第19話 樹海へ挑む
文字数 2,848文字
そのまましばらく歩いていくと、急に目の前に、樹木がうっそうと生い茂っている森が現れた。まるでジャングルのようだ。
「ここを入っていくのか……」
「気を付けないと、迷って出られなくなりそうね」
目の前に広がるジャングルのような森を見ながら、信二と弥生が考えている。
「向こうに別のチームの人がいますよ」
金次郎が、少し離れたところにツアーの参加者と思われる人がいるのを見つけた。四人はそこに行ってみる。
そこには三、四チームの参加者たちがいた。全員が疲れ切った表情をしている。
「どうしたんですか? すごく疲れてるみたいですけど」
弥生が尋ねると、あるチームの参加者が答える。
「僕たちはこの中に入っていったんですが、道もなくて、樹木も多くて、本当のジャングルみたいだったんです」
「慎重に進んだはずなのに途中で道に迷ってしまって、しばらくこの中を歩き回ったんです。なんとかここに戻ることができましたが……」
別のチームの参加者も答えてくれた。
「私たちも同じよ。目印を見つけながら進んだはずが、どこにいるかわからなくなっちゃって」
「あまり先に行ってなかったからなんとかここに戻れたけど、もっと進んでいたら確実に迷子になっていたわ」
さらに別のチームの参加者も同じようなことを話す。
「中に入って少しすると、どんなに気を付けてもいつの間にか迷ってしまうんだ」
「ここにはスタッフの人もいないみたいだし、奥に行ったら出てこられなくなる。僕たちは先に行くのはあきらめて、もう引き返すことにしたよ。君たちもここに入るのはやめたほうがいいよ」
実際に引き返し始めているチームもいた。
「何かこの先はすごいところみたいですね」
金次郎が緊張した顔を浮かべる。
「いつの間にか迷ってしまうか。富士の樹海みたいなところなのかな?」
信二が森の先を見つめて、
「どうする?」
と他の三人に訊いた。
「無理はするなって先生には言われたけど……」
弥生は悩んでいる。
「でも、この先に邪馬台国があるんですよね」
伊代が前を見つけながら言うと、
「確かに、ここまで来て引き返すのもなんですし……」
金次郎もじっと前を見つめている。
腕を組んで悩んでいた信二が「よし」とつぶやいて三人に声をかける。
「ここまで来たんだ。中に入って進んでみよう。ただし、絶対に無理はしちゃダメだ。危ないあるいは迷っていると感じたらすぐに引き返すぞ」
信二の言葉に三人はうなずく。
四人はゆっくりと、そして慎重に森の中に入っていった。
森の中は樹木が生い茂っていた。とにかく行く先々に樹木やその枝、蔓、倒木などが密集していた。
四人は何度も後ろを振り返って入ってきた場所を確認しながら、慎重に進んでいった。
しかし、少し進んだだけで、いつの間にか入ってきた場所は見えなくなっていた。
「これはすぐに迷ってしまうのもわかるな。みんな絶対離れるなよ」
先頭を歩く信二が声をかける。
「あっ!」
弥生が急に声を上げた。みんなが弥生のほうを見る。
「方位磁石を見て! あちこちに針が動いて壊れたみたいになっているの」
弥生が持っている方位磁石を見せると、三人も驚いた。
「これってやばいんじゃないですか」
金次郎が慌てている。
「やっぱり富士の樹海みたいなところなんだな、ここは」
「どういうことです?」
金次郎が恐る恐る訊く。
「富士の樹海も方位磁石が正確に機能しなくなるらしいんだ。何でもそこにある岩石が原因だなんて話を聞いたことがあるな」
「とにかく、あの富士の樹海と同じってことはかなりまずいんじゃないですか」
四人はそこで立ち止まって考えた。
「この場所はわかりにくいわ。もう少しだけ先に進んでみましょう。目標になるような物がある場所に着いたら少し考えましょう」
弥生の提案で四人はさらに先に進んでみることにした。
ところが……
「あれ、ここさっき通りませんでした?」
「本当だ。引き返してみよう」
後ろのほうに戻ってみると、
「あれ、こんなところ通ったかしら?」
「通っていないと思います」
「少し左に行ってみるか」
左に進んでみると…
「ここ通りましたよね」
「いや、そんなことはないんじゃない?」
四人は顔を見合わせた。
「俺たち、迷ったんじゃないか」
「その可能性は高いわね」
「僕、もうどこを歩いているかわかりません」
「私は自分が迷っているのはわかります」
四人は道に迷ってしまった……
