第35話 卑弥呼の力
文字数 2,515文字
「呪術で人の心を意のままに操る?」
「そんなことが本当にできるんですか?」
「でも、それができれば、権力者の心を操って国を意のままに動かす、ということも可能ね」
弥生がうなずく。
「おい。卑弥呼の前に誰かが連れてこられたぞ」
「私たち以外にここに来た外部の人間がいるのかしら?」
「四人いますね。あっ!」
金次郎が声を上げた。金次郎の声を聞いて、建物の前に立っていた見張りがちらっと中を見た。金次郎が慌てて口を押えた。
「あいつらです。文化財保存推進協会チームの四人です」
金次郎がひそひそ声で話す。
「何だって?」
信二と弥生もびっくりして、思わず声を上げてしまった。見張りが三人を睨む。
「確かに、あいつらも私たちと同じように洞窟内にいたから、流されてここにたどり着いたのかもしれないわ」
三人はひそひそ声で話しながら、外をじっと見ていた。
卑弥呼の前に連れてこられた四人は、梨目に跪くように命令された。四人は言われたとおりにする。
「この四人が城柵の影からこちらを見ていたので捕らえました」
梨目が卑弥呼に説明する。
「お前たちはここで何をしていた? 正直に話せ。もし、嘘をついたら……」
梨目の合図で、四人の後ろにいた邪馬台国の護衛たちが刀を四人の首筋に当てた。首筋に刀の冷たさを感じた四人は冷や汗をかいた。
「さあ、説明しろ!」
梨目が強い口調で言うと、リーダーの石川が口を開く。
「それは……我々はここで、邪馬台国と卑弥呼様を復活させました!」
石川の言葉に梨目が反応した。
「何? では、お前らが邪馬台国を探しだして、卑弥呼様を復活させてくれたのか?」
「そのとおりでございます」
石川はへりくだった丁寧な態度で話を続ける。
「私たちは、邪馬台国を復活させるために必要な道具を集めてこの洞窟に入りました」
梨目がうなずく。
「しかし、途中で、それを邪魔する者たちに出会って、あやうく道具を奪われそうになりました」
「邪魔する者? それはさっき建物に閉じ込めた三人のことか?」
「三人?」
梨目の言葉を聞いて、石川は少し考えた。
建物に閉じ込めた者がいる、ということは、やはりあの古代史研究会チームの奴らもここにたどり着いたってことか。
ということは、卑弥呼を復活させたのはあいつらか。
でも、三人って言ってたな。あいつらは四人だったはず。あと一人は別の場所にでも流されちまったのか?
「どうした? 何を黙ってるんだ!」
梨目の言葉で石川はハッとした。
まあいい。これでだいたい話はわかった。
「はい。おそらく我々を邪魔したのはその三人です。そいつらが道具を奪おうとしたのを、我々はなんとか死守してここにやって来ました。そして、卑弥呼様を復活させました」
石川は平然と嘘をついてそう話すと、他の三人とともに卑弥呼に頭を下げた。
「そうかお前たちが私を復活させてくれたのか。礼を言うぞ」
卑弥呼が四人を見る。
「とんでもございません」
石川が丁寧に答える。
その様子を見ていた古代史研究会チームの三人は怒りの表情を露わにする。
「あいつら。適当なこと言いやがって!」
「卑弥呼を復活させたのは僕たちですよ」
「全く逆じゃないのよ」
今の石川の話を聞いていた見張りが、振り返って三人を睨んだ。まるで、「お前たちが卑弥呼様の復活を邪魔したのか」とでも言いたそうな顔をしている。
「いや、だから違うんだって」
信二がため息をつく。
三人はこの場から逃げ出したくなった。
「卑弥呼様、復活おめでとうございます」
石川がうやうやしく卑弥呼に頭を下げる。
「それで、よろしければ、卑弥呼様を復活させていただいた我々に、何といいますか、何かご褒美をいただけるとありがたいのですが……」
「何が欲しい?」
卑弥呼が訊き返してきたので、石川はドキドキしながら答える。
「あ、いや、そんな立派なものでなくていいんです。邪馬台国を復活させた記念に何か、例えば、銅矛とか、銅鏡とか、勾玉とか、砂金なんかを少々いただければと……」
石川が手を擦りながら言う。
「いいだろう、そのくらいはくれてやろう」
卑弥呼はあっさりと答える。
