第3話 東静大学古代史研究会② メンバー勢ぞろい!
文字数 3,341文字
「そろそろサークルオリエンテーションも終わりの時間だな。弥生、そういえば今日は先生は来るのか?」
「夕方には顔を出してくれるように頼んでおいたけど……」
「あの、先生というのは?」
金次郎が遠慮がちに質問した。
「古代史研究会の顧問の先生よ。先生っていっても、去年まではここの大学の大学院生で古代史研究会の部長でもあった人なんだけどね」
弥生が答える。
「まあ、まだ若いのに見た目はパッとしないんだけどね。ただ、古代史への情熱と知識はすごくて、大学院生のときに書いた論文で学会の注目を集めて、古代史の研究者の間ではちょっとした有名人なのよ。それで、今年から大学の講師をしてるってわけ」
小町が新入生の二人に説明する。
「そんなすごい先生が顧問の先生なんですね」
伊代が目を輝かせている。
「私も先生の研究室に所属しているのよ。確かに研究になるとすごいんだけど、それ以外はルーズなところもあって。今日も来るって言ってたのにまだ来てないし。私、ちょっと呼んで……」
弥生が部室を出ていこうとすると、部室のドアが開いた。
「ごめん、ごめん。先月の発掘で出た遺跡を見てたら、今日のことをすっかり忘れてたよ」
一人の男性が頭をかきながら入ってきた。彼こそが今弥生が話していた顧問の先生だ。
長身でスラっとしていて、よく見ると端正な顔つきをしている。ただし、着ている服はくたくたで、髪やひげも伸びたままになっている。
「先生!」
弥生が驚いて声を上げた。
「先生、遅いですよ。それにいつものことだけど、その服にその髪……今日は新入生も来てるんですよ」
小町が先生の姿を見てため息をつく。
「やあ、小町君も来ていたのかい。遅れたのは謝るよ。新入生も来てるって?」
「先生、伊代ちゃんに金次郎君です!」
弥生が伊代と金次郎を紹介する。
「桜井伊代です」
「鹿島金次郎と申します」
二人があいさつをした瞬間、先生は動きをとめて二人を見つめた。
「桜井伊代……さん? 桜井さんの出身は?」
「奈良県です」
「奈良県、桜井とくれば、邪馬台国所在地の最有力地ともいわれる奈良県桜井市にある纒向 遺跡。しかも、名前は伊代! 伊代といえば、女王卑弥呼の後を継いでわずか十三歳で女王になった……」
先生が一人で興奮しているのを見て、伊代は引きつった笑みを浮かべている。
「先生! 伊代ちゃんがびっくりしてますよ」
「おっと、申し訳ない。それでこちらは鹿島金次郎君……鹿島に金次郎! 金次郎君の出身は?」
「茨城県です」
「茨城県の鹿島といえば鹿島神宮。鹿島神宮はとても歴史のある神社だね。金次郎君は鹿島神宮と何か関係が?」
「関係というか、鹿島神宮には何回か行ったことはありますが……でも、僕だけじゃなくて茨城県のだいたいの人は一回は行っていると思いますよ」
「金次郎といえば二宮金次郎。二宮金次郎と古代史、それに茨城県……何かつながりはあったかな? この三つに何か隠されたキーワードでもあるのか?」
先生が真剣な表情をして考えている。
「あのー、金次郎の名前は、親が二宮金次郎のように働き者になってほしいという思いでつけたと聞いていますので、隠されたキーワードとかそういったものはないかと思いますが……」
「だから、先生。金次郎君も驚いてますよ」
「いかん、いかん。つい癖でね。古代史に関係がある言葉を聞くと、いろいろと想像してしまうんだよ、ははは」
「はあ……」
新入生の二人は呆気にとられている。
「それじゃあ、さっきもしたけど、私たちも改めて自己紹介するわね」
弥生が二人のほうを向く。
「私は出雲弥生です。出身地は名字と同じ出雲国の島根県です」
「島根県出身で出雲、名前は弥生ですか。素敵な名前ですね」
「ありがとう、伊代ちゃん。じゃあ、次は信二の番よ」
信二はもったいぶって、咳ばらいをひとつしてから話し始めた。
