた二匹の犬を殴った時についた血だった。
松永の拳についた血を見て、四人は青ざめた。
松永は四人の表情を見て、不気味な笑いを浮かべている。
次に松永の脇にいる斎藤が口を開いた。
「さてと。俺たちはあの環濠集落にあった主祭殿の二階に行ったが、そこには何もなかった。だが、あそこには棚がひとつあって、その上には何かが飾ってあったような形跡があった。さらに……」
斎藤が一度言葉を切ってから四人を見る。
「部屋の中には、あきらかに俺たちが来る直前にそこに入ったと思われる足跡がいくつかあった。その足跡は棚のほうまで続いていた。これは何を意味するのか」
斎藤も松永と同じように不気味な笑いを浮かべる。
「そこには何かがあったってことね。そして、それはあなたたちが持っている」
そう言って、富子が四人を指さした。
文化財保存推進協会のメンバーが話をしている間、古代史研究会の四人はずっと黙っていた。
「時間もないから単刀直入に言う。主祭殿で見つけたものをよこせ。いや、それ以外にもここに来る途中で見つけた物を全部よこせ。おとなしく渡してここを去れば何もしない。ただし、渡さないときは……」
松永がその大きな拳を握りしめてパキパキと音を鳴らしながら、四人に近づいてくる。
四人はお互いに目配せして、どうしようか迷っている。
「さあ、早く出すんだ。こいつは本気だぞ」
石川がそう言うや否や、松永は金次郎の胸ぐらをつかんだ。
「まずはお前からだ」
松永が金次郎を殴ろうとする。
「待ってくれ!」
信二が声を上げた。
その声で松永は殴るのをやめて、金次郎から手を離した。
「主祭殿で見つけたのはこれだ」
と言って、信二は環濠集落に入ろうとしたときに飛んできた矢を石川に見せた。
古代史研究会の他の三人は、信二が渡したものを見て「えっ」という表情をしたが、石川はそれには気づかなかった。
「本当にこれか? どこかで見たことがあるような気がするが……」
石川が考えていると、
「これって環濠集落に入ろうとしたときに飛んできた矢に似てない?」
富子が疑うような目で矢を見る。
「そういえば確かにそうだな。おいっ! 本当にこれが主祭殿にあったのか。嘘をつくとただじゃすまねえぞ」
松永の大きな怒鳴り声を聞いて、信二以外の三人は恐くてぶるぶると震えだした。
「本当だ。よくその矢を見てみろ。表面に金がついているはずだ」
石川が改めて矢をよく見てみると、確かに矢の周りには金の粒がついていた。
それは、信二がさっき黄金の川で見つけた砂金と矢をいっしょにしまっていたために、偶然矢に砂金がついたものだった。それを見つけた信二がとっさに機転を利かせて、その矢が金がついた特別なものであるかのようにうそをついた。
「黄金のついた矢か。どうやら本物らしいな」
信二の話を信用した石川が、矢を見てニヤリとする。
四人がホッとしたその瞬間、石川が再び四人のほうを見る。
「だが、これで全部じゃないはずだ」
その瞬間、四人の表情が引きつった。
「さっき俺たちに会ったときに、お前らがあれほど浮かれていたのは、この近くで何かを見つけたからだ。そうだろう? それを出せ」
「それは……」
今度はいい案が浮かばないらしく、信二が言い淀んでいると、
「私たちがはしゃいでいたのは、これを発見したからよ」
弥生が黄金の川で拾った砂金を見せた。
砂金を見た瞬間、文化財保存推進協会チームのメンバーの目の色が変わった。
「こんなものをどこで見つけた?」
石川が興奮した表情で訊いてくる。
「そこの細い道を入った先に小さな川があるのよ。そこにはこんなわずかじゃない、大量の砂金があるわ」
石川は弥生が言った細い道のほうを見た。そして、斎藤に目配せして道の先を見てくるように指示した。斎藤は足早に細い道を進んでいった
少しすると、斎藤が血相を変えて戻ってきた。かなり興奮している。
「あった。黄金の川があったぞ。そこにはすさまじい量の砂金があるぞ!」
文化財保存推進協会のメンバーの顔つきが変わった。
「早く行きましょう!」
富子が興奮しながら細い道のほうに向かう。
「しかし、こんな細い道じゃあ大量の砂金は運び出せねえな。あれを使うか」
と言って、松永が何かを取り出した。
それは工事現場などで使うようなダイナマイトだった。
「ちょっと、こんなところでそんなの使ったら危ないんじゃないの?」
「大丈夫だ。火薬の量はたいしてないものを使う。何度か使ったことがあるし問題ない」
松永はダイナマイトに火をつけて道の前に置いた。
激しい爆発音とともに岩が崩れて、道が広くなった。
「ほらな、大丈夫だろ」
松永がニヤリとした。
「いいだろう。今回は見逃してやる。お前らはおとなしく引き返すんだな。さあ、さっさと行け!」
石川が四人に向かって怒鳴った。
四人は仕方なく来た道を引き返し始めた。
それを見て、石川は他のメンバーに指示を出した。
「よし、砂金を取りに行くぞ」
文化財保存推進協会のメンバーはダイナマイトを使って広くなった道に入っていった。メンバーは黄金の川を見つけると全員が歓声を上げた。
「これはすげえ!」
「これを全部持っていったら……」
「何でも買えるわね」
「一生遊んで暮らせるぜ」
文化財保存推進協会のメンバーは黄金の川の前ではしゃぎまわっていた。
古代史研究会チームの四人は洞窟の入口に向かって引き返し始める。
「これでよかったんだよな」
信二が三人のほうを見る。
「仕方ないわ。あんな連中に関わらないほうがいいわよ。もし、何かあったら大変だし」
弥生が答える。
「あいつら大っ嫌い!」
伊代が怒っている。
「すみません。何もできませんでした」
金次郎は肩を落としてがっかりしている。
「金次郎、そんなに落ち込むなよ」
「そうよ。戻ったらスタッフの人たちにこのことをきちんと話しましょう。警察に言ってあいつらを捕まえてもらいましょう」
そのまま四人が洞窟の中を歩いていると、ふと「バシャ、バシャ」と水たまりを歩いているような音が聞こえた。
「こんなところに水たまりなんてあったか?」
信二が立ち止まって考える。
「いや。水があったのは黄金の川のところだけじゃない?」
弥生も不思議そうな顔をしている。
「それに、何か変な気がしませんか?」
金次郎の顔が青ざめている。
「水の量が増えている……」
伊代の声も震えている。
最初はせいぜいくるぶしの高さまでしかなかった水が、いつの間にか膝の高さまで上がっていた。
「何だ?」
信二が洞窟の中を見回した。
すると、洞窟内のあちこちの穴から少しずつ水が流れてきているのが見えた。そして、その水の量は徐々に増えていった。しかも、流れも速くなってきた。
「何これ? 何が起きているの?」
四人は驚きと恐怖で不安そうな顔を浮かべる。
「まさか……」
弥生の顔色が変わる。
「あいつらがさっき使ったダイナマイト。あれが原因なんじゃないの?」
四人はお互いの顔を見る。
「とにかく、どこか高い場所に隠れないと」
四人は辺りを見渡したが、どこにも隠れられるような高い場所はなかった。その間にも水の量と速さはどんどん勢いを増している。
四人は慌てて近くにあった岩に必死にしがみついた。
しかし、流れはどんどん勢いを増していき、とてもつかまっていられなかった。
「うわー!」
四人は流れに飲み込まれて、そのまま流されてしまった……