四人は心の中で「やった」と叫んだ。
「ただし……」
と言って、卑弥呼は四人はじっと見る。
「お前たちはいろいろと役に立つようだ。しばらく私を手伝ってもらおう。褒美はその後でいいな」
石川は心の中で「チッ」と舌打ちをした。
こんな茶番にまた付き合わなければならないのか。
何が倭国復活だよ。今の日本でそんなことができるわけないだろ。この集団が外で暴れ回ったら警察に捕まってそれで終わりだよ。
その前にお宝だけいただいて、さっさとこんなところは離れようと思っていたのに。
まあ仕方ない。あと少しだけ付き合ってやるか。
「わかりました。我々も倭国統一に全力を尽くします」
石川が卑弥呼に頭を下げて、うやうやしく返事をする。
次の瞬間、卑弥呼は突然四人に向かって何かをつぶやき始めた。それはまるで呪文のようなものを唱えているようだった。
すると、突然、四人が頭を抑えて苦しみ始めた。
しばらくして、卑弥呼が呪文を唱え終えると、四人の目つきや雰囲気がそれまでとは全く違った様子に変化していた。
「卑弥呼様。我々も卑弥呼様に忠誠を誓います。何なりとお申し付けください」
四人は卑弥呼に向かって深々と頭を下げた。
なんと、四人は卑弥呼の呪術によって操られてしまったようだった。
「おい。あいつらの雰囲気が変わったぞ」
「まるで別人ですね」
「これが、卑弥呼の呪術の力なのかしら……」
建物の中に閉じ込められる三人は、卑弥呼の力で文化財保存推進協会の四人が全くの別人のようになってしまったのを見て驚いた。
「邪馬台国の戦士たちよ。戦闘の準備を始めろ!」
梨目が大声を上げると、それに応えるように、
「おおー!」
群衆が拳を突き上げて雄たけびを上げると、一斉に矛や弓矢を手に取った。
邪馬台国は異常な熱気に包まれていた。
「そんなことが本当にできるんですか?」
「でも、それができれば、権力者の心を操って国を意のままに動かす、ということも可能ね」
弥生がうなずく。
「おい。卑弥呼の前に誰かが連れてこられたぞ」
「私たち以外にここに来た外部の人間がいるのかしら?」
「四人いますね。あっ!」
金次郎が声を上げた。金次郎の声を聞いて、建物の前に立っていた見張りがちらっと中を見た。金次郎が慌てて口を押えた。
「あいつらです。文化財保存推進協会チームの四人です」
金次郎がひそひそ声で話す。
「何だって?」
信二と弥生もびっくりして、思わず声を上げてしまった。見張りが三人を睨む。
「確かに、あいつらも私たちと同じように洞窟内にいたから、流されてここにたどり着いたのかもしれないわ」
三人はひそひそ声で話しながら、外をじっと見ていた。
卑弥呼の前に連れてこられた四人は、梨目に跪くように命令された。四人は言われたとおりにする。
「この四人が城柵の影からこちらを見ていたので捕らえました」
梨目が卑弥呼に説明する。
「お前たちはここで何をしていた? 正直に話せ。もし、嘘をついたら……」
梨目の合図で、四人の後ろにいた邪馬台国の護衛たちが刀を四人の首筋に当てた。首筋に刀の冷たさを感じた四人は冷や汗をかいた。
「さあ、説明しろ!」
梨目が強い口調で言うと、リーダーの石川が口を開く。
「それは……我々はここで、邪馬台国と卑弥呼様を復活させました!」
石川の言葉に梨目が反応した。
「何? では、お前らが邪馬台国を探しだして、卑弥呼様を復活させてくれたのか?」
「そのとおりでございます」
石川はへりくだった丁寧な態度で話を続ける。
「私たちは、邪馬台国を復活させるために必要な道具を集めてこの洞窟に入りました」
梨目がうなずく。
「しかし、途中で、それを邪魔する者たちに出会って、あやうく道具を奪われそうになりました」
「邪魔する者? それはさっき建物に閉じ込めた三人のことか?」
「三人?」
梨目の言葉を聞いて、石川は少し考えた。
建物に閉じ込めた者がいる、ということは、やはりあの古代史研究会チームの奴らもここにたどり着いたってことか。
ということは、卑弥呼を復活させたのはあいつらか。
でも、三人って言ってたな。あいつらは四人だったはず。あと一人は別の場所にでも流されちまったのか?
