第13話 到着
文字数 3,242文字
バスが出発して約三時間が過ぎた頃、美馬が参加者に声をかけた。
「みなさん、間もなく目的地に到着します」
眠っていた人が、美馬の声で目を覚ます。
「バスを降りた後は、現地のツアーガイドがみなさんをご案内いたします。長旅お疲れさまでした」
それから数分後にバスが停まる。
参加者は美馬の指示で順番にバスから降りる。
バスから降りた参加者は、まずは辺りの景色を見渡した。
そこはどこかの山の中のようだった。近くには十台ぐらいのバスが停まっている。他の地域から来た参加者のバスのようだ。
バスを降りた古代史研究会チームの四人も周囲を見る。
「山の中だな。これじゃあ、ここが何県のどこの場所かなんてはわからないなあ」
信二がつぶやく。
「最後のほうはバスがかなりガタガタ揺れたわね。かなりの山奥かも」
弥生もここがどこか考えている。
「バスがいっぱい停まっています。参加者も多いみたいですね」
金次郎が近くに停まっているバスを見つけた。
「向こう側にたくさんの人がいますよ」
伊代が少し離れた場所を指さした。
伊代が指さした方向を見ると、山の中に広場になっているような場所があった。そこには数多くのテントが張ってあって、たくさんの人が動き回っていた。
その光景は、まるで屋外で開催するイベントの会場のようだ。よく見ると、全員が古代人のような格好をしているように見える。
「はっきりとは見えないけど、あの服装って『魏志倭人伝』に書いてある倭国の人たちの格好じゃない?」
弥生は広場にいる人の服装をじっと見ている。
「『邪馬台国ツアーへようこそ!』の垂れ幕もあるな。あれがイベント会場ってわけか」
信二が言った。
そして、広場の先には湖のような大きな池が広がっていた。
参加者が、広場のほうを見ながらがやがやしていると、ツアーガイドの一人が拡声器を手にして話し始めた。
「みなさん、邪馬台国ツアーへようこそ! 私はヒストリートラベルの梨目といいます。よろしくお願いします」
梨目は、イベント会場にいる人と同じように古代人のような衣装を着ていた。
梨目の声を聞いて、参加者たちがその近くに集まってくる。
「邪馬台国ツアーのメインイベントである宝探しを開始する前に、これからツアーのルールを説明いたします」
梨目は参加者が自分のことを見ているのを確認したうえで、手に持っていた拡声器を地面においた。
そして、急に真剣な顔つきをして大声で話し始めた。
「みなさん、この広大な敷地に邪馬台国があります!」
その瞬間、その場がシーンとなった。
梨目の言葉を聞いた参加者の反応はいまいちだった。
邪馬台国という言葉に「おっ!」と反応した者も何人かいたが、ほとんどの人は「は?」というような顔をしている。
そんな参加者の反応は気にせずに、梨目はオーバーな身振り手振りを交えながら話を続ける。
「みなさんには、この敷地のどこかにある邪馬台国を探してもらいます」
参加者は口を開けてぽかんとしている。梨目は参加者の反応など全く気にしていない。完全に邪馬台国の案内人になりきっている。
「邪馬台国の場所は『魏志倭人伝』を手がかりにして探してください。といっても、それだけでは何のことかわからないと思いますので、ひとつだけヒントをお教えします」
梨目はもったいぶったように咳ばらいをする。
「あそこの広場にイベント会場があります」
と言って、イベント会場を指さす。
「あそこのイベント会場が『魏志倭人伝』に書かれている狗邪韓国 になります!」
「狗邪韓国……」
参加者が口々につぶやいた。
「狗邪韓国というと、『魏志倭人伝』では、スタート地点である帯方郡 を出発してから最初に到着する国ね。場所は朝鮮半島南端部にあったとされているわ」
弥生がうなずきながら言う。
「帯方郡、狗邪韓国、対馬 国、一支 国、末盧 国、伊都 国、奴 国、不弥 国、投馬 国、邪馬台国」
金次郎が、勉強会で覚えた邪馬台国へのルートを口ずさんだ。他の三人も笑いながら、呪文のように同じ言葉を口にした。
「つまり、あそこのイベント会場が狗邪韓国で、宝探しのスタート地点ってわけね」
弥生の目が輝いている。
最初は梨目の話しぶりにあっけに取られていた参加者たちも、だんだん話がわかってきたようで、なるほどとうなずいている。
「この敷地の中が『魏志倭人伝』に書かれている場所で、『魏志倭人伝』に書かれたルートに沿って進んでいくと邪馬台国がある、ってことか?」
信二の言葉に他の三人がうなずいた。
信二の声が聞こえたらしく、梨目が答えた。
「そのとおりです。さすが古代史に詳しいみなさん、理解が早い。みなさんには邪馬台国を見つけ出していただきますが、それだけではありません」
梨目がいったん話を切って、参加者を見回す。
「邪馬台国に至るまでのルートのどこかに、邪馬台国に関係するいくつかの重要な道具があります。それも探していただきます」
「重要な道具って何ですか?」
