第41話 思わぬ再会
文字数 2,925文字
古代史研究会のメンバーは迷路のような森やその先の集落跡も抜けて、藤原と小町が乗ってきたモーターボートの前まで来ていた。
藤原はここで小町と信二を待つことにした。
伊代はまだ気を失ったままだった。
「伊代ちゃん、大丈夫?」
弥生が伊代に声をかけたが、返事はなかった。
「先生。伊代ちゃん、いや、卑弥呼は鏡を見たらなぜ気を失ってしまったんでしょうか?」
藤原が少し間を置いてから答える。
「あの環濠集落には鏡が二枚あったんだ」
「二枚?」
「ああ。ひとつは主祭殿にあったもの」
「僕たちが手に入れたものですね」
金次郎の言葉に藤原がうなずく。
「君たちが手に入れた鏡が卑弥呼を復活させるのに必要なものだったんだ。他に二つの道具とこの勾玉も必要だったみたいだけどね」
藤原は伊代の首にかけられている勾玉のネックレスを見る。
「そして、もうひとつの鏡は、あそこの環濠集落の支配者の住居、おそらくその中の寝室と思われる場所にあったんだ。これが反対に卑弥呼を封じ込めるのに必要なものだったんだよ」
「ひとつが復活のためのもので、もうひとつは封じ込めるためのもの……」
弥生が藤原の言葉を繰り返しす。
「もちろん、科学的にはこんなことは説明がつかない。でも、古代から鏡は神聖で特別なものとされていた。昔から、鏡には不思議な力が宿っていると考えられていたんだよ」
「ということは、復活した卑弥呼は封じ込められて、もういなくなったということでしょうか?」
金次郎が尋ねる。
「そうだと思う。だからこそ、伊代君は気を失って、それ以降卑弥呼は出てこないんだと思う」
「でも、邪馬台国に集まってきた人たちは、まだ卑弥呼が復活する前の状態には戻ってないみたいですよね。私たちを追いかけて来てますし」
弥生が心配そうな顔をする。
「そうだね。卑弥呼が復活したから、彼らにも昔の邪馬台国の人たちが乗り移った。卑弥呼がいなくなったら、彼らも元に戻ってもいいはずなんだが……」
藤原が首をかしげる。
「ひょっとして、卑弥呼はまだ封じ込められていないとか?」
金次郎の言葉に藤原と弥生はギョッとして、伊代を見た。しかし、伊代はまだ気を失ったままだった。
「先生、これからどうしましょう?」
弥生が不安そうに訊く。
「まずは小町君と信二君がここに来たら、みんなでボートに乗ってイベント会場に戻ろう。それまでに、邪馬台国の人たちが元に戻っていればいいけど……」
「小町先輩と信二、遅いわね。大丈夫かな」
弥生は森のほうを見る。
そのとき、森から誰かが走って来るのが見えた。遠いのでよく見えなかったが、走ってくる人物は二人いた。
「小町先輩! 信二!」
弥生は笑顔になって大声で叫んだ。
だが、その笑顔は一瞬で消えた。
やって来たのは、文化財保存推進協会チームの石川と富子だった。
「ようやく追いついたな」
石川は息を切らしてハアハア言っている。
「あんたがもっと速く走れたら、すぐに追いつけたのよ」
富子があきれた表情をして石川を見る。富子にはあまり疲れた様子はなかった。
「あいつらだ! でも、あいつらも二人しかいないですね」
「それより、あいつらが来たということは信二は……」
弥生が泣き出しそうな顔をしている。
「君たち、信二君をどうした?」
藤原が訊く。
「知らねえな。まあ、松永と斎藤が相手じゃ、あのガキもただじゃ済まないだろうな」
石川が笑いながら答える。
「先生、それよりいい加減お宝を渡してくれないかな。なんなら、卑弥呼が乗り移ったそのガキでもいいぜ。そいつは何か持っていそうだ」
石川が伊代を見てニヤニヤしている。
「誰があんたたちなんかに伊代ちゃんを!」
弥生が言い返す。
「まあいい。じきにあいつらも戻ってくる。そのときに全部いただくぜ」
そのとき、誰かが森の中から出てくるのが見えた。
「松永と斎藤だな。あいつらにしては遅かったな」
と言って石川が振り向くと、
「何!」
石川が目をむいた。やって来たのは松永と斎藤ではなかった。
「信二! 小町先輩!」
弥生が泣きながら大声で叫んだ。
小町が足を怪我した信二を肩に抱えながらやって来た。
二人を見た弥生が、二人のところに近づいてこようとしたのを小町が制した。
「先生、護衛が追ってくるわ。すぐに逃げて!」
「しかし……」
藤原が戸惑っていると、小町が叫んだ。
「私たちは大丈夫。後から追いかけるから早く行って!」
「わかった。弥生君、金次郎君、行こう」
そのまま藤原らはモーターボートに乗ったが、弥生だけがまだ乗らずにボートの前に立っていた。