「俺は一応ここの部長の武田信二。名字はあの戦国時代最強の武将といわれた武田信玄公と同じなんだ。出身地はその信玄公が治めていた甲斐の国、山梨県。もちろん、俺が一番好きで尊敬する歴史上の人物は、もちろん武田信玄公なんだ。それが、俺がこのサークルに入った理由でもあるんだよ」
「でも、武田信玄は戦国時代の武将で古代史の人物ではないですよね。なぜ、古代史研究会に入る理由になるんですか?」
金次郎が絶妙なつっこみを入れた。
「うっ……まあ、細かいことは気にしないでくれ。とにかく、古代史も戦国時代も好きで、誰よりも武田信玄公を尊敬してるんだよ」
二人のやり取りを聞いて小町が笑っている。
「あなたたち、いいコンビね。じゃあ、私も改めて自己紹介するわ。姫野小町、出身は秋田県よ」
「秋田県ですか、まさに秋田美人ですね。名前も世界三大美女の一人の小野小町と同じとは。茨城県にはこんなに美しい人はいませんでしたよ」
「金次郎君、ほめ過ぎよ。あなたが好きなのは伊代ちゃんでしょ?」
「はい……いや、そんなことはありません!」
金次郎がむきになって否定する。
「じゃあ、最後は私が。古代史研究会元部長で現在はこの大学の講師をしている藤原 大和 です。出身は……というか、こう見えて生まれも育ちもここ東京の生粋の江戸っ子です」
藤原の話が終わると、伊代が楽しそうに笑いだした。
「伊代君、やっぱり私が江戸っ子っておかしいかい?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、先生の話し方がなんとなく面白くて……」
「僕の話し方が面白いって……伊代君、君は不思議な子だね」
二人のやりとりを聞いて、みんなが笑い出した。
「それじゃあ、せっかくだし簡単にこのサークルの活動紹介をしよう。弥生君、お願いしていいかい?」
「えっ、部長の信二がやるのが普通だと思うけど……わかりました」
弥生が新入生の二人を見る。
「このサークルでは、基本的に、毎月テーマを決めてそれぞれがそのテーマに関して資料や文献などを調べてきてそれを発表する、そしてみんなで議論する、ということをやっています」
「けっこう本格的なんですね。みなさん全員が毎回調べてくるんですか?」
金次郎が尋ねる。
「去年の終わり頃からは、小町先輩はたまにしか来なかったから、毎回私と信二が調べてきたものを発表して、先生がコメントするって形になってたわね」
「まあ、私もいろいろ忙しくて。でも、たまに来て先生やあなたたちと議論するのは楽しかったわよ」
「先生、普段はやさしいけど、古代史の勉強に関しては厳しいからなあ。俺なんて調べ方が甘いって毎回言われてたよ」
「でも、信二君も弥生君も、一年間でだいぶしっかりした調査や発表ができるようになったよ」
「本当ですか!」
藤原の言葉を聞いた信二と弥生が笑顔を浮かべる。
「資料や文献を調べて議論するのも楽しかったけど、やっぱり俺は遺跡の発掘現場に行ったのが一番楽しかったな」
「発掘現場にも行くんですか?」
伊代がうれしそうに声を上げた。
「そうよ。去年は、先生が参加している発掘現場に、私たちも何回か連れていってもらったのよ。専門家の人もたくさん参加していたのよ」
弥生が楽しそうに説明した。
「発掘自体は地味な作業なんだけど、何かすごいものが出てくるんじゃないかってドキドキ感がたまらなかったな」
「信二なんて、土器のかけらを見つけたら、子どものように走り回っていたのよ」
弥生が信二をからかうように言うと、
「そういうお前も、ただのガラスの破片を古代のアクセサリーだとか言って、はしゃいでたよな」
信二が負けじと言い返す。
「弥生先輩がはしゃいでたんですか? そんな勘違いで……あ、すいません」
「まあ、あの時は私も興奮してて……」
弥生の顔が真っ赤になった。
「先生、今年も発掘作業に俺たちも参加させてもらえるんですよね」