参加者の一人が訊き返す。
「それは秘密です。みなさんで考えながら探し出してください。その道具がいくつあるのかも秘密です」
何の道具かもわからずに、しかも数もわからないんじゃ探しようがないよ、といった声があちこちから聞こえてくる
「邪馬台国に関係する道具なのは間違いありません。このツアーに参加しているみなさんならきっとわかると思います。よく考えて探してください。そして、ここからが肝心です」
梨目は少し間を置いたあとで、今まで以上に声を大きくする。
「邪馬台国にたどり着いて、そこで発見した道具をかざすと……邪馬台国が復活します!」
梨目の話に慣れてきた参加者ではあったが、さすがにこの言葉を聞いて再び「は?」という表情をした。
「見事に邪馬台国を発見し、邪馬台国を復活させたチームが優勝となり、優勝賞品の世界一周古代遺跡ツアーが贈られます!」
梨目の話はいったんそこで終わった。梨目の雰囲気に圧倒された参加者たちも、最後にはなぜか少し感動した様子で、拍手を送っている。
梨目が再び拡声器を手にして話し始めた。
「以上がツアーの概要になります。それと……」
オーバーな話し方は終わって、梨目は普通のツアーガイドの口調に戻っていた。
「ここの敷地の範囲ですが、敷地の境界には目印の杭が打ってありますので、そこから外へは出ないでください。外に出ると迷子になってしまい、我々スタッフも見つけることができなくなってしまいます」
参加者は辺りを見て、敷地の境界に杭が打ってあるのを確認した。
「それと、イベント会場の向こうに広がる池の前には手漕ぎのボートが用意してあります。あのボートを使って池を進んでください」
池の前には手漕ぎボートが並べられている。
「つまり、あの池が朝鮮半島と日本列島の間の海ってことですね」
伊代が言うと、
「そうみたいね」
と弥生がうなずく。
「あのボートに乗って進むんだな。ボートを漕ぐのは俺と金次郎に任せとけ。金次郎やるぞ!」
「はい。体力には自信があります」
信二と金次郎は目を合わせて力強くうなずく。
梨目はひと通りの説明を終えると、拡声器を別のツアーガイドの女性に渡した。
ここからは拡声器を受け取った女性が説明する。
「みなさん、イベント会場には、邪馬台国に関するグッズを売っているお店や飲食店がたくさんあります。みなさんの冒険にきっと役に立つアイテムもありますよ」
イベント会場には、たくさんの店が並んでいる。
「ここでしっかりと冒険の準備をしてから出発しましょう」
女性が説明を終えると、梨目がスタートの合図を告げた。
「それでは、これから邪馬台国ツアーを開始します!」
「みなさん、間もなく目的地に到着します」
眠っていた人が、美馬の声で目を覚ます。
「バスを降りた後は、現地のツアーガイドがみなさんをご案内いたします。長旅お疲れさまでした」
それから数分後にバスが停まる。
参加者は美馬の指示で順番にバスから降りる。
バスから降りた参加者は、まずは辺りの景色を見渡した。
そこはどこかの山の中のようだった。近くには十台ぐらいのバスが停まっている。他の地域から来た参加者のバスのようだ。
バスを降りた古代史研究会チームの四人も周囲を見る。
「山の中だな。これじゃあ、ここが何県のどこの場所かなんてはわからないなあ」
信二がつぶやく。
「最後のほうはバスがかなりガタガタ揺れたわね。かなりの山奥かも」
弥生もここがどこか考えている。
「バスがいっぱい停まっています。参加者も多いみたいですね」
金次郎が近くに停まっているバスを見つけた。
「向こう側にたくさんの人がいますよ」
伊代が少し離れた場所を指さした。
伊代が指さした方向を見ると、山の中に広場になっているような場所があった。そこには数多くのテントが張ってあって、たくさんの人が動き回っていた。
その光景は、まるで屋外で開催するイベントの会場のようだ。よく見ると、全員が古代人のような格好をしているように見える。
「はっきりとは見えないけど、あの服装って『魏志倭人伝』に書いてある倭国の人たちの格好じゃない?」
弥生は広場にいる人の服装をじっと見ている。
「『邪馬台国ツアーへようこそ!』の垂れ幕もあるな。あれがイベント会場ってわけか」
信二が言った。
そして、広場の先には湖のような大きな池が広がっていた。
参加者が、広場のほうを見ながらがやがやしていると、ツアーガイドの一人が拡声器を手にして話し始めた。
「みなさん、邪馬台国ツアーへようこそ! 私はヒストリートラベルの梨目といいます。よろしくお願いします」
梨目は、イベント会場にいる人と同じように古代人のような衣装を着ていた。
梨目の声を聞いて、参加者たちがその近くに集まってくる。
「邪馬台国ツアーのメインイベントである宝探しを開始する前に、これからツアーのルールを説明いたします」
梨目は参加者が自分のことを見ているのを確認したうえで、手に持っていた拡声器を地面においた。