道に迷った四人は、立ち止まってどうするか考えた。
信二は頭を整理して、周りの景色と自分が通ってきた記憶を思い出そうとしていた。
弥生は方位磁石を見たり、目印になるような特徴のある植物がなかったか探している。
金次郎は自分たちが通ってきた道の足跡を調べている。
そして、伊代は……あたりをキョロキョロ見ていた。すると、ふと近くから動物の鳴き声が聞こえた。鳴き声のする場所に行ってみると、そこには一匹の猿がいた。
伊代は猿に近づいてみた。猿は伊代を威嚇することも、そこから逃げることもなかった。伊代が不思議に思って猿をよく見た。猿は右足を怪我しているみたいで、それが原因で歩けないようだった。
かわいそうに思った伊代は、救急セットを出して猿の右足を治療してあげた。猿は歩けるようになった。すると、猿はまるで伊代にお礼を言っているかのように頭を下げた。
「猿くん、よかったね。足が治って」
伊代が猿に向かって微笑む。
「君はどこから来たの? 私たちここで迷子になっちゃったんだけど」
猿は、まるで伊代の言葉を理解しているかのようにうなずきながら話を聞いている。
すると、話を聞いた猿がいきなり、「俺にまかせろ」と言わんばかりに胸を叩いた。
伊代が誰かと話をしているのを聞いて、伊代のそばに三人がやってきた。
三人は、伊代の話していた相手が猿だと知ってびっくりした。
猿は、「俺についてこい」と言っているかのようなしぐさをして、歩き始めた。
「猿さんが、このジャングルを抜ける道を教えてくれるみたいですよ。ついていきましょう」
三人は口を開けてポカンとしている。
伊代が猿について歩き始めたので、三人も慌ててついていった。
そのまましばらく猿について歩いていると、なんと四人は森の中を抜けることができた。
「あの複雑な森を抜けたのか?」
信二が信じられないといった表情をしている。
「あんなに迷ったのに」
金次郎も驚いている。
「この猿のおかげね。『魏志倭人伝』にも倭国には猿がいたって書いてあるから、この猿もその末裔なのかしら」
弥生は不思議そうに猿を見ている。
「猿さん、ありがとう!」
伊代は、笑顔で猿にお礼を言った。
猿は得意そうな顔をして、その場を去っていった。
ようやく迷路のような森を抜けた四人は、前方をじっと見た。
「ここを入っていくのか……」
「気を付けないと、迷って出られなくなりそうね」
目の前に広がるジャングルのような森を見ながら、信二と弥生が考えている。
「向こうに別のチームの人がいますよ」
金次郎が、少し離れたところにツアーの参加者と思われる人がいるのを見つけた。四人はそこに行ってみる。
そこには三、四チームの参加者たちがいた。全員が疲れ切った表情をしている。
「どうしたんですか? すごく疲れてるみたいですけど」
弥生が尋ねると、あるチームの参加者が答える。
「僕たちはこの中に入っていったんですが、道もなくて、樹木も多くて、本当のジャングルみたいだったんです」
「慎重に進んだはずなのに途中で道に迷ってしまって、しばらくこの中を歩き回ったんです。なんとかここに戻ることができましたが……」
別のチームの参加者も答えてくれた。
「私たちも同じよ。目印を見つけながら進んだはずが、どこにいるかわからなくなっちゃって」
「あまり先に行ってなかったからなんとかここに戻れたけど、もっと進んでいたら確実に迷子になっていたわ」
さらに別のチームの参加者も同じようなことを話す。
「中に入って少しすると、どんなに気を付けてもいつの間にか迷ってしまうんだ」
「ここにはスタッフの人もいないみたいだし、奥に行ったら出てこられなくなる。僕たちは先に行くのはあきらめて、もう引き返すことにしたよ。君たちもここに入るのはやめたほうがいいよ」
実際に引き返し始めているチームもいた。
「何かこの先はすごいところみたいですね」
金次郎が緊張した顔を浮かべる。
「いつの間にか迷ってしまうか。富士の樹海みたいなところなのかな?」
信二が森の先を見つめて、
「どうする?」
と他の三人に訊いた。
「無理はするなって先生には言われたけど……」
弥生は悩んでいる。
「でも、この先に邪馬台国があるんですよね」
伊代が前を見つけながら言うと、
「確かに、ここまで来て引き返すのもなんですし……」
金次郎もじっと前を見つめている。
腕を組んで悩んでいた信二が「よし」とつぶやいて三人に声をかける。
「ここまで来たんだ。中に入って進んでみよう。ただし、絶対に無理はしちゃダメだ。危ないあるいは迷っていると感じたらすぐに引き返すぞ」
信二の言葉に三人はうなずく。
四人はゆっくりと、そして慎重に森の中に入っていった。
森の中は樹木が生い茂っていた。とにかく行く先々に樹木やその枝、蔓、倒木などが密集していた。
四人は何度も後ろを振り返って入ってきた場所を確認しながら、慎重に進んでいった。
しかし、少し進んだだけで、いつの間にか入ってきた場所は見えなくなっていた。
「これはすぐに迷ってしまうのもわかるな。みんな絶対離れるなよ」
先頭を歩く信二が声をかける。
「あっ!」
弥生が急に声を上げた。みんなが弥生のほうを見る。
「方位磁石を見て! あちこちに針が動いて壊れたみたいになっているの」
弥生が持っている方位磁石を見せると、三人も驚いた。
「これってやばいんじゃないですか」
金次郎が慌てている。
「やっぱり富士の樹海みたいなところなんだな、ここは」
「どういうことです?」
金次郎が恐る恐る訊く。
「富士の樹海も方位磁石が正確に機能しなくなるらしいんだ。何でもそこにある岩石が原因だなんて話を聞いたことがあるな」
「とにかく、あの富士の樹海と同じってことはかなりまずいんじゃないですか」
四人はそこで立ち止まって考えた。
「この場所はわかりにくいわ。もう少しだけ先に進んでみましょう。目標になるような物がある場所に着いたら少し考えましょう」
弥生の提案で四人はさらに先に進んでみることにした。
ところが……
「あれ、ここさっき通りませんでした?」
「本当だ。引き返してみよう」
後ろのほうに戻ってみると、
「あれ、こんなところ通ったかしら?」
「通っていないと思います」
「少し左に行ってみるか」
左に進んでみると…
「ここ通りましたよね」
「いや、そんなことはないんじゃない?」
四人は顔を見合わせた。
「俺たち、迷ったんじゃないか」
「その可能性は高いわね」
「僕、もうどこを歩いているかわかりません」
「私は自分が迷っているのはわかります」
四人は道に迷ってしまった……
道に迷った四人は、立ち止まってどうするか考えた。
信二は頭を整理して、周りの景色と自分が通ってきた記憶を思い出そうとしていた。
弥生は方位磁石を見たり、目印になるような特徴のある植物がなかったか探している。
金次郎は自分たちが通ってきた道の足跡を調べている。
そして、伊代は……あたりをキョロキョロ見ていた。すると、ふと近くから動物の鳴き声が聞こえた。鳴き声のする場所に行ってみると、そこには一匹の猿がいた。
伊代は猿に近づいてみた。猿は伊代を威嚇することも、そこから逃げることもなかった。伊代が不思議に思って猿をよく見た。猿は右足を怪我しているみたいで、それが原因で歩けないようだった。
かわいそうに思った伊代は、救急セットを出して猿の右足を治療してあげた。猿は歩けるようになった。すると、猿はまるで伊代にお礼を言っているかのように頭を下げた。
「猿くん、よかったね。足が治って」
伊代が猿に向かって微笑む。
「君はどこから来たの? 私たちここで迷子になっちゃったんだけど」
猿は、まるで伊代の言葉を理解しているかのようにうなずきながら話を聞いている。
すると、話を聞いた猿がいきなり、「俺にまかせろ」と言わんばかりに胸を叩いた。
伊代が誰かと話をしているのを聞いて、伊代のそばに三人がやってきた。
三人は、伊代の話していた相手が猿だと知ってびっくりした。
猿は、「俺についてこい」と言っているかのようなしぐさをして、歩き始めた。
「猿さんが、このジャングルを抜ける道を教えてくれるみたいですよ。ついていきましょう」
三人は口を開けてポカンとしている。
伊代が猿について歩き始めたので、三人も慌ててついていった。
そのまましばらく猿について歩いていると、なんと四人は森の中を抜けることができた。
「あの複雑な森を抜けたのか?」
信二が信じられないといった表情をしている。
「あんなに迷ったのに」
金次郎も驚いている。
「この猿のおかげね。『魏志倭人伝』にも倭国には猿がいたって書いてあるから、この猿もその末裔なのかしら」
弥生は不思議そうに猿を見ている。
「猿さん、ありがとう!」
伊代は、笑顔で猿にお礼を言った。
猿は得意そうな顔をして、その場を去っていった。
ようやく迷路のような森を抜けた四人は、前方をじっと見た。