「もちろん、今年も何回か予定しているよ。そのときは新入生の二人にも行ってもらうよ」
「はい。私も行きたいです」
「僕もぜひ参加させてください」
二人はうれしそうな顔を浮かべて、元気よく返事をした。
「夕方には顔を出してくれるように頼んでおいたけど……」
「あの、先生というのは?」
金次郎が遠慮がちに質問した。
「古代史研究会の顧問の先生よ。先生っていっても、去年まではここの大学の大学院生で古代史研究会の部長でもあった人なんだけどね」
弥生が答える。
「まあ、まだ若いのに見た目はパッとしないんだけどね。ただ、古代史への情熱と知識はすごくて、大学院生のときに書いた論文で学会の注目を集めて、古代史の研究者の間ではちょっとした有名人なのよ。それで、今年から大学の講師をしてるってわけ」
小町が新入生の二人に説明する。
「そんなすごい先生が顧問の先生なんですね」
伊代が目を輝かせている。
「私も先生の研究室に所属しているのよ。確かに研究になるとすごいんだけど、それ以外はルーズなところもあって。今日も来るって言ってたのにまだ来てないし。私、ちょっと呼んで……」
弥生が部室を出ていこうとすると、部室のドアが開いた。
「ごめん、ごめん。先月の発掘で出た遺跡を見てたら、今日のことをすっかり忘れてたよ」
一人の男性が頭をかきながら入ってきた。彼こそが今弥生が話していた顧問の先生だ。
長身でスラっとしていて、よく見ると端正な顔つきをしている。ただし、着ている服はくたくたで、髪やひげも伸びたままになっている。
「先生!」
弥生が驚いて声を上げた。
「先生、遅いですよ。それにいつものことだけど、その服にその髪……今日は新入生も来てるんですよ」
小町が先生の姿を見てため息をつく。
「やあ、小町君も来ていたのかい。遅れたのは謝るよ。新入生も来てるって?」
「先生、伊代ちゃんに金次郎君です!」
弥生が伊代と金次郎を紹介する。
「桜井伊代です」
「鹿島金次郎と申します」
二人があいさつをした瞬間、先生は動きをとめて二人を見つめた。
「桜井伊代……さん? 桜井さんの出身は?」
「奈良県です」
「奈良県、桜井とくれば、邪馬台国所在地の最有力地ともいわれる奈良県桜井市にある
先生が一人で興奮しているのを見て、伊代は引きつった笑みを浮かべている。
「先生! 伊代ちゃんがびっくりしてますよ」
「おっと、申し訳ない。それでこちらは鹿島金次郎君……鹿島に金次郎! 金次郎君の出身は?」
「茨城県です」
「茨城県の鹿島といえば鹿島神宮。鹿島神宮はとても歴史のある神社だね。金次郎君は鹿島神宮と何か関係が?」
「関係というか、鹿島神宮には何回か行ったことはありますが……でも、僕だけじゃなくて茨城県のだいたいの人は一回は行っていると思いますよ」
「金次郎といえば二宮金次郎。二宮金次郎と古代史、それに茨城県……何かつながりはあったかな? この三つに何か隠されたキーワードでもあるのか?」
先生が真剣な表情をして考えている。
「あのー、金次郎の名前は、親が二宮金次郎のように働き者になってほしいという思いでつけたと聞いていますので、隠されたキーワードとかそういったものはないかと思いますが……」
「だから、先生。金次郎君も驚いてますよ」
「いかん、いかん。つい癖でね。古代史に関係がある言葉を聞くと、いろいろと想像してしまうんだよ、ははは」
「はあ……」
新入生の二人は呆気にとられている。
「それじゃあ、さっきもしたけど、私たちも改めて自己紹介するわね」
弥生が二人のほうを向く。
「私は出雲弥生です。出身地は名字と同じ出雲国の島根県です」
「島根県出身で出雲、名前は弥生ですか。素敵な名前ですね」
「ありがとう、伊代ちゃん。じゃあ、次は信二の番よ」
信二はもったいぶって、咳ばらいをひとつしてから話し始めた。
