第32話 邪馬台国

文字数 1,311文字

「弥生、弥生……」
 弥生はふと誰かに呼ばれた気がした。
 頭がぼーっとしている。ここはどこかしら。確か、洞窟の中で急に水が流れてきて、そのまま流されちゃって……
「弥生!」
 大声で呼ばれたので、今度は弥生もはっきりと気づき、ぱっと目を開けた。
 目の前には信二がいた。そして、その隣には伊代と金次郎もいる。
 弥生は、自分が気を失っていたことに気づいた。
「みんな無事だったのね。ここは?」
「洞窟の奥のほうに流されちゃったみたいですよ」
 弥生を心配そうに見ていた伊代が言う。

 四人が流されてたどり着いた場所は、洞窟の中とは思えないほどかなり広大な空間だった。
 しかも、どこからか外の光が差し込んでくるのか、不思議と中は明るかった。
「すごい広さね」
 弥生が辺りを見回す。
「野球やサッカーができるくらいですよ」
 金次郎が答える。
「でも、ただの広い空間ってだけじゃないみたいね」
 弥生が何かに気づいたようだ。
「どういうことだ?」
「周りをよく見て。ここはただの広い空間ではなくて、周囲が柵で囲われたようになっているわ」
 弥生の言う通り、広大な空間の周囲は柵のようなもので囲われていた。
「本当だ。柵がありますね。柵を越えてその中まで流されてきたから、気づかなかったんですね」
 金次郎が周囲の柵をきょろきょろと見る。
「それに、奥のほうに大きな建物のようなものがあるわ」
 と言って、弥生が指さした先、広場の奥のほうには、大きな建物があるのが見える。
 四人は惹きつけられるように建物に向かって進んでいく。
「すごい」
 建物の前に来た四人は、息をのんで建物を見上げた。
 そこには大きな建物が二つあった。
 ひとつは櫓のようだった。三階建てになっている。
 もうひとつは宮殿のようなものだろうか。かなりの広さをもつ二階建ての建物だった。
 その他にもいくつかの建物が並んでいる。

「まさか……」
 弥生は息をのんだ。
「『魏志倭人伝』によれば()国の次は不弥(ふみ)国。その次は投馬(とうま)国。そしてその次の国は……。そしてその国には、宮室、楼観、城柵があった……」
 弥生が目の前の建物を見てつぶやくと、
「ここにあるのは宮殿と思われる建物、三階建ての櫓つまり楼観、周囲には柵……同じね」
 緊張した面持ちでうなずく。
帯方郡(たいほうぐん)狗邪韓国(くやかんこく)対馬(つしま)国、一支(いき)国、末盧(まつら)国、伊都(いと)国、()国、不弥(ふみ)国、投馬(とうま)国。そして次は……」
 四人が声を合わせて邪馬台国へのルートを口にする。四人の声は震えていた。
「つまり、ここが……」
 弥生の言葉に、三人が大きくうなずく。
 そして、四人は声を揃えて叫んだ。
「邪馬台国!」

「ついにたどり着いたな」
「やっとね」
「長かったですね」
「私たち、来たんですね」
 四人が改めて周囲を見回した。
 洞窟内のこの空間にこれだけの規模の集落、というか都市があったこと、それが今も残っているということ、に驚いて声も出ない。
 四人はしばらくの間、感動の余韻に浸っていた。

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登場人物紹介

出雲 弥生(いずも やよい)


東静大学古代史研究会 副部長 2年生 

武田 信二(たけだ しんじ)


東静大学古代史研究会 部長 2年生 

桜井 伊予(さくらい いよ)


東静大学古代史研究会 1年生 

鹿島 金次郎(かしま きんじろう)


東静大学古代史研究会 1年生

姫野 小町(ひめの こまち)


東静大学古代史研究会 4年生 

藤原 大和(ふじわら やまと)


東静大学古代史研究会 顧問 講師 

粋間(いきま)


ヒストリートラベル株式会社 社長

美馬(みま)


ヒストリートラベル株式会社 部長

梨目(なしめ)


ヒストリートラベル株式会社 主任

石川(いしかわ)


文化財保存推進協会 リーダー

富子(とみこ)


文化財保存推進協会 メンバー

松永(まつなが)


文化財保存推進協会 メンバー

斎藤(さいとう)


文化財保存推進協会 メンバー

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