そして、急に真剣な顔つきをして大声で話し始めた。
「みなさん、この広大な敷地に邪馬台国があります!」
その瞬間、その場がシーンとなった。
梨目の言葉を聞いた参加者の反応はいまいちだった。
邪馬台国という言葉に「おっ!」と反応した者も何人かいたが、ほとんどの人は「は?」というような顔をしている。
そんな参加者の反応は気にせずに、梨目はオーバーな身振り手振りを交えながら話を続ける。
「みなさんには、この敷地のどこかにある邪馬台国を探してもらいます」
参加者は口を開けてぽかんとしている。梨目は参加者の反応など全く気にしていない。完全に邪馬台国の案内人になりきっている。
「邪馬台国の場所は『魏志倭人伝』を手がかりにして探してください。といっても、それだけでは何のことかわからないと思いますので、ひとつだけヒントをお教えします」
梨目はもったいぶったように咳ばらいをする。
「あそこの広場にイベント会場があります」
と言って、イベント会場を指さす。
「あそこのイベント会場が『魏志倭人伝』に書かれている
「狗邪韓国……」
参加者が口々につぶやいた。
「狗邪韓国というと、『魏志倭人伝』では、スタート地点である
弥生がうなずきながら言う。
「帯方郡、狗邪韓国、
金次郎が、勉強会で覚えた邪馬台国へのルートを口ずさんだ。他の三人も笑いながら、呪文のように同じ言葉を口にした。
「つまり、あそこのイベント会場が狗邪韓国で、宝探しのスタート地点ってわけね」
弥生の目が輝いている。
最初は梨目の話しぶりにあっけに取られていた参加者たちも、だんだん話がわかってきたようで、なるほどとうなずいている。
「この敷地の中が『魏志倭人伝』に書かれている場所で、『魏志倭人伝』に書かれたルートに沿って進んでいくと邪馬台国がある、ってことか?」
信二の言葉に他の三人がうなずいた。
信二の声が聞こえたらしく、梨目が答えた。
「そのとおりです。さすが古代史に詳しいみなさん、理解が早い。みなさんには邪馬台国を見つけ出していただきますが、それだけではありません」
梨目がいったん話を切って、参加者を見回す。
「邪馬台国に至るまでのルートのどこかに、邪馬台国に関係するいくつかの重要な道具があります。それも探していただきます」
「重要な道具って何ですか?」
参加者の一人が訊き返す。
「それは秘密です。みなさんで考えながら探し出してください。その道具がいくつあるのかも秘密です」
何の道具かもわからずに、しかも数もわからないんじゃ探しようがないよ、といった声があちこちから聞こえてくる
「邪馬台国に関係する道具なのは間違いありません。このツアーに参加しているみなさんならきっとわかると思います。よく考えて探してください。そして、ここからが肝心です」
梨目は少し間を置いたあとで、今まで以上に声を大きくする。
「邪馬台国にたどり着いて、そこで発見した道具をかざすと……邪馬台国が復活します!」
梨目の話に慣れてきた参加者ではあったが、さすがにこの言葉を聞いて再び「は?」という表情をした。
「見事に邪馬台国を発見し、邪馬台国を復活させたチームが優勝となり、優勝賞品の世界一周古代遺跡ツアーが贈られます!」
梨目の話はいったんそこで終わった。梨目の雰囲気に圧倒された参加者たちも、最後にはなぜか少し感動した様子で、拍手を送っている。
梨目が再び拡声器を手にして話し始めた。
「以上がツアーの概要になります。それと……」
オーバーな話し方は終わって、梨目は普通のツアーガイドの口調に戻っていた。
「ここの敷地の範囲ですが、敷地の境界には目印の杭が打ってありますので、そこから外へは出ないでください。外に出ると迷子になってしまい、我々スタッフも見つけることができなくなってしまいます」
参加者は辺りを見て、敷地の境界に杭が打ってあるのを確認した。
「それと、イベント会場の向こうに広がる池の前には手漕ぎのボートが用意してあります。あのボートを使って池を進んでください」
池の前には手漕ぎボートが並べられている。
「つまり、あの池が朝鮮半島と日本列島の間の海ってことですね」
伊代が言うと、
「そうみたいね」
と弥生がうなずく。
「あのボートに乗って進むんだな。ボートを漕ぐのは俺と金次郎に任せとけ。金次郎やるぞ!」
「はい。体力には自信があります」
信二と金次郎は目を合わせて力強くうなずく。
梨目はひと通りの説明を終えると、拡声器を別のツアーガイドの女性に渡した。
ここからは拡声器を受け取った女性が説明する。
「みなさん、イベント会場には、邪馬台国に関するグッズを売っているお店や飲食店がたくさんあります。みなさんの冒険にきっと役に立つアイテムもありますよ」
イベント会場には、たくさんの店が並んでいる。
「ここでしっかりと冒険の準備をしてから出発しましょう」
女性が説明を終えると、梨目がスタートの合図を告げた。
「それでは、これから邪馬台国ツアーを開始します!」