「俺は一応ここの部長の武田信二。名字はあの戦国時代最強の武将といわれた武田信玄公と同じなんだ。出身地はその信玄公が治めていた甲斐の国、山梨県。もちろん、俺が一番好きで尊敬する歴史上の人物は、もちろん武田信玄公なんだ。それが、俺がこのサークルに入った理由でもあるんだよ」
「でも、武田信玄は戦国時代の武将で古代史の人物ではないですよね。なぜ、古代史研究会に入る理由になるんですか?」
金次郎が絶妙なつっこみを入れた。
「うっ……まあ、細かいことは気にしないでくれ。とにかく、古代史も戦国時代も好きで、誰よりも武田信玄公を尊敬してるんだよ」
二人のやり取りを聞いて小町が笑っている。
「あなたたち、いいコンビね。じゃあ、私も改めて自己紹介するわ。姫野小町、出身は秋田県よ」
「秋田県ですか、まさに秋田美人ですね。名前も世界三大美女の一人の小野小町と同じとは。茨城県にはこんなに美しい人はいませんでしたよ」
「金次郎君、ほめ過ぎよ。あなたが好きなのは伊代ちゃんでしょ?」
「はい……いや、そんなことはありません!」
金次郎がむきになって否定する。
「じゃあ、最後は私が。古代史研究会元部長で現在はこの大学の講師をしている
藤原の話が終わると、伊代が楽しそうに笑いだした。
「伊代君、やっぱり私が江戸っ子っておかしいかい?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、先生の話し方がなんとなく面白くて……」
「僕の話し方が面白いって……伊代君、君は不思議な子だね」
二人のやりとりを聞いて、みんなが笑い出した。
「それじゃあ、せっかくだし簡単にこのサークルの活動紹介をしよう。弥生君、お願いしていいかい?」
「えっ、部長の信二がやるのが普通だと思うけど……わかりました」
弥生が新入生の二人を見る。
「このサークルでは、基本的に、毎月テーマを決めてそれぞれがそのテーマに関して資料や文献などを調べてきてそれを発表する、そしてみんなで議論する、ということをやっています」
「けっこう本格的なんですね。みなさん全員が毎回調べてくるんですか?」
金次郎が尋ねる。
「去年の終わり頃からは、小町先輩はたまにしか来なかったから、毎回私と信二が調べてきたものを発表して、先生がコメントするって形になってたわね」
「まあ、私もいろいろ忙しくて。でも、たまに来て先生やあなたたちと議論するのは楽しかったわよ」
「先生、普段はやさしいけど、古代史の勉強に関しては厳しいからなあ。俺なんて調べ方が甘いって毎回言われてたよ」
「でも、信二君も弥生君も、一年間でだいぶしっかりした調査や発表ができるようになったよ」
「本当ですか!」
藤原の言葉を聞いた信二と弥生が笑顔を浮かべる。
「資料や文献を調べて議論するのも楽しかったけど、やっぱり俺は遺跡の発掘現場に行ったのが一番楽しかったな」
「発掘現場にも行くんですか?」
伊代がうれしそうに声を上げた。
「そうよ。去年は、先生が参加している発掘現場に、私たちも何回か連れていってもらったのよ。専門家の人もたくさん参加していたのよ」
弥生が楽しそうに説明した。
「発掘自体は地味な作業なんだけど、何かすごいものが出てくるんじゃないかってドキドキ感がたまらなかったな」
「信二なんて、土器のかけらを見つけたら、子どものように走り回っていたのよ」
弥生が信二をからかうように言うと、
「そういうお前も、ただのガラスの破片を古代のアクセサリーだとか言って、はしゃいでたよな」
信二が負けじと言い返す。
「弥生先輩がはしゃいでたんですか? そんな勘違いで……あ、すいません」
「まあ、あの時は私も興奮してて……」
弥生の顔が真っ赤になった。
「先生、今年も発掘作業に俺たちも参加させてもらえるんですよね」
「もちろん、今年も何回か予定しているよ。そのときは新入生の二人にも行ってもらうよ」
「はい。私も行きたいです」
「僕もぜひ参加させてください」
二人はうれしそうな顔を浮かべて、元気よく返事をした。