「どうした? 何を黙ってるんだ!」
梨目の言葉で石川はハッとした。
まあいい。これでだいたい話はわかった。
「はい。おそらく我々を邪魔したのはその三人です。そいつらが道具を奪おうとしたのを、我々はなんとか死守してここにやって来ました。そして、卑弥呼様を復活させました」
石川は平然と嘘をついてそう話すと、他の三人とともに卑弥呼に頭を下げた。
「そうかお前たちが私を復活させてくれたのか。礼を言うぞ」
卑弥呼が四人を見る。
「とんでもございません」
石川が丁寧に答える。
その様子を見ていた古代史研究会チームの三人は怒りの表情を露わにする。
「あいつら。適当なこと言いやがって!」
「卑弥呼を復活させたのは僕たちですよ」
「全く逆じゃないのよ」
今の石川の話を聞いていた見張りが、振り返って三人を睨んだ。まるで、「お前たちが卑弥呼様の復活を邪魔したのか」とでも言いたそうな顔をしている。
「いや、だから違うんだって」
信二がため息をつく。
三人はこの場から逃げ出したくなった。
「卑弥呼様、復活おめでとうございます」
石川がうやうやしく卑弥呼に頭を下げる。
「それで、よろしければ、卑弥呼様を復活させていただいた我々に、何といいますか、何かご褒美をいただけるとありがたいのですが……」
「何が欲しい?」
卑弥呼が訊き返してきたので、石川はドキドキしながら答える。
「あ、いや、そんな立派なものでなくていいんです。邪馬台国を復活させた記念に何か、例えば、銅矛とか、銅鏡とか、勾玉とか、砂金なんかを少々いただければと……」
石川が手を擦りながら言う。
「いいだろう、そのくらいはくれてやろう」
卑弥呼はあっさりと答える。
四人は心の中で「やった」と叫んだ。
「ただし……」
と言って、卑弥呼は四人はじっと見る。
「お前たちはいろいろと役に立つようだ。しばらく私を手伝ってもらおう。褒美はその後でいいな」
石川は心の中で「チッ」と舌打ちをした。
こんな茶番にまた付き合わなければならないのか。
何が倭国復活だよ。今の日本でそんなことができるわけないだろ。この集団が外で暴れ回ったら警察に捕まってそれで終わりだよ。
その前にお宝だけいただいて、さっさとこんなところは離れようと思っていたのに。
まあ仕方ない。あと少しだけ付き合ってやるか。
「わかりました。我々も倭国統一に全力を尽くします」
石川が卑弥呼に頭を下げて、うやうやしく返事をする。
次の瞬間、卑弥呼は突然四人に向かって何かをつぶやき始めた。それはまるで呪文のようなものを唱えているようだった。
すると、突然、四人が頭を抑えて苦しみ始めた。
しばらくして、卑弥呼が呪文を唱え終えると、四人の目つきや雰囲気がそれまでとは全く違った様子に変化していた。
「卑弥呼様。我々も卑弥呼様に忠誠を誓います。何なりとお申し付けください」
四人は卑弥呼に向かって深々と頭を下げた。
なんと、四人は卑弥呼の呪術によって操られてしまったようだった。
「おい。あいつらの雰囲気が変わったぞ」
「まるで別人ですね」
「これが、卑弥呼の呪術の力なのかしら……」
建物の中に閉じ込められる三人は、卑弥呼の力で文化財保存推進協会の四人が全くの別人のようになってしまったのを見て驚いた。
「邪馬台国の戦士たちよ。戦闘の準備を始めろ!」
梨目が大声を上げると、それに応えるように、
「おおー!」
群衆が拳を突き上げて雄たけびを上げると、一斉に矛や弓矢を手に取った。
邪馬台国は異常な熱気に包まれていた。