「弥生! さっさと行け!」
信二が叫ぶと、弥生は「わかった」と力強くうなずいてボートに乗った。
藤原らの乗ったモーターボートがイベント会場に向かって走り出した。
「小町!」
そのとき、小町を見つけた富子が、驚いた顔をして急に叫んだ。
「誰? まさか……富子!」
「小町、久しぶりね」
小町に久しぶりに会った富子が再会を喜ぶ……はずはなかった。
その表情は憎悪に満ちていた。
「小町……今は大学でミスキャンパスですって? 相変わらず男に媚びるのだけは上手ね」
と皮肉を込めて言う。
「こんな悪党のメンバーに成り下がったあんたには言われたくはないけどね」
小町が言い返す。
「あんたなんかに言われる筋合いはないわよ!」
富子が小町を睨みつける。
「おい、何やってる。俺たちもボートで追うぞ」
石川がイライラしながら富子を見る。
富子は舌打ちして、石川のほうに向かった。
「言っとくけど、モーターボートはさっきの一台しかないわよ。今さら手漕ぎボートで追ってもムダよ」
小町は、ここに来たときに、モーターボートは自分たちが乗ってきた一台しかなかったのを知っていた。そして、その一台はすでに藤原らが乗っていったので、勝ち誇ったように微笑む。
「さすが小町先輩。そこまでわかっていて、みんなを先に行かせたんですね」
「まあね」
石川と富子は、小町の言葉など気にせず必死にモーターボートを探している。
「だから、探すだけ無駄よ」
と小町がつぶやいた瞬間、
「あったわ!」
富子が叫ぶ。
「えっ!」
小町が意外そうな顔をする。
富子と石川がモーターボートに乗り込んでいる。
「そういえば、イベント会場にはモーターボートは何台かあったわ。卑弥呼が復活してイベント会場にいた関係者が邪馬台国に来るときに、それに乗ってきたんだわ」
小町が「しまった」という顔をする。
「私としたことが、うっかりしてたわ」
「小町先輩……」
信二はあきれた顔をしている。
石川らはボートのエンジンをかけるとすぐに、藤原らのボートを追いかけていった。
「信二君。というわけだから、私たちもあいつらを追うわよ!」
「は、はい」
何が「というわけだ」と思いながらも、信二もボートのほうへ向かった。幸いまだモーターボートが残っていた。
小町と信二もボートに乗って、石川と小町を追いかけた。
藤原はここで小町と信二を待つことにした。
伊代はまだ気を失ったままだった。
「伊代ちゃん、大丈夫?」
弥生が伊代に声をかけたが、返事はなかった。
「先生。伊代ちゃん、いや、卑弥呼は鏡を見たらなぜ気を失ってしまったんでしょうか?」
藤原が少し間を置いてから答える。
「あの環濠集落には鏡が二枚あったんだ」
「二枚?」
「ああ。ひとつは主祭殿にあったもの」
「僕たちが手に入れたものですね」
金次郎の言葉に藤原がうなずく。
「君たちが手に入れた鏡が卑弥呼を復活させるのに必要なものだったんだ。他に二つの道具とこの勾玉も必要だったみたいだけどね」
藤原は伊代の首にかけられている勾玉のネックレスを見る。
「そして、もうひとつの鏡は、あそこの環濠集落の支配者の住居、おそらくその中の寝室と思われる場所にあったんだ。これが反対に卑弥呼を封じ込めるのに必要なものだったんだよ」
「ひとつが復活のためのもので、もうひとつは封じ込めるためのもの……」
弥生が藤原の言葉を繰り返しす。
「もちろん、科学的にはこんなことは説明がつかない。でも、古代から鏡は神聖で特別なものとされていた。昔から、鏡には不思議な力が宿っていると考えられていたんだよ」
「ということは、復活した卑弥呼は封じ込められて、もういなくなったということでしょうか?」
金次郎が尋ねる。
「そうだと思う。だからこそ、伊代君は気を失って、それ以降卑弥呼は出てこないんだと思う」
「でも、邪馬台国に集まってきた人たちは、まだ卑弥呼が復活する前の状態には戻ってないみたいですよね。私たちを追いかけて来てますし」
弥生が心配そうな顔をする。
「そうだね。卑弥呼が復活したから、彼らにも昔の邪馬台国の人たちが乗り移った。卑弥呼がいなくなったら、彼らも元に戻ってもいいはずなんだが……」
藤原が首をかしげる。
「ひょっとして、卑弥呼はまだ封じ込められていないとか?」
金次郎の言葉に藤原と弥生はギョッとして、伊代を見た。しかし、伊代はまだ気を失ったままだった。
「先生、これからどうしましょう?」
弥生が不安そうに訊く。
「まずは小町君と信二君がここに来たら、みんなでボートに乗ってイベント会場に戻ろう。それまでに、邪馬台国の人たちが元に戻っていればいいけど……」
「小町先輩と信二、遅いわね。大丈夫かな」
弥生は森のほうを見る。
そのとき、森から誰かが走って来るのが見えた。遠いのでよく見えなかったが、走ってくる人物は二人いた。
「小町先輩! 信二!」
弥生は笑顔になって大声で叫んだ。
だが、その笑顔は一瞬で消えた。
やって来たのは、文化財保存推進協会チームの石川と富子だった。
「ようやく追いついたな」
石川は息を切らしてハアハア言っている。
「あんたがもっと速く走れたら、すぐに追いつけたのよ」
富子があきれた表情をして石川を見る。富子にはあまり疲れた様子はなかった。
「あいつらだ! でも、あいつらも二人しかいないですね」
「それより、あいつらが来たということは信二は……」
弥生が泣き出しそうな顔をしている。
「君たち、信二君をどうした?」
藤原が訊く。
「知らねえな。まあ、松永と斎藤が相手じゃ、あのガキもただじゃ済まないだろうな」
石川が笑いながら答える。
「先生、それよりいい加減お宝を渡してくれないかな。なんなら、卑弥呼が乗り移ったそのガキでもいいぜ。そいつは何か持っていそうだ」
石川が伊代を見てニヤニヤしている。
「誰があんたたちなんかに伊代ちゃんを!」
弥生が言い返す。
「まあいい。じきにあいつらも戻ってくる。そのときに全部いただくぜ」
そのとき、誰かが森の中から出てくるのが見えた。
「松永と斎藤だな。あいつらにしては遅かったな」
と言って石川が振り向くと、
「何!」
石川が目をむいた。やって来たのは松永と斎藤ではなかった。
「信二! 小町先輩!」
弥生が泣きながら大声で叫んだ。
小町が足を怪我した信二を肩に抱えながらやって来た。
二人を見た弥生が、二人のところに近づいてこようとしたのを小町が制した。
「先生、護衛が追ってくるわ。すぐに逃げて!」
「しかし……」
藤原が戸惑っていると、小町が叫んだ。
「私たちは大丈夫。後から追いかけるから早く行って!」
「わかった。弥生君、金次郎君、行こう」
そのまま藤原らはモーターボートに乗ったが、弥生だけがまだ乗らずにボートの前に立っていた。
「弥生! さっさと行け!」
信二が叫ぶと、弥生は「わかった」と力強くうなずいてボートに乗った。
藤原らの乗ったモーターボートがイベント会場に向かって走り出した。
「小町!」
そのとき、小町を見つけた富子が、驚いた顔をして急に叫んだ。
「誰? まさか……富子!」
「小町、久しぶりね」
小町に久しぶりに会った富子が再会を喜ぶ……はずはなかった。
その表情は憎悪に満ちていた。
「小町……今は大学でミスキャンパスですって? 相変わらず男に媚びるのだけは上手ね」
と皮肉を込めて言う。
「こんな悪党のメンバーに成り下がったあんたには言われたくはないけどね」
小町が言い返す。
「あんたなんかに言われる筋合いはないわよ!」
富子が小町を睨みつける。
「おい、何やってる。俺たちもボートで追うぞ」
石川がイライラしながら富子を見る。
富子は舌打ちして、石川のほうに向かった。
「言っとくけど、モーターボートはさっきの一台しかないわよ。今さら手漕ぎボートで追ってもムダよ」
小町は、ここに来たときに、モーターボートは自分たちが乗ってきた一台しかなかったのを知っていた。そして、その一台はすでに藤原らが乗っていったので、勝ち誇ったように微笑む。
「さすが小町先輩。そこまでわかっていて、みんなを先に行かせたんですね」
「まあね」
石川と富子は、小町の言葉など気にせず必死にモーターボートを探している。
「だから、探すだけ無駄よ」
と小町がつぶやいた瞬間、
「あったわ!」
富子が叫ぶ。
「えっ!」
小町が意外そうな顔をする。
富子と石川がモーターボートに乗り込んでいる。
「そういえば、イベント会場にはモーターボートは何台かあったわ。卑弥呼が復活してイベント会場にいた関係者が邪馬台国に来るときに、それに乗ってきたんだわ」
小町が「しまった」という顔をする。
「私としたことが、うっかりしてたわ」
「小町先輩……」
信二はあきれた顔をしている。
石川らはボートのエンジンをかけるとすぐに、藤原らのボートを追いかけていった。
「信二君。というわけだから、私たちもあいつらを追うわよ!」
「は、はい」
何が「というわけだ」と思いながらも、信二もボートのほうへ向かった。幸いまだモーターボートが残っていた。
小町と信二もボートに乗って、石川と小町を追いかけた。