第44話 伊代

文字数 747文字

 その場には卑弥呼が一人で立っていた。
 弥生と金次郎は、卑弥呼の復活に驚いて、その場に座り込んだまま立ち上がることができなかった。
 そこに、藤原、小町、信二の三人がやって来る。三人も復活した卑弥呼を見て困惑した表情を浮かべる。
 すると、いきなり卑弥呼がいたずらっぽく「ニコッ」と笑った。
 全員が驚いて、さっと身構える。

「先輩、うまくいきましたね」
 と言って、卑弥呼、いや伊代が微笑んだ。
 誰もが事態がよく呑み込めず、驚きのあまり何も言うことができなかった。

「あの、伊代さん……ですか?」
 しばらくの沈黙の後、金次郎が恐る恐る尋ねる。
「そうよ、金次郎君。当たり前でしょ」
 伊代が笑顔で答える。
「伊代ちゃん!」
 弥生が伊代に抱きついて、大声で泣きわめいた。信二と金次郎の目にも涙が浮かんでいた。

「伊代ちゃん、いつから伊代ちゃんに戻ったの?」
「確か、ボートに乗っていたとき、もう少しでここに上陸する頃だったと思います。意識が戻って起きようとしたんですけど、そのとき、『まだ起きちゃダメ』っていう卑弥呼さんの声が聞こえたんです」
 メンバーは驚きの表情を浮かべたまま、黙って話を聞いている。
「そして、『上陸してみんなが集まったらこう宣言してね』って言ったんです。それで、私がみんなの前でさっき宣言したようなことを話したんです」
 伊代の話を聞いて全員が茫然としている。
「じゃあ、あれは卑弥呼じゃなくて、伊代さんが卑弥呼を演じていたんですか……」
 金次郎は、驚きのあまり口を開けてぽかんとしている。
「伊代ちゃん、あなた女優になれるわよ」
 小町が感心して伊代を褒める。
「本当ですか?」
 伊代が舌を出して笑った。
 それに釣られて全員が声を上げて笑った。

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登場人物紹介

出雲 弥生(いずも やよい)


東静大学古代史研究会 副部長 2年生 

武田 信二(たけだ しんじ)


東静大学古代史研究会 部長 2年生 

桜井 伊予(さくらい いよ)


東静大学古代史研究会 1年生 

鹿島 金次郎(かしま きんじろう)


東静大学古代史研究会 1年生

姫野 小町(ひめの こまち)


東静大学古代史研究会 4年生 

藤原 大和(ふじわら やまと)


東静大学古代史研究会 顧問 講師 

粋間(いきま)


ヒストリートラベル株式会社 社長

美馬(みま)


ヒストリートラベル株式会社 部長

梨目(なしめ)


ヒストリートラベル株式会社 主任

石川(いしかわ)


文化財保存推進協会 リーダー

富子(とみこ)


文化財保存推進協会 メンバー

松永(まつなが)


文化財保存推進協会 メンバー

斎藤(さいとう)


文化財保存推進協会 